第10話 【月夜side 】運命の出会い ②






 放課後、逆瀬川くんと通学路を歩いていた。




 道中で逆瀬川くんからなぜ私が『星月かぐや』だということに気づいたかについて教えてもらっていた。





「姫路さんの声を聞いたときに懐かしいような気持ちになったんだ」



 声を聞いて思い出してくれたこと。 




「ほら、姫路とかぐや姫、月夜の星月夜で星月、でしょ?」



 名前から連想したこと。



 

「好きなものが苺っていうところが同じだなとか繋がりを意識しちゃって……」



 好きなものが同じだったからということ。




 この特徴的な声が役に立つときがくるなんて。


 見た目と合っていないこの声が彼と私を惹き合わせてくれたかと思うと、この声で良かったと思った。


 名前は中学生のときにつけた安直な名前だったから、なんだかくすぐったかった。


 好きなものを覚えてくれたことが嬉しかった。




 

 そして、最後に逆瀬川くんは私のカバンに付いているキーホルダーを指さした。




 Vさんが私のためだけに描いてくれたマスコットキャラクター、ちちゃきゃわ。




 配信中の心ないコメントや、リアルでミスをしたとき、このキャラを主役にした漫画を通して彼はいつも私を勇気付けてくれていたのだ。

 このキャラを見ていると元気が湧いてくる、いつでも見られるようにとキーホルダーを自作するくらいには好きなのだ。



 

 私とVさんだけが知ってる大切な思い出。

 疑っていたワケじゃないけど、このとき逆瀬川くんがVさんであるということを確信した。




 ちなみに、このちちゃきゃわ以外にもシチサンというキャラのぬいぐるみを作っていつも一緒に寝ていることはまだ内緒。




「で、ここからが本題なんだけど。姫路さんはVで配信してる時は普通に話せるのに、どうしてリアルでは上手く話せないんだろうね」



「そ、それが……。わ、私……背も高くて、目つきも鋭くて……。こんなんじゃなくて、小さくて、可愛くなりたかったの……だから、Vtuberを始めたの……。V体だったら、私じゃ、ないから……話せるの……かな?」



 

 それについて私は自分の考えを話した。



 すると逆瀬川くんはなにかを思い付いたかのような顔をしたあと、私の手を取って走り出したのだった。



 ちょ、ちょっと! え!? 手、繋いじゃってるんですけど!?



 というかいったい、どこにいくの!?

 


 ○ ●




 言われるがままに連れて来られたのは、コスメショップだった。




 昔にお姉ちゃんと同じような場所に来たけど、あまり良い思い出がない。




 なぜならこういう場所は気の強そうな女性が、高圧的に話しかけてくるからだ。

 メイクもしてもらったけど、完成した顔は濃くてキツいおばさんみたいだった。

 それ以来、私はコスメショップに立ち入ることがなくなった。



「じゃあ、いくよ。目を閉じてて……」

 

「……は、はい!」




 でも逆瀬川くんになら……自分の身を委ねてみても良いのかな。



   

「姫路さんはくすみもない綺麗な肌をしてるから下地からで大丈夫そう!」


「き、きれい……?」


「うん! とっても綺麗だよ。」


「………うぅ」



 近くで声が聞こえてくる。は、恥ずかしい……でも、嬉しい!



「すんごいキュートな感じになった!」


「きゅきゅきゅ、きゅーと……!」


 

 逆瀬川くんがひとつひとつ丁寧に説明してくれながらメイクアップしてくれてる。


 でも正直頭に入ってこないよぉ……。 



「姫路さんって付けまつ毛してるくらいまつ毛が長くてすごい綺麗!」


「しょ、しょうでしゅか……」



 急に頭がポンと熱くなって、そこからはあまり記憶がない。




「姫路さん、目を開けて?」




 そう声をかけられて我に返った。



 

 目を開け、鏡を見るとそこには見知らぬ人がいた。

 それが自分であるということに気づくのには少し時間が掛かった。



 

「す、すごい……これが私!? かわいいー!」




 なりたかった姿、なれないと思っていた姿が目の前にあった。 

 自分で自分のことを褒めたりなんか決してしないのだけど、今の私はとてもかわいいと心から思えた。




「すごい、すごいよ逆瀬川くん! こんなの私じゃないみたい!」



「僕は全然すごくないよ、先生と比べるとまだまだだし……。僕はただ姫路さんの持ってるすごいポテンシャルを違う方向に持っていっただけだよ」



 逆瀬川くんはそう謙遜するけど絶対にそんなことない!

 それを伝えなくちゃと、いつもよりも言葉がどんどん出てくる。



 

「ううん! 絶対にそんなことない! すごいよ! 自分でメイクしてもこんなことならないし、美容部員さんにしてもらったことがあるけど……それよりもすごい!」




「はは……大袈裟だなぁ」



「うぅ……ホントのことなのに……」



「というか姫路さん、普通に話せてない?」




 いつのまにか配信してるときみたいに普通に話せていることを指摘されて気づく。



「あ、ホントだぁ! もしからしたらメイクで自分じゃない姿になったからかも? なんだか自分じゃなくてV体で話してるみたいな感覚があるの」



「やっぱり! そうなれば良いなって思ってたんだ」






「こんなの初めてだよ。生まれ変わった気分!」






 あぁ……、逆瀬川くんは何度私を救ってくれるんだろう……。






 私は胸の中に芽生えていた気持ちの正体を理解した。


 




 そう……これは……。






 

「ありがとうね逆瀬川くん」








 これは……恋だ。







○ ●

 






「ごめんなさい、私たち今からデートなんです!」



「ひ、姫路さん!?」



「逆瀬川くん、行こっ!」





 逆瀬川くんが美容部員さんに話しかけられていて困っていたから、つい助け舟を出しちゃった。



 私が助けてもらったことに比べればとても小さいことだけど、こうして少しずつ返していこう。



 

 あと、勢いで手を繋いじゃったけど不自然じゃなかったかな?


 でも、いいよね。


 さっき逆瀬川くんもしてたし、お返しだよ。




 逆瀬川くんに私のことを意識してもらわなくちゃと思うと自然に体が動いた。



 

 うぅ、顔が熱い。いまの私の顔は赤くなっているだろう。

 メイクしてもらったのに台無しになってないかな?



 

 逆瀬川くんの前を歩いているから彼にはバレてないはず……だと思いたい。


 

 それから私は、ネットで昔見たことがある定番の放課後デートプランに付き合ってもらった。

 逆瀬川くんの服の好みを知るために服屋さんに行って、2人の思い出を残すためにプリクラを撮って、クレープを食べながら並んで歩く……




 

 これってデートだよね! ね! ねぇ!?






 

 むふふ、と1人で喜びを噛みしめていた時だった。





 逆瀬川くんの名前が呼ばれ、私はその場で振り返った。





 ○ ●





 振り返るとそこには昨日の不良二人組と、その二人よりも一回り大きなボスのような男の子がいた。

 逆瀬川くんはそれをまたすぐにやっつけちゃった。



 

 三人が不良になった理由は、コンプレックスが原因だという。




 元から悪い人なんていないと私は思う。

 生きてる中で、その環境で、少しずつ少しずつ歪んでしまうんだ。

 そう、私と同じみたいに。




 この三人を助けてあげたいと思った。

 でも私にはどうすることも出来ない。




 けれど逆瀬川くんだったら……。




「逆瀬川くん、みんなにメイクしてあげてくれないかな……?」




「ん? ……あぁ、そうだね!」



 私は逆瀬川くんだったらどうにかしてくれると思い、みんなにメイクをして貰うことを提案したのだった。





 ○ ●



「すげぇ!」「これが!」「俺たち……っ!?」




 私の狙いは大成功だった!




「見た目はこうして変えることが出来るけど、まずは自分を好きになってあげて。気に入ってるところは伸ばして、嫌だなって思うところも自分だから認めた上で諦めずにどうするか考えていこうよ。そうすることで見た目と同時に心も少しずつ成長していくはずだから。そしたらモテる男になるんじゃないかな? ってまぁ僕が言っても説得力ないか……はは」




 私に言ってくれたわけじゃないはずなのに、私まで感動してしまった。

 逆瀬川くんの言う通り私も少しずつ成長していこうと思う。




 三人はこれから心を入れ替えて生きていくみたい、ホント良かった。



 

 でもやっぱり逆瀬川くんはすごいなぁ……。

 こんなすごい人を追い出した家族はよっぽど見る目がないんだろうなと思う。




「ふぅ、三人が不良じゃなくなってよかった。あれ、もう日が暮れてる! 僕たちも今日はもう帰ろうか?」




 え、気がついたらもうそんな時間!? 

 苺ドーナツ食べそびれちゃったな。

 もっと色々と出かけたかったのに……。




「また2人でゆっくり遊びに行こうね、苺ドーナツはその機会にしよ!」




 また一緒に出掛けてくれるの!? やった!

 苺ドーナツ、食べれなくてむしろ良かったかな……?


 明日また学校でも会えるし、嬉しいことがいっぱいだよぉ!

 

 

 私は逆瀬川くんと過ごした今日のこと一生忘れることはないだろう。 


 

 こんな素敵な思い出が少しずつ増えていけばいいな。



 そんなことを願い、私は柄にもなく鼻歌を歌いながら帰り道を歩いたのだった。



―――――――――――――――――――

【あとがき】

ここまでお読みいただきありがとうございます!

明日からは1日1話投稿になります!


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