第9話 【月夜side 】運命の出会い ①
私は姫路月夜、普通の高校3年生。
ううん、クラスでは氷の女王なんて呼ばれているちょっと変わった高校3年生。
……本当のことを言うと。Vtuberの星月かぐやとして活動しているかなり変わった高校3年生。
周りとは違うという自覚は……ある。
小さい頃からこの見た目のせいで、思ってもない評価をされる。
勉強ができると「地頭が良い」と言われ、
スポーツができると「才能がある」と言われ、
上手く話せなくても「クール」と言われ、
可愛いのもを持ってると「意外」と言われた。
勉強もスポーツもみんなに溶け込めるかなと努力したのに、
本当は上手く話せないだけなのに、
純粋に可愛いものが好きなだけなのに。
誰も自分のことを見ていない気がした。
この姫路月夜というパッケージから想像される理想を、私の中に見ているようだった。
私はお姉ちゃんみたいに可愛く生まれたかった。
この大きな体も、冷たく見える顔も全部が嫌だった。
そう悩んでいた時、あるものと出会った。
それがVtuberだった!
そこには自由な世界が広がっていた。
私はすぐにその世界に夢中になった。
好きな見た目になって、好きなことをして良いんだ!
そう思った私は、すぐにV体や機材や設備などいろいろな準備をした。
始めた当時はVtuber自体が少なかったから、ただ雑談配信しているだけでも物珍しさにある程度の人が来てくれた。
今では多くの人が私の配信や動画を見てくれている。
『姫路月夜』じゃなくて『星月かぐや』として、先入観なく話を聞いてくれていることが嬉しかった。
可愛いもの好き以外にも、実は私はゲームをしたりアニメを見たり、家でぐーたらするのが大好きだった。
私はいつものように過ごしていることを配信しているだけ、なのにそれを肯定してもらえるのが心地良かった。
でもヴァーチャルでは出来ないことがある。
それは……、お食事!
普段はネットで注文して配達してもらっているけど今回はそうはいかない。
私の食べたい限定のデラックス苺パフェを出すファミレスはこのご時世に珍しく配達をしていない。
だから現地に足を運ばないといけないのだ!
今日は絶対に限定のデラックス苺パフェを食べに行くぞ!
そう決意して、珍しく休日に外に出たのだった。
○ ●
「やめなよ」
不良二人から私を救ってくれたのは、私より小さい男の子だった。
自分よりも大きな男性を相手に立ち向かい、あっという間にやっつけてしまった。
その姿が、私の目には絵本の中のナイトのように光輝いて見えた。
す、すごい! かっこいい!
「大丈夫?」
1人でなんでも出来そうといつも言われてきた私だったから、心配されることは久しぶりのことでとても嬉しかった。
「怖かったよね? もう大丈夫だから」
大丈夫だから、その一言に私はとても安心感を覚えた。
それと同時に男の子は背伸びをして私の頭を柔らかく撫でてくれた。
あぁ、頭を撫でられるってこんなに嬉しいんだ。
顔が熱くなって、なんだか心もあったかくなる……。
「ご、ごめん! ……つい」
男の子は撫でている手を引っ込めてしまった。
うぅ……。もっと撫でて欲しかったなぁ。
あ、そうだ! お礼を言わなくちゃ!
「その……助けて頂いて、ありがとう……ございます……」
「え、あぁ……うん。気にしないで! 普通のことをしただけだから」
これが普通のこと!?
私が男性だとしたら、自分よりも大きい男性2人に立ち向かえるとは思えないよ。
本当にすごい、と心から尊敬した。
でも、それと同時に、私にとっての特別が男の子にとっては普通なのかとどこか悔しくなった。
私だから助けたんだよ、と言ってもらえるのをどこか期待してしまっていたのだ。
特別扱いはイヤなはずなのに、この人には特別扱いをして欲しくなっている自分がいた。
「それじゃあね」
待って、行かないで! もっとあなたのことが知りたいの!
そう言いたいけど言えない自分が歯がゆい。
去っていく背中を見つめていると、男の子が急に倒れた。
私はすぐに駆けより男の子を抱き起こす。
髪の毛がサラッと流れ、今まで隠れていた瞳があらわになる。
え、目がまん丸くて大きくてかわいい!! どうして隠しているんだろう……。
それに顔も小さくて女の子みたい……。
「ごめん、もう限界かも……」
だめだ、だめだ。今は男の子の顔のことを考えている場合じゃないの!
どうしたら良いか分からずに、ひとりで慌てていたその時。
ぐうぅ、と男の子からどこか間抜けな音がした。
すると男の子は少し恥ずかしそうに、ゆっくりと口を開いてこう言った。
「お腹……すいた……」
ん!?
お腹すいただけ!?!?
お茶目で可愛すぎません!?!?!
○ ●
目の前ではもぐもぐと美味しそうにご飯を食べる男の子の姿があった。
(うーん、小型犬みたいで愛くるしいよぉ!)
男の子は逆瀬川伍くんというそうだ。
(男らしくてかっこいい、良い名前だなぁ)
彼は、私が苺パフェを食べていてもなんの偏見もなく肯定してくれる。
女の子だったらそれが普通だと、私を普通の女の子扱いをしてくれる。
それが心地よくて嬉しかった。
ふふ、ニヤけて笑ってしまっているのが自分でも分かる。
「はい……! 普通……です!」
そういって、私は誤魔化すようにパフェを食べたのだった。
少し前の会話で気になることがあって、パフェを食べながらも聞こうか聞かまいか悩んでいた。
彼のことがもっと知りたい。
そんな想いに突き動かされた私は、パフェを食べ終わったこのタイミングで聞くしかないと決意し、思い切って逆瀬川くんに聞いたのだった。
逆瀬川くんのバツが悪そうな、悲しそうな顔を見て私は後悔をした。
会ったばかりの人間が興味本位で聞くことじゃなかったのだ。
すぐに謝った私を彼は許してくれたあと、これまでのことを話してくれたのだった。
○ ●
明るい逆瀬川くんからは想像もつかないほど、過酷な状況に身を置いていたことを知った私は涙が止まらなかった。
美味しいご飯を食べたのが久しぶりで栄養ゼリーばかり食べていたこと。
ファミレスに来たのが初めてで、ご飯ばずっと一人だったということ。
家族がいないということ。
冗談だと思いたい数々のことが真実だったなんて……悲しすぎる。
逆瀬川くんの家族たちを私は許すことができそうにない。
仕方ないと力なく笑う姿を、見ているだけの自分が悔しい。
もしも私が上手く話せたら、多くの言葉で逆瀬川くんを慰めてあげることが出来ただろうに……。
それから少ししてから、私たちは解散した。
うぅ……連絡先聞けなかった……。
解散したあとで酷く後悔した。
臆病な私は、連絡先を教えてのひとことが言い出せなかったのだ。
あーあ、私は普段、外に出ないからもう会うこともないんだろうなぁ。
今後はこの街に住むみたいだし、外出したらまた会えるのかな?
だったらこれからは休みの日は外出しようかな……。
また……、逆瀬川くんに会いたいな。
悶々とした気持ちを抱えたまま、その日は配信をすることなく眠りについた。
○ ●
翌朝、登校すると転校生が来るとクラスメイトが騒いでいた。
私には関係がないと、特に気にすることなくいつも通り席についた。
それから先生が転校生を呼び、入ってきた人物を見て驚いた。
なんと、そこに現れたのは昨日会った逆瀬川くんだったからだ。
(嬉しい、嬉しい、嬉しい! これって運命かな?)
(あー、今日も小さくてきゅるんとしてて、てぇてぇねぇ!)
そして、逆瀬川くんは私の横の席に座るのだという。
先生にありがとうと感謝の気持ちを伝えたい気分だった。
まぁ、人と話すのが苦手だからそれは無理なんだけど……。
名前は分からないクラスの問題児である人が絡んでいっても、さらっとスマートに対応している逆瀬川くんにはさすがのひとことだった。
強いのにお裁縫まで出来るってどういうこと!? 女子力高すぎない!?
「姫路さんもこの学校だったんだね、これから同級生としてよろしくね」
席についた逆瀬川くんは私に声をかけてくれた。
きゃーっ! すぐに話しかけてくれるんなんて嬉しい!
頑張れ私、返事をするのよ!
「よ、よろしく……お願いし、ます」
よし! 普通に会話できた!
周りの目があって恥ずかしかったけど、頑張ったよ。
だって逆瀬川くんに嫌われたくないもんね。
○ ●
お昼休憩になるとすぐに逆瀬川くんが一緒にご飯を食べようと誘ってくれたので、屋上に行くことを提案した。
なぜなら、そこでだったら人目を気にせずに話せるだろうと思ったからだ。
普段、私は屋上でお昼を食べている。
そこは誰も来なくて静かな場所だから、私のお気に入りなのだ。
「もう会えないんじゃないかと思ってたのに、同じ学校で同じクラスなんて驚いたよ!」
「……わ、私も……驚きました」
うん、本当に驚いた。同じ学校で、同じ学年で、同じクラスだなんて。
運命だと勘違いしてしまうほどに私が驚いていたことに彼は気づいていないんだろうなぁ。
「それにしても、姫路さんはどうして氷の女王って言われてるの?」
「そ、それは……!」
え、やっぱり変な呼ばれ方されてるのに気づかれてるよね!?
は、恥ずかしいよぉ!!
「おかしいよね、姫路さんが氷の女王だなんてさ。なにか理由があるんじゃないかなって思って」
うーん、と頭を悩ませている様子を見ていると、私のことを本気で心配してくれていることが伝わってくる。
逆瀬川くんなら……、また私を救ってくれるのかな……。
そんな期待が私の口を動かした。
「恥ずかしい、お話、なのですが……」
そう切り出して、これまでの経緯を話したのだった。
○ ●
逆瀬川くんが優しく見つめながら、急かすことなく相槌を打ってくれたおかげでなんとか全てを話すことができた。
話し終えた私はそのままの勢いで、あることを提案した。
「私と、お昼にここで、お話して……欲しいんです……!」
他の人と違って逆瀬川くんとならうまく話せるから私の悩みを解消できるんじゃないか、というのは建前で……
人の目がない場所でゆっくりと逆瀬川くんと話したいという私のわがままだった。
「もちろんいいよ! だって僕らは友達でしょ?」
そう言って彼は快く引き受けてくれた、けれどある言葉に引っかかった。
「と、ともだ……ち?」
「あれ……違った?」
友達がいない私がこんなことを言われるのは本来だったら嬉しいはず……。
なのになぜか胸がチクリと痛んだ。
「い、いえ……友達、です」
「だよね!」
「……むぅ」
今はこう返すしかなかった。そう、今は……。
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