裏方でサポートしてた芸能一家を追放された僕は、普通の青春を謳歌したい。〜なぜかアイドルや俳優、モデルが推しかけてきて困ってるのに、隣の席の氷の女王が人気Vtuberなのを僕だけが知ってる件について〜
第8話 【元家族side】取り返しのつかないこと【六槻】
第8話 【元家族side】取り返しのつかないこと【六槻】
「おい! どうなってんだよ新人! お前のせいでとんだ赤っ恥かいちまったじゃねぇか!」
「す、すみません!」
仕事帰りのタクシーの中のこと。
天ヶ咲事務所の新人マネージャーである
「テメェなんで起こさなかったんだよ! そのせいで遅刻したじゃねぇか!」
「い、いえ。私は起こしました!」
「はぁ? オレが起きてなかったら起こしたと言えねぇだろが! チッ」
「そんな……。何回も何回も起こしましたよ……」
(引き継ぎの資料に寝起きが悪いって書いてあったけど、こんなことになるなんて……)
六槻はイライラが止まらず舌打ちを打つ。
その隣で里麻は非常に焦っていた。
「起こしたっつう行為は100歩譲って認めてやるよ。でもよ、現場に向かう車中でヘアセットやメイクぐらいしろよな!」
「そ、そんなの出来ませんよ。私はマネジメントや営業は学校で習いましたがヘアセットやメイクなんて習ってないんですから……車の中で自分のメイクも上手く出来るか分からないのに、ましてや撮影用の繊細なメイクなんて出来るわけがありません」
「ああん? 現場入りして服着替えたら即撮影できる状態にしながら向うもんだろ普通。だからギリギリまでオレは寝てんだからよ」
「え、普通はそうじゃないです……早めに向かって、ヘアメイクさんに時間をかけてメイクしてもらう必要があります……」
里麻は驚いたあとに、意を決して伝えた。
「なに、オレが間違ってるっていうのかよ? 芸能界に居るのはオレの方がなげぇんだぞ? さてはお前、成績優秀とかウソついて天ヶ咲事務所に入ってきたんだろ」
「いえ、ちが……」
「はぁ……もう言い訳は聞きたくねぇ。新人っつうことで今回のことはオレの広い心で大目に見てやるよ。だけど次、ミスったら分かってんだろうな? お前の代わりはいくらでもいんだからな」
六槻はギロリと里麻を睨んだ。
その怖さに圧倒された里麻はこくこくと頷くしかなかった。
(どうして私が怒られているの。確かにタレントを遅刻させてしまって管理ができてなかったけど、朝起こすのからするなんてそんなの子どものお守りじゃない。それに、伍先輩の元で色々と学べると思ったのに、勝手にやめてどこかにいなくなってたなんて……。引き継ぎの資料はとてもすごかったけど、即実践投入されて資料を読む時間がない……。それに他の姉妹たちを私ひとりで見るなんて無理だ。伍先輩、帰ってきてください……)
○ ●
「マジでイライラするぜ、あの新人のせいでなんでオレが怒られねぇといけねぇんだよ」
六槻は家の玄関で、乱暴に靴を脱ぎなら愚痴を吐いていた。
それが見当違いであるということの自覚は本人にはまるでなかった。
「こういう時は、アレに限るな」
仕事から帰ってきたその足で冷蔵庫に向かった。
「お、あったあった」
取り出したのは缶ビールだった。
六槻は伍と同じ年齢で18歳、当然、飲むのは法律違反だった。
「あいつがいなくなったらから酒も解禁だぜ。オレが飲もうとするとどこからともなく現れて止めてくるんだもんな、うぜーったらありゃしなかったぜ。」
おつまみもちゃっかり用意した六槻は自分の部屋に向かった。
部屋に到着しテーブルにおつまみを並べたあと、缶ビールを指をかけた。
プシュッと心地良い音がしたかと思うと、次の瞬間にゴクゴクと一気に飲み干した。
いつも彼女を止めてくれた優しい兄はもういない。
「ふぅーやっぱ酒は良いな。芸能界はこれがなきゃやってらんねぇよ。最近はアスタリスク、アスタリスクって世間が騒いでてうぜーしよ。あいつら支持してる奴ら全員見る目ねぇよ」
世間のアイドルへの評価は圧倒的にアスタリスク一色であり、プリズムプリズンも人気はあるが大きく差をつけられていた。
そのことが1番でなければいけない六槻には許せなかった。
「こうなりゃフォトスタグラムに自撮りでもあげてファンの猿どもを喜ばせてやっかな」
六槻はファンのことを自分に尽くすだけの猿だと考えていた。
だが最近はそんなファンからのいいねやコメントで承認欲求を満たし、気分を紛らわせていた。
「酒は流石にまずいから映らないようにしてっと。文章はどうしよっかな、そうだ。今日は腹立つことがあった、オレはなんにも悪くないっと。よし、自撮り載せて、投稿っと。これで明日はバズること間違いなしだぜ。」
そう言いながら、六槻は二本目の缶ビールに手を出した。
その後も満足行くまで飲み、やがて寝落ちした。
この投稿が後に大きな騒動を巻き起こすことになるとは、当の本人はまだ知るよしもなかった。
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