第5話

堅い床で寝たせいか普段よりも眠りの浅い目覚めだった。

うっすらと目を開けて見知らぬ天井がそこにあるのを理解すると余計寝た気にはなれなかった。

そのまま起きる気にならずにしばらく寝返りを繰り返していると廊下を誰かが歩いてくる足音が近づいて来ていた。

それに合わせるようにようやく起き上がると足音が止まって廊下の方を見ればそこにつくもが立っていた。

「よく眠れた」

そう聞かれてシアンは力なく横に首を振りながら「あまり」と素直にこぼした。

「そりゃそっか」

そう言って静かにうなずくとつくもはシアンを部屋から出る様に促して先を歩き出した。

「ヘイハチ連れてきたよ」

部屋に先に入ったつくもがエイトにそう話しかける。

つくもに続いておずおずとした様子でシアンも続くとエイトは昨日と変わらない場所で既に何か作業をしていた。

「おはよ・・・ございます・・・」

どう声をかけたらいいのかわからないのでとりあえずそう声を出してみたが二人からの返事は特にかえって来ることは無かった。

先に入ったつくもはテーブルに置いてあったカップを持って口を付けて一息入れていれながらエイトの様子を後ろから見ている。

暫く沈黙が続いた後で二人に向けてエイトが口を開いた。

「とりあえずアレに乗って行くといい」

エイトにそう言われて二人がそれぞれモニターに近づいて視線を向ける。

そこに映し出されたのは何処から用意したのか見た感じ古い車の様なモノが映っていた。

「あれは」

映像を指さしてつくもがエイトに質問した。

「旧型だが問題なく動くはずだ」

質問に答えている様で的を得ていない答えを返したエイトに流石につくもが続ける。

「いや旧型とかじゃなくてそもそも何なのか聞いてるんだけど」

「ん、ああ車の事か」

改めて聞かれてようやく質問の意図を理解したエイトがそう答えた。

「く・・るま」

答を聞いても疑問が解決されないのかつくもは不思議そうにもう一度モニターに視線を戻した。

同じくその回答を聞いていたシアンもよく分からないまま再びモニターを見たがそれがそれであること以上はやはり分からない。

「とにかく知らなくても問題ないから」

そんな様子の二人に対して説明を諦めたのか放棄したと言うべきかエイトが冷たくそう言い捨てた。

少しだけエイトの方を見たつくもは直ぐに興味を失くしたのか数歩後ろに下がった。

「乗れば勝手に目的地まで運んでくれるはずだ」

車についての説明は特にしないままエイトが操作して映像を切り替えるとルートらしきマップが今度は表示された。

「おー至れり尽くせりだね」

そんな軽口を言いながらつくもはテーブルの所まで下がってそこに寄りかかった。

二人が今話しているの恐らく昨日言っていた父親という存在がいるかもしれない場所まで向かう方法の事だと思う。

それを聞きながらぼんやりとこれから自分はどうするべきなのか考えてみる。

このままここに居させてもらうのが安全なのかそれともここでお礼を言って二人と別れて自発的に行動をするべきなのか。

そんな事を一人考えていると、

「君は・・・どうする」

不意にエイトがシアンの方を向いてそう聞かれたがやはりすぐに言葉は出てこなかった。

そんな沈黙したシアンとは別の方から声あがる。

「・・・一緒にけばいいじゃん」

その声のした方を見れば真っ直ぐにシアンを見つめてつくもがそう言っていた。

つくもがなにを思いそう提案したのかは分からなかったシアンにとってその言葉は素直にうれしかった。

とは言え一緒に居てもいいのかと言う疑問もある。

理由はなんであれ指名手配される原因もどうやら二人と関係している事は確かな訳でここでそれにより深く関わっても良いのだろうか。

そんなシアンの心配をよそにつくもはエイトの方をちらりとみてからシアンを見据えて更に続ける。

「どうせまだ考えとかも無いでしょ」

核心を突かれて何も言えずシアンは下を向く。

実際問題、一人になって何ができるのか居場所等も確保できるのか自信は無かった。

「それはそうだけれど・・」

狼狽えながらも何とか声を絞り出す。

「まあ、問題ないんじゃないか」

そんなシアンに向けて今度はエイトがつくもに続いて軽く言ってきた。

「ネットを見る限り現状指名手配された以外の捜査は行われてはいないようだし」

「え・・」

驚いて顔を上げたシアンがエイトの方を見たが変わらずにモニターを見ながら手を動かしている。

「どうせあいつが手をまわしているだけだらそのうち指名手配も取り下げられるとも思う・・・多分だが」

最後に不安要素はあったがもしかしたら希望はまだあるのかもしれない。

ただ、もしそうであるなら二人とはやはりこれ以上関わるべきでも無いとも改めて頭をよぎるのは二人と行動する事が必ずしも自分にとってプラスに働く予想にはならない気もするからだった。

「え、よかったじゃん」

シアンの考えとは他所にエイトの言葉を聞いたつくもは無邪気に言って笑った。

「あくまで可能性の話だ」

そんなつくもに釘を指すようにエイトが改めて言う。

「それなら尚更これ以上二人と行動するのは危険では」

シアンはエイトに向けて考えてみたままの言葉を発した。

「そうかもね」

それついてあっさりエイトは肯定を返す。

「え・・そうなの」

つくもはやはり何も考えてなかったのか一人驚いた様子。

「それはそうでしょ。そもそもの御触れを出したのは他でもないアイツなんだから」

エイトがそう言ってようやくつくもは気が付いたのか慌ててシアンを見たが流石に何もいえなずに固まった。

それを見越したように落ち着いたエイトの声が続ける。

「だからと言ってそう結論を急ぐ事もない」

そう言って新たにモニターに映し出したのは今日の最新版のニュースだった。

そこにはエイトの言う通り昨日の報道は余り大きく取り扱われていないのが見て取れた。

「見ての通り今の所、昨日の事は隠蔽傾向にあるようだ」

勿論すべてが公になっていないなんてこともなく一部の記事ではクレーターの映像も確認できたがそこには新しい設備の確認のための放射だったと何故か嘘の記事に差し替えられている様だった。

それによりシアンの扱いも改めて確認すると“重要参考人”としての指名手配となっていた。

シアン個人からしたら何の参考人なのかさっぱり分からなかったがどうやら最初に公表されていた犯罪者としてはどうやら扱われていないようだった。

それを見てようやく少しだけ肩の力が抜けた気がした。

「これだけ見てもまだ安心するには早いがこれをみるかぎりでは直ぐに捕まる事はないだろう」

エイトがそう結論付けた。

しかし当然それをそのまま受け取っていいわけでは無いのでいまもシアンの表情は硬いまま。

「やはり出頭はしない方が良いんでしょうね」

昨日既にそれにつてはつくもににも否定されていたが改めエイトに質問する。

「そう思う」

聞かれたエイトがシアンの方を振り返りそれを肯定して更に続ける。

「よくてあいつに容疑者引き渡し、あるいは出頭した瞬間に殺される可能性も現状ならあり得る」

「・・・昨日もつくもに言われて思ったんですが何で直ぐに殺される可能性が有るんでしょうか」

本来なら事情を聞いてそれから処分が決まりそうな気がするが二人とも何故か直ぐに殺される可能性を示唆したのが気になっていた。

「仮に不用意な事を話された方が不都合だからかな」

それについてはつくもが答えて、

「死人に口なしで調書なら後からいくらでも都合よく用意できるからな」

そう言ってテキストが開かれてそこに何も打ち込んでいないのに流れる様に文字が書き込まれて行く。

「人工知能・・・」

「何が嘘で本当かなんて誰も今の時代気にもしないだろうしな」

テキストを消してエイトがつくもをみる。

「人工物か自然産かもパッと見ただけじゃ分からないみたいにな」

そう言ったエイトの手はまた少しだけ溶けているように見えた。

「手・・」

思わずそう呟いたシアンにエイトは「コレか」と言って広げて見せた。

「人工物だからかね。なかなか人型を維持するのは難しいんだよオレは」

そう言いながらも溶けた部分はゆっくりと手の形に戻って透けていた色も肌色っぽい感じに近づいて向こう側が透けなくなって落ち着いた。

「別に溶けても死ぬわけじゃない」

エイトは特に気にした様子もなくそう言ったがそれを見ていたつくもの表情はどこか寂し気に見えた。

「だとして・・・まさか寝ていないのか・・・」

もし意識していないと自分の形が保てないとしたら人間ベースのクローンなのだからずっと休まないでいられるはずはない。

「まあ、なんとかな」

エイトはぼやかすように答えてシアンを見てニヤリと笑うと、

「・・・行動役が増えるのはこちらとしても有難いかもな」

そう話をすり替える様にシアンに提案した。

「いや、そうじゃなくて・・」

話を戻そうとしたがエイトは特にこれ以上自分について語るつもりは無いのかつくもの方に確認をしている。

「お前もそれでいいだろ」

「んー。まあヘイハチがいいならいいよ」

それについては軽く返事をしてどうやら話は勝手にまとまってしまった。

それからつくもがシアンの前まで歩み寄って改めて手を差し出す。

「・・・利害は一致していますね」

結局、自分でも何もいい案が思いついていなかったので流されるまま改めてシアンはつくもの手を取った。



















.資料



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