第4話
「・・・なんで私たちは生きられたのかな」
不意に画面から目を離してつくもがそう呟いた。
「さあな」
流石にエイトもその疑問の答えを持っていないのか答えを濁すだけだった。
「明日なら行ってもいいの」
つくもは暫く黙った後、話を変える様に明るくエイトに聞く。
「そうだな明日には準備もできるだろう」
エイトがちらりとシアンの方をみてそう言ったのを聞いてつくもが階段から立ち上がった。
「シャワー浴びてくる」
階段から少し進んだ先の壁まで歩いたつくもがその場で手をかざすとシアンはただの壁だと思っていた場所が開いてその向こうにつくもが吸い込まれて行った。
「ご自由に」
その後ろ姿にエイトは軽く声を返して作業を再開させた。
「今のは・・」
一連の流れをただ見ていたシアンは置いていかれたままエイトに聞くでもなく驚いたまま呟いた。
「隠し部屋や通路ぐらいあるに決まっているだろ」
それが当たり前とでも言いたげにシアンの疑問にさらりと言ったエイトの答えがここが改めて秘密裏に設計された施設なのだと物語っているように感じた。
それから暫く二人は沈黙したが改めてシアンが口を開く。
「二人は本当に廃棄されたのか」
先ほどの映像や画像を思い返しながらシアンが黙々と作業しているエイトの様子を見つめながら聞いた。
「ああ。ただオヤジは生きたければ勝手にしろとも言ったからな」
作業する手は止めずに質問に答える。
それはつまり・・・
「とは言え施設の設備が止まるって事は人で言うところの生命維持を断つのと同意義だ」
エイトは淡々と語っているがその心情は決して見えない。
「所詮、遅かれ早かれ終わるからわざわざ自分でそれをやりたくなかった。あるいはその必要すらないと思ったのかもな」
自分で始めた事とは言えその終わりからは逃げたという事なのだろうか。そうだとしたらなんて無責任な話。
「二人は復讐をするつもりなのか」
二人の会話の端々から感じるのは創造主に対する憎悪だと感じたので改めてそう確認する。
「つくもはそのつもりだろうな、あるいは・・・」
エイトが少し含みを持たせて答えているとその向こうで再びドアが開いた。
「所で明日の準備って何するの」
白いシャツを着てハンドタオルで軽く濡れた髪を乾かしながらつくもが部屋に入ってきた。
エイトはその様子を視線の端に見ながら再び階段に座ったつくもに「そりゃ、移動手段の手配とかあるからな」そう言葉を返す。
つくもは「あー・・徒歩は疲れるよね」とどこか遠くを見る様にぼんやりと返す。
「・・さっきはどうやって行くつもりだったんだよ」
改めてエイトに聞かれてつくもは顔をタオルで隠した。
どうやら何も考えていなかったようだ。
「ごはん食べよう」
話の流れを変えるようにつくもがそう言って勢いよく立ち上がって階段を駆け上がっていった。
「まあ、それもいいか」
ようやく作業する手を止めてエイトもゆっくりと立ち上がった。
「なあ、ここでネットって繋げてもいいか」
もしかしたらアカウントで居場所を追跡されるかもしれないと考えてこれまでは持っていたデバイスは脱出してから一回使って以降は電源から切っていた。
「そういやそれも不便か」
エイトは何か考える様にそう呟いて手近に転がっていた何かを探しだすと「これ使っとけ」とシアンの方へ投げてよこした。
それは小さめの液晶とどう使うのか分からないが十二桁のボタンとその上側に上下左右の矢印とその真ん中にOKと印字された何かの端末だった。
「慣れればそれでも使える」
使用のやり方を説明はしてくれる様子はなくエイトは地面に転がっているゴミを適当に寄せて何かを置ける場所を確保してその中央にランプのような明かりを置いた。
「ごはんだよー」
そして上からつくもの陽気な声が響いた。
「お前そのまま行ったのか」
ラフなシャツ一枚でどうやら外に行って来たらしいつくもにエイトが呆れながら聞く。
「いいじゃんどうせ無人なんだし」
外は滅多に人通りがないのは確かだがそれにしても気楽すぎるとシアンも思ったが口にはしなかった。
「・・・見る」
あえてなのか挑発するようにシャツをまくろうとしたつくもにエイトは「やめとけ」と静かにたしなめた。
「冗談だよ」
つくももそれ以上はふざけずに袋から持ってきた食材を並べる。
それは缶詰のラーメンやチャーハンだった。
「中華か」
「唐揚げとかもあるよ」
そのラインナップをみてそう呟いたエイトにそれだけじゃないとばかりにつくもが他の缶詰も見せつける。
「温めて食べよう」
そう言って缶の下側をまず軽く回す。そうすることで缶全体に熱が伝わり中が温められる。開封しなくてもそれによる膨張とかも無く安全に中身を温める事が出来る。
「これで丁度いい温度になるの不思議だよね」
「そうだな・・・」
エイトは改めて説明する気が無いのかつくもの疑問を軽く流して缶詰を開いた。
つくもも特に気にした様子もなく自分の選んだ缶詰を開く。
「いいにおい」
つくもの言った通り部屋に食べ物の匂いがふわりと広がった。
「はい」
どうやって食べるのかと思っていたシアンにつくもがいつの間にか用意したフォークが差し出された。
隣を見るとエイトも同じフォークで既にラーメンを啜っていた。
「箸の方が良かった」
フォークを受け取ってからよくよくつくもを見ると彼女だけ箸を持っていた。
「いや別に」
そういってシアンは目の前にあった唐揚げを刺しながらみたチャーハンの缶にはスプーンが刺さっていた。
「そう。遠慮しないで食べてね」
つくもはそう言いながら箸を持っていたわりに何故か食べていたのはパンだった。
それぞれ好き勝手に用意されたものを頂いて食事は進んでいった。
食事の終わった缶詰を片づけるのをシアンが手伝いつくもがまとめたモノをどこかに運んでい行った。
「お前、これからどうするんだ」
画面に向かって何かを打ち込んでいるエイトに不意に聞かれてシアンがそちらに振り返る。
「どうって聞かれても・・」
指名手配される経験なんて当然ないのでこれからを聞かれても全くその対策なんて浮かぶはずもない。
「・・・親は心配すると思うか」
どこか絞り出すような声で聞かれたがシアンにはそのイメージは無かった。
「どうだろ、それなりに会話はあったと思うけどあっちも自分が忙しいだろうから」
実際問題、親を知っていても知っているだけという事情の親子もかなり多い。
子育ても親がしなくともプログラムとそれを管理するシステムと施設があるので親は全く子育てをしなくていい環境が既に構築されている。
そして自分の親も間違いなくその施設で成長したはずなので今の時世では親子関係は希薄な方が一般的である。
「やはりそんなものか」
もしかしてクローンであるエイトは自然に出来た人間に何かしらの感情があって欲しいと望んでいたのだろうか。
ただ現実の子供の出生率が限りなくゼロと言われているのでそれは最早失われた文化のようなものだとシアンは感じていた。
「多分、今となってはクローンも人も大して変わらないと思うよ」
そうは言ってみてもこれは人であるシアンだから言える事なのかもしれない。
「確かに出生率は今や世界を維持するためのクローンの方が多いからな」
エイトが敢えて出生率と言ったのは皮肉だろう。
本来クローンは精製率と言うのが一般的だからだ。
あくまで造られれる存在がクローンであると人が決めたルールがあるのでこの事実は今後も消える事はないだろう。
「私、寝るねー」
それまで一人デバイスで映像を見ていたつくもがあくび交じりに二人に声をかけるとまた壁に手を当てて通路を開くとその向こうに消えて行った。
「ああ」
それにエイトが短く答えて立ち上がる。
「お前もそろそろ休むといい」
同じようにエイトが壁に手を当てると道が開く。
その通路を暫く進んだ先の比較的モノが少ない部屋に案内されエイトが「ここを自由に使え」と残すとシアンを置いて去って行った。
部屋にはベッドもないので必然的に床に横になってシアンは目を閉じた。
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