第五話 キングの憂鬱①

 キングは憂鬱であった。




 二日ほど前のこと。


 俺『キング』は人間族の国王であるオルジュ・リーンガルドの護衛として使えている魔人である。

紫色の髪に大きな白色の角を持ち、カジュアルな服というよりも規律を重んじた服装をすることが多い。まぁ私服が変だと言われすぎてだが・・・


 そんなことはいいとして国王から直接、王座のある大部屋へと来るように言われた。もしかしたら昇格かもしれない。  


 しかし、その予想は大きく外れる。


「キング、君に僕の娘の世話役を頼みたいのだ。」


 国王は王座の前にひざまずく俺にそう言った。


 王の娘『セイラ』様は先の花嫁争奪戦によって決められたシルネ様との子であり、彼女自身もシルネ様譲りの端正な顔立ちをしておられる。


「なぜご長男やご次男ではなく、長女のセイラ様の世話役なのでしょうか。」


「僕にそれを説明せよと君は言うのかい?」


 王の威圧感は他の種族の王と互角かそれ以上であり、俺に今それが重くのしかかってくる。


「このような無礼をしてしまい申し訳ございません。どうかお許しをください。」


 しかし、昔は高圧的に相手を威圧するような人では無かった。


この数年、国王は何かに恐怖し、そのせいでこのような言動を度々するようになっている。


「分かればよいのだ。確かに、君には理由を話さなければいけなかったな。僕も説明不足であったことを詫びよう。」


 殺気の立った顔はいつもやんわりとした笑顔に変わる。



「僕は近いうちに隠居しようと考えている。そのために、来年の今日、セイラを人間族女王として即位することを発表し、婿を取ることを発表する。そのため、お前にはそれに向けて候補者の選定を行ってもらいたいのだ。」


 お世話役は名義上であり、その仕事の大部分は候補者の選定と言うことだろう。このような仕事をいただくたことは格別な光栄である。後、単純に頼られて嬉しい。


「ありがたき任務をいただき、感謝いたします。」


 俺は国王に深く礼をした。国王は よろしく頼むと、返した。


 その時、部屋の大きなドアが開く。普通は何人かの王直属の兵士が4人ほどで息をあげながら開ける扉であるが、その兵士はずっと俺の周りにいる。そうなると、これを力でこじ開けるやつはあいつしかいない。


「オルジュ、その話聞かせてもらったぞ。私もその話かませてくれ。」


「エルミナ。君との会合まで一時間ほどあったはずだが、こんなに早くに来たのかい。」


 魔人『エルミナ・ハートネス』は花嫁争奪戦において余りに悲惨なことをしたとして国民に広く知られている。


その争奪戦において彼女が条件とした魔法学校の校長であり、俺もまたその学校の卒業生である。相も変わらずわがままな人である。


「その候補者は我がエルミナ魔法学校から選出して欲しい。」


 手を胸に当て堂々と国王に進言する。国王にここまで大きな態度をとれるのはこの人しかいない。


「校長、そんな急なことを言っちゃ駄目ですよ。」


 俺が言うとエルミナ校長は振り向いてこちらに駆け寄る。


「お前いたのか。なかなかいい男になったじゃないか。学校にいたときはあんなにシャイボーイだったのにこっちではかっこいいやつぶりやがって。」


 大きく肩を叩く。ずっとじんじんするほど痛い。


「昔の話は止めて欲しいんですけど・・・」少し校長から顔をそらす。


「まぁいい。オルジュよ、その娘を私の魔法学校で預からせてもらえないか。もちろん安全はこの私が担保しよう。」


 この人が安心の「あ」の字も知っているとは思えない。


しかし、校長にも何か策略があってのことだろう。


「君に言われると僕は従わなければならない。君があの時、剣を止めていなければ僕も妻も子どもたちもいないのだから。」


「そうだな。言われてみればお前は私の言いなりだな。」


 大笑いをして校長は返した。


「許してくれるのだな


「君に言われたら僕は従わざる終えないからね。」


 こうしてセイラ王女は魔法学校への入学が決まった。俺もそれについて行くことになる。



 エルミナとの会合を終えると国王がきた。


げっそりとした表情を浮かべながらこちらに来る姿は殺気までの威厳を感じない。


「待たせてしまってすまないね。では我が娘の元に行こうか。」


 セイラの部屋まで向かう廊下は長く、城内でも最も遠い場所にある。ここを毎日歩くことになるのかと思うと少し嫌かもしれない。


「セイラ様には国王となることをお伝えになっているのですか?」


「メイドに伝えてもらうことにした。あの子も年頃でね。私たちが伝えるよりも彼女らに伝えてもらった方がいいだろう。」



 王女ももう十三歳となり、それなりに物後心も着いてきたのだ。


「そういえば君がエルミナと共にこの城に来たのもそれくらいだったね。」


 そうですね。と俺は返す。


俺は十三の時まで野生の魔獣と共に暮らしていて、エルミナに見つけられ保護された。それから、俺は魔法学校に通うために国王に学費を出してもらうことになった。また、校長が力でものを言わせたんだろうけど・・・


「あの時に全額学費を出してもらったことは今でも感謝しております。」


 そう言うと国王は笑った。


「君が城に初めて来たときはなんとも言えない悲しそうな表情をしていたよね。あの表情を見ていたら出したくなってね。それに、君は僕の護衛役になるって言う条件つきだったしね。実際、君は立派な護衛となってくれた。」



 国王の期待に応えられたことを国王自ら行ってもらえるほど光栄なことはない。


「あの日から俺の人生は始まったんです。」


 長い廊下も八割ほどを過ぎた時、王女の声が廊下中に響き渡った。


「なんで私が王女なのよ。」


 廊下を飛び出した王女が父である国王を見つけると、眉間にしわを寄せてむかってきた。


「パパ!!何で私が国王にならなきゃいけないのですか!?」


 一難去ってまた一難。エルミナの次は、王女『セイラ』らしい。





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