第四話 ERROR?

 

「こんにちわ、グリム・ハートネス。否、今はグリム・デルランドでしたね。」

 僕の名前をハートネスというこの声は優しく包み込むような温かみのある女性の声をしている。

「ここはどこだ。僕は死んだのか。」僕は声の主に語りかける。

「正確に言えば、死ぬ2秒前ぐらいでしょうか。現実世界と私が作り出した世界では時間が進むのが違うのです。」

「なぜ僕は死ぬ直前にこんな場所に来ているのだ。」

「いい質問ですね。あなたはERRORに選ばれたのです。」

「ERRORってなんだ。」

「それは答えられません。」

 無機質なこの声の主はどうも秘密主義でほとんどのことを教えてくれないようである。

「グリム、あなたに選択肢を与えましょう。ERROR共に生きるか、このまま死ぬか。」

 声は四方からやってくる。

「死ぬことを選べばどうなる?」

「あなたはそちらを選ばないと知っていますから、私はこの選択肢を用意したいます。」

「つまり僕に生きる方を選んで欲しいってことだね。」

 えぇそうですね、と後ろの方から声が聞こえてくる。

「それならあなたに従いますよ。ぼくはそのERROR?とやらと共にいきてやろうじゃないか。」

 瞬く間に白い世界は暗闇変わった。


 僕の心臓に突き刺さった大きな木の幹が輝いてくる。

「どういうこと?グリム、グリム、・・・」

 アリサの声が聞こえてきた。目を開くと、そこにはアリサがいる。

「よかった、なに?グリムって回復魔法なんて使えたの?」

 魔法?何で僕が魔法を使えることになっているんだ。

 そう思って、身体を確認すると両腕が元に戻っている。

「死んだかと思った。」とアリサが抱き込んできた。

 僕も抱き帰そうとするも身体を自分で動かずことは出来ない。

 勝手に身体が動き始めてしまう。なんでだ、思った通りに動くどころか、意識してないのに身体が動いていく。

『劣等遺伝子の分際で、僕に逆らうというのか。』

 僕が言っているつもりは無い。勝手に口が動くのだ。

 再び動き出した僕に向けてミノタウリスは更に洞窟の岩石を投げつける。しかし、岩石をいとも簡単にとばしていく。

『さっさと片付けようか、君みたいなけだものは僕の手で排除してあげるよ』

 そうすると僕の腕が意思に関係なく動く。ミノタウリスの方向に腕を向ける。


【シャッテンハンド】


 身体の後ろに伸びた影が徐々に手の形になっていき、僕の身体をこすほどにの長さになっていく。伸びた影がミノタウリスを取り囲み、徐々に網の様になっていく。

 苦しくなっていったのか、ミノタウリスが苦しみ出す。

『最初からそうして下等であることを理解していればそんなことは無かったのだ。』

 掲げた手を包み込むように閉じる。閉じていくほどに影がきつくミノタウリスを縛っていく。

『一度調子に乗った時点で君の未来はなくなっていたんだがね。自分を恨むといい。』

 完全に掴みきるとミノタウリスは跡形も無く吹き飛んでいった。血が洞窟内に広がり、悲惨な状況になっている。僕は立ち尽くすことしか出来ない。


「グリム、やったよ。倒した。すごいよ、グリム。」

 アリサが近寄ってくる。

「う、うん。ホントに倒しちゃったみたい。」

 いつの間にか身体を自由に動かせるように様になっている。目の前で起きた出来事はまるでおとぎ話みたいで現実味が無く、さっきまで使えたはずの魔法の欠片も感じない。

「とりあえず、アリサが無事で良かったよ。」

 そう言うとアリサは恥ずかしがりながら「グリム、助けてくれて・・・ありがとう。」

「いいよ」

 僕はにこりとした笑顔で返した。


 その時、ごぁ゛ーーーと言う雄叫びが聞こえる。

 もともとこの洞窟が危険だったのは強暴化したミノタウリスがいたからじゃない、本当の洞窟の主となる魔獣がいたからだ。

「アリサ、まだ喜ぶには早いかも知れない。」

 二人は更に洞窟の中にいる魔獣に備えて身構える。

 徐々に暗い洞窟の奥がみえてくる。そこにいたのは、ヘンゼリアドッグであった。大きな白い翼を持つ巨大な犬の魔獣で、さっきまでの魔獣たちと違って本当に肉食。それに加えて鼻がきく。僕たちのことはもう匂いで分かっているだろう。


「グリム、さっきのをもう一回やればこの魔獣も倒せるんじゃない。」

 アリサに言われて試して見るも、何かでる訳じゃ無い。

「ごめん、もう出来ないっていうか、仕方が分からないんだ。」

 僕たち二人は再び最後を確信した。


「まだ諦めるのは早いぞ、少年たち。」

 その時、紫髪の男が現れた。彼は魔獣と僕たちの前に立ち塞がる。

「少年よ、少女よ。俺『キング』が来たからにはもう安心してもいい。」

 腕を上に掲げて彼は僕たちの方向を振り向いた。

 そして、彼はもう片方の腕を魔獣の方向にする。

雷鳥サンダーバード

 彼が呟くと、腕の向こう側には鳥の形状をした紫色の雷が現れた。

「行け」と、彼が呟くとそれは魔獣の方向に飛び始め、魔獣に突き刺さる。

「これでフィニッシュだ」

 彼はそう言うと、突き刺さった魔法ははじけ飛び。それと共に魔獣もはじけ飛んだ。


 洞窟は静かになり、聞こえるのは地下を通る水の音だけである。その瞬間に身体の力がフッと抜けて倒れこんだ。

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