第三話 洞窟の謎

 僕が洞窟にはいると思った通り親玉となる魔獣がいた。


 魔獣ミノタウリス。

 リスのように長い尻尾を持つ毛むくじゃらなケンタウロス。


「この魔獣がデアーたちを束ねている。」気付かれない程度に口ずさむ。


 魔獣を束ねているだけあって相当な大きさである。


 しかし、もともとミノタウリスは草食の生物のはず。それなのになぜデアーたちに指示してまで人間の血肉を求めるのか。


 周りを見渡すと、そこには多数のイーズモーデアーの死体が転がっていた。


 もしかすると、このミノタウリスは何かのきっかけでデアーの肉を口にしてしまい、その味を忘れられなくなってしまったのかもしれない。


 時間が経ち、アリサを背中に乗せたデアーはミノタウリスの前の石積みされた小上がりのところに置いた。まるで、祭壇である。


「うん・・・ここは?」 


 ミノタウリスの荒い鼻息でアリサが起きる。その前には巨大な魔獣がいる。


「ギャーーー」


 アリサの声が洞窟中に響き渡る。


 その悲鳴を聞くと、デアーの群れは洞窟を飛び出していく。もともとはデアーは臆病な生き物なのである。


 アリサの声と共にミノタウリスも雄叫びをあげる。完全に興奮状態のようだ。


 アリサはミノタウリスに気づき、足が震えて動くことが出来ない。


 助けに行きたい。しかし、足が動かない。


 あの時、助けてくれてのはアリサだった。それなら次は僕が助けるんだ。


「動けよ、僕の足。」

 そう口ずさんだ僕は足を前に出している。足の震えなどもう無い。僕の足はアリサの方向に向かっていた。


 ミノタウリスがアリサ目がけて大きな斧をを振り抜く。


 そこには僕がいる。あの日君が守ってくれたあの日と同じように。


「アリサを食べられる訳にいかないんだ。僕の親友なんだ。」


「グリム、ありがとう・・・」


 アリサがそう言いかけたとき、彼の右腕は跡形も無くなっていた。


「グリム、右腕が無い。」


 アリサに言われるまで気づかなかった。認識するにつれて右腕があった場所が痛んでくる。しかし、ミノタウリスが待ってくれるわけが無い。


 再び振り上げた斧はもう片方の腕へと向かう。


「ア゛ァ゛ーー」


 意識が今にも消えそうなほどに痛い。視界が暗くなる。身体はふらつき上手く動かなくなる。どんどんと血が無くなっていく感触がある。


 その時、ミノタウリスは追い打ちをかけるように岩に突き刺さった木の幹のような物を取り出す。

 ミノタウリスは腕を引き、勢いをつけて放り出す。


 放った木の幹は僕の心臓に突き刺さる。


 身体が動かない。それだけじゃ無い、徐々に頭の中が真っ白になっていく。


 倒れこむ僕をアリサは受け止める。


「ごめん、アリサ。助けられなくて。」


 アリサは首を横にふる。「うんん、ありがとう。十分だよ。」


「アリサがあの日助けてくれ無かったら、僕は今日まで生きてこれなかったから。」


 あの日のことを思い出しながら僕は彼女に言った。


 アリサは大粒の涙を一粒流した。


「違うんだよ。あの日、グリムに会うまで私友達が出来たこと無かったんだ。だから、友達がいなそうなグリムに友達になろうって言ったんでよ。ホントに性格悪いよね私。」


 また一粒、アリサの目から涙がこぼれた。


「それでもいいんだ。あの日、僕の友達になってくれたアリサは僕のたった一人の親友だから。」


 目を開く力も無くなってきて、まぶたがどんどんと重くなっていく。


「だからさ、ありがとうって言いたかったんだ。」


 アリサはまた、涙をこぼす。


「ありがとう、アリサ。僕の親友でいてくれて。」


 僕は瞳を閉じた。視界が真っ黒になり、意識が遠のいていく。



 目を開いていくと、そこは真っ白な場所だった。壁と床の境界線が見渡す限り無い。僕の周りには誰一人としていない。



「こんにちわ。グリム・ハートネス。否、今はグリム・デルランドですね。」

 


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