第二話 新国王の憂鬱
新国王『オルジュ・リーンガルド』は憂鬱であった。
彼に相談なしに始まった花嫁争奪戦。絶対的な父の前でノウと言うことも出来ない。
そんなことを思いながら、彼は大きな玉座に右肘をつけて座っていた。
「オルジュさん、そんなに楽しくなさそうな顔をしないの。これはあなたの婚約者を決める
側にいた母『セレナ』が彼に語りかけた。
母は人間族であり、父との婚約前は国中で愛された歌手であった。
父との結婚式では多くの国民が出席し、国中から祝福されたという。
(俺が生まれる前の話だからよく分からないが。)
「母上、あんな争いで妻を決めるなど、理性的では無いですよ。」
「あら、名案じゃないかしら。だって、彼女たちはあなたのために人生大一番に出ているのよ。
これは最大の愛の形じゃない?」
母自身もこの地位を持って生まれた美貌としたたかさで獲得したと考えると、争奪戦を肯定するのは納得いく。
「こんなのはただの権力争いに等しいですよ。彼女らに愛情などみじんも無い。」
「そんなことを言っても始まったからにはもう待ったは効かないわよ。」
母の肝の据わり様は普通の人の比ではない。
これが種族の長を務める者の妻の花嫁争奪戦などというのは無駄な行為である。
僕には心に決めた女性がいるからだ。
人間代表『シルネ・アザレザ』、彼女とは子どものときから付き合いで永遠を誓い合った仲だ。
彼女の父は聖域戦争の英雄『ラース』、父譲りの剣さばきは国でも有名である。
彼女も花嫁候補であるが、僕の中では彼女しか花嫁にふさわしくない。
「他の候補者も筋金入りの猛者たちであることは認めるが、彼女たちの内、誰かが優勝しようと僕の妻となるのはシルネ、君だけしかいない。」
そう呟く。
僕はグラスに注がれたワインを一口飲み、喉を潤した。
「推薦者9人が出そろいましたので、花嫁争奪戦始め!!」
司会の合図と共に9人の花嫁候補は走り出す。
はじめに仕掛けたのはサメの魚人『シラノバ』。
彼女が持っていた細い牙のついた、鞭が他の候補者の身体に迫る。
強靱な爪をもつ獣人や龍人は巧みに牙をかわし、人間やドワーフと言った種族もそれぞれ持っていた武器で防いで見せた。
そんな中、魔人『エルミナ』は大剣を振るわず盾の様に身体に沿わせ、牙を防いで見せた。
宣戦布告ともとれるシラノバの攻撃は戦い火蓋をきる。
しかし、その直後一人の候補が手を挙げた。
「わしはリタイアさせていたただく。」
手を掲げたのは龍人族『リネン』。
身長はそれほど高くないが、齢は100を超えているらしい。
彼女はいいとこのお嬢だというのは事前に聞いていた。
龍人族はもともと権力を持ち合わせており、わざわざ人間なんぞに力を借りる必要は無いという意思表示ともとれる。
この争奪戦は権力を見せつける場でもあるから彼らの種族にとっての正解を出してきたということだ。
どんどんと退場していく中で最後に残ったのは5人。
エルフ族の『アイル』、人魚族の『シラノバ』、獣人族の『ライゼ』、魔人族と名乗る『エルミナ』、そして僕の将来の花嫁『シルネ』。
もう少しでシルネと一緒になれる。
「それにしてもあの魔人を名乗る子、全く剣を振るおうとしないわね。私も戦争のなかで魔人を見る機会はあったのだけれど、あんなにも理知的ではなかったのだよ。」
戦況を見守る母が呟く。確かにそうである。
魔人族というと好戦的で、イノシシのように前に向かっていくという風に伝えられてきた。
「彼女の攻撃には知性を感じますね。確かに、滅ぼされたと考えられていた魔人が生き残っているならば、知性のあるの者たちが逃げ隠れ、血をつなげていたのなら納得がいきますね。」
そう僕が母に言うと、 そうねぇ と軽く返された。
彼と彼の母は魔人について話をしていると、激しかった戦闘は一気に静まりかえる。
真ん中にはシルネが片足を庇う様に立っているのが見えた。
「もう退場した方がいい。これ以上はあなたの命に関わる。」
エルフの『アイル』が苦しい表情を浮かべるシルネに提言した。
エルフは賢く優しい種族。
正に種族の代表にふさわしい行為である。
シルネが顔を上げ、震えながら声を出す。
「私は国王と結ばれる運命にあるの。私はここで負けるわけには行かない。」
昔から強気で何事も最後まで諦めない。そんな彼女の姿は僕の妻にふさわしい。
「「頑張れ、シルネ。」」
「「立ち上がれ、シルネ。」」
会場からはシルネコールが起こる。
「立ち上がれ。その雄姿に俺も感動した。手を貸してやろう。」
獣人『ライゼ』が手を差し伸べる。
これでまた彼女の女性ファンが50人は増えただろう。
差し伸べられた手をシルネが掴もうとする。
その時、血が飛んだ。会場は騒然とし始める。
エルフ『アイル』がその光景を見て言葉つぐみながら口を開く。
「魔人、何をした。この二人を殺す必要は無いだろう。」
そこで死んでいたのは、人魚族『シラノバ』と獣人『ライゼ』であった。
彼女たちの首が場外にあるのが見えた。
「ギャーーーーーー、ー、ー」
顔中にライゼの血を浴びたシルネの叫びが会場に響き渡る。
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