魔人、バージンロードの守護騎士となる

トリノ ミラノ

【前日談】花嫁争奪戦

第一話 花嫁争奪戦、開始!!

 25年前の今日、国王エルデル・リーンガルドは宣言した。


今日こんにち、私の息子オルジュ・リーンガルドの王位の即位を認める。そして、ここに花嫁バージン争奪戦レイドを行う。」


 国王は、国王となる息子の結婚相手を戦闘能力によって選ぶことを宣言した。この宣言から2日後、王国本部からは花嫁争奪戦の概要が発表され、国民の注目はその一点に集まる。


 花嫁候補は各種族の代表が総当たりで戦い、最後まで生き残っていた者が新国王の妻となると言う単純なもの。

 日を追うごとに、全8種族の代表が発表されていった。


 名家の娘を推薦し、種族間の繋がりを作ることを画策する種族もあれば、本当に種族で最も強い者を推薦する種族もあった。




 争奪戦当日。

 

 会場にはこれからの種族の命運を見るため、多くの人が集まる。

 

 人間族が自分たちの領土を広げるために行った聖域戦争以来の種族間の争いとあって、他種族に対していい感情を持ってない者たちからすると日頃の怒りを晴らすいい機会でもあるのだ。


 会場の後方から頭に大きなリボンをつけた少女が靴の音をコツコツと鳴らしながら歩いてきた。その音が会場に広がり、観客のボルテージが一気に上がる。

 彼女はマイクを取り、大きく息を吸う。


「こんにちは、世界の皆さん。ついにやってきた花嫁争奪戦。この戦いの司会、実況を行う『ハルミ・ノバラ』と申します。」


 彼女の声が響き渡る。それと共に会場には地響きのような揺れが起きる。


「ここから出場者の発表です。まずはこの方、エルフ族推薦『アイル・k・エルフィーダ』!!」


 長身で銀髪、手に弓を持つ女性が出てくる。エルフ族は人間のような見た目であり、人間の言葉も話すことが出来るため、人間に人気である。そのため、彼女をおす人間の票は多く、会場は彼女にとってホームに等しい。


「アイルちゃ~ん。かっこいいぞ!」

「花嫁はあの子のもんだ。」

「そうだ。」


 彼女は応援する声を聞くと、ふんっ と言い、そっぽを向いた。


「おおっと『氷の女王』の名にふさわしい流し目だ!!」


 ハルミが会場を盛り上げる。


「次に行きましょう。彼女の先に最強を名乗れる獣人はいないライオンの獣人『ライゼ・ライオネア』!!」


 会場中に再び歓声が起こる。

『ライゼ・ライオネア』その名を知らない者はいないと言うほどの強さ。

 最強たる彼女の戦闘能力は獣人史上最強であり、戦闘能力での勝負ならば彼女にかなう者はいない。


「うるせぇぞ、お前ら静かにしろ!!」

 会場からは黄色い声援が起きる。その声の大半は女性の声である。実のところ、彼女のファンの半数以上は女性。鎧のように堅く鍛えられた肉体に、肝の据わったあの態度が種族に限らず同性を引きつけるのだろう。


「それでは皆さん、次は魚人族推薦『シラノバ・シャークネス』!!」


 会場からは前の二人とは比べものにならないほどの大きな歓声がとぶ。

 胸には貝殻をかぶせ、その上には大きくサメの皮から作られたマントを羽織っている。

 事前の人気投票では堂々の一位。彼女を見に来ることを目的に会場に足を運ぶ者もいるほどである。彼女の美貌は異性、同性に関わらず認めるところであり、戦闘力も『ライゼ』には少し劣るが、拮抗しているといっても過言ではない。

 彼女が一歩、一歩、歩くたびに会場が大いに沸く。


「ご静粛に!!次の出場者の発表に移りますよ。」

 大きな歓声の間に割って入るようにハルミが進行を続けた。あまりの盛り上がりようにハルミも動揺をしている。


 どんどんと花嫁候補が紹介されていく。

 人間族推薦『シルネ・アザレザ』

 ドワーフ推薦『ガレシャ・ジャグノーベ』

 龍人族推薦『リネン・ドラゴニック』

 天使族推薦『ヒアラ・アルミネ』

 鳥人族推薦『カレナ・チェンターレ』


 続々と8種族の推薦者が登場していく。

観客はこれで出場者が揃い、これからどの種族がこの戦いを制するのか、賭けを始めようとしていた。


その時、黒服を着た男がハルミのそばに寄り、耳打ちをした。


「ちょっと待ってください。」


 ハルミが台本を確認するため、一度段幕に潜る。会場はざわざわとしだす。当然のことだろう、存在する8種族の花嫁候補は出そろっている。


 しかし、始まらないというのは不思議なことである。


「ごめんなさい。最後の出場者の発表です。魔人族推薦『エルミナ・ハートネス』」


 ハルミのコールとともに会場が静まる。

 彼女の様相は赤い髪に色白の肌、手には大きな剣を持ち引きずっている。


「どういうことだよ、魔人族は戦争で滅びたはずだろう!?」


 観客のひとりが声をあげると、会場中で疑問の声があがった。

 

 魔人族は聖域戦争の中で、最後まで人間族と友好条約を結ばず、結果的に滅びたのだ。

 そのため、ここに魔人族がいること自体が不思議なことである。

 

 ハルミも多少の戸惑いお持ちながらも司会を進める。


「推薦者9人が出そろいましたので、花嫁争奪戦始め!!」 


 9人の花嫁候補はそれぞれ初めの一歩を踏み出す。











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