Largo(3)

「んーどやろ。学祭は予算が降りへんかもしれんな。サークルは知らへんけど。城西大は学生と『外国語学部』っつうネームバリューと専門研究が手に入ったらそれでええ訳やからな、あとは伝統ある外大の歴史とか文化をどう思うかや。残ってくれるとええんやけどなあ、デカいもんは弱くて力のあらへんもんのことを、あんまし考えんもんでなあ。体力がなければ美味いもんだけ吸い取ってその場でポイ、うまいことひけらかすんは上辺だけで踏みつぶしたら知らん顔、それがよくある世知辛い世の流れっつーもんやからな」


 先月聴いたばかりの城西大オケの演奏会が思い起こされた。地響き鳴らすような砲撃に耐えられるほどの演奏力、あんなものが外大オケにあるはずもなく、サークルまで統合されてしまったら、きっと一瞬にして外大オケは崩壊する。僕の、僕たちのオケは、将来どうなってしまうんだろう……


「亜琉はなんや、将来のことどうすんや?」

「え? 統合しようがなんだろうが、外大オケを辞めるつもりなんて更々ないですよ」

「ちゃう、その将来やなくてやな」と、おじさんは額に三本の横皺を見せて、冷めてしまったコーヒーを口にする。「その、な……大学卒業したら院に行くつもりなんか?」


「ああ、そのこと」と、僕はたわいもなく目を他の新聞記事に巡らせた。「給料とか就職先のことを考えたら、ドクターまでは行かなくとも、マスターくらいは欲しいなとは思ってますけど」


 せやわな、と頷きながら、おじさんは眼鏡を外し、席を立ってシンクでコップを洗った。僕はテーブルに残された新聞をめくりながらパンに噛り付き、おじさんの意図するものに気が付いてそれに付け加えた。


「院のこと、母が来たらちゃんと相談しますよ。学費のこともあるから。おじさんが心配されなくても大丈夫です」


 うん、うん、せやな、了解と、おじさんの首が必要以上に何度も振られた。「卒業なんてすぐやからな、お母さんとしっかり話しておくねんで」と言い残して、おじさんはトイレに入った。テレビから今日のラッキーカラーが聴こえてくる。ラッキーカラーは青色だけど、青色のパンツもTシャツもおじさんは持っていないなあとぼんやり考えた。

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