3・変人たちの集う夜(13)
半分まで飲んだお茶を飲み干そうかどうか迷いながら、目の前に置いたペットボトルへ話しかけるようにして僕は言った。おじさんはため息をついて、僕の前の椅子に座り、脛毛の見える脚を組んだ。
「亜琉なあ、どうしていつもそうやってシャッターをピシャンと下ろすんや。亜琉の厄介な所はな、自分でシャッターを下ろしとるくせして他人に下ろされたと勘違いしとるとこや。なんでもかんでも他人のせいにして、出来んのは出来んと勝手に決め込んで、自分で閉じたもんを開こうとせん。そのくせ暗いのが苦手やから、シャッターにプツプツと小っさい穴をいくつか開けて、その穴から見えたもんだけを世界の全てや思って満足しとる。人をちゃんと見ようとせんから外が怖いし、シャッターを開ける勇気もないんやな。言っとくけどな、人っつーのは穴から見えるもんだけが全部やない。穴が小さいと悪いもんしか目立たんし、穴から見えんところにこそ人のいいもんはいっぱい詰まっとるのに、それが見えへんからいつまでたっても外に出れん。このままやとウジウジと偏屈な大人になって、社会からはみ出た引きこもりになるだけや」
「引きこもってなんか全然ないです。大学にも行っているし、サークル活動だって参加してるし、外にちゃんと出てるじゃないですか」説教ぶったおじさんの態度が妙に腹立ち、強めにそれを否定した。「――それに引きこもりになる人すべてが偏屈じゃないでしょ。引きこもりにもいろんな要因があるんだし、病気の人もいるんだし、失礼じゃないですか。それはただの独断です」
「揚げ足とんなや、そんなん悪いこと言っとらんがな。お母さんにはしっかり連絡とれ、そういうこっちゃ」
「でもおじさんだっておじいちゃんたちと連絡とってないじゃないですか」
「それはま、おっちゃんはええ歳越えた大人やし、結婚、結婚煩いし……」
「じゃあ僕とそんなに変わんないですよ」
「……いや、それはちゃうやろ」
話せば話すほど空しい風が心に吹くようで、時間も時間だし眠気もあって、会話の内容にひどい疲れを感じてきた。ペットボトルとミファの楽譜とミヨーの本を持って椅子から立った。
「話は今度聞きます。明日は朝から講義なんで、風呂入っていいですか。おやすみなさい」
冷蔵庫を開けると僕の残したお茶がもう一本残っていた。二本並べて置いておき、扉を閉めて風呂場へ向かった。僕の後ろで、おじさんの大きく息を吐く音がした。
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