1・会議は踊る(10)
「うん、まあ、タダがそう言うなら、そういう考え方もあるかもしれんなあ」と、須々木女史はふんわりとしたピンク色の微笑を浮かばせる。タダさんはそこそこ悪くない顔をしていて、女性たちの間で密かに人気があるのだ。そこそこ、という言葉に若干の僻みを含ませてしまうのは、そこそこの魅力もない僕の悪い癖かもしれない。
ちなみに桶男のポスター写真はタダさんだ。この写真に釣られて入団した人もいるんだと、これは粟崎さんからの情報である。まあ、どうでもいい情報だけど。
タダさんの話は続く。シューベルトやハイドンといった有名な曲はいくらでも演奏できる、フランス人が作ったサンバという奇特な曲を演奏する機会なんて、これから後にも先にもないかもしれない、と。
「ちゅうわけで、クニさんもこれでええやろ?」
「……ここまで言われて反対なんてできんでしょ。ま、今回は大人しく引き下がりますよ」
渋々ながらも納得してくれたようで、クニさんの譲歩にタダさんは軽く頷く。弦楽器軍団の筆頭である須々木女史もそれに同意した。こうして揉めに揉めていた会議が少しずつ一つにまとまっていく。
「じゃあサブの曲は『屋根の上の牛』に決定しまあす」という伯太団長の宣言により、会議は無事に終了した。
演奏会のテーマよりも何よりも、いかにして自分の気に入った曲に出会えるか――城西外国語大学管弦楽団の団員たちにとって、これが最大の関心事なのだ。大学四年間という短い青春の中で演奏できる曲は限られている。大学オケでの選曲には、皆それぞれ並々ならぬ思いがあるのだった。
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