第5話 膝枕と耳掻きと癒し……?

結局電車の中では何一つ喋ることなく、スーパーでも食材を黙々と入れて、会計し、家まで戻ってきた。

「あのさ、何故に話何も……」

「ごめんね陽色くん。ちょっと待ってね。服を着替えてくるから……」

そう言って小春はうちを出ていき、隣の小春家に入る。

「なんで、何も話してくれないんだよ……」

僕は少し寂しい気持ちを胸に抱いたまま、ベッドに軽く寝転んだ。




あれ?

寝てしまったのか……。

今日はアレだけ歩いたし、普段運動しない僕にとっては疲れてるよな……。

でも、この頭の感覚は、いつもの枕じゃない……。

なら、何だ?

恐る恐る目を開けると、

「なんで、胸が目の前に?」

僕の目の前には、絶景が広がっていた。

間違えた、本来ではありえない角度で僕は小春を見ていた。

「あ、ご主人!!目を覚ましましたか?」

「うん、起きたけど、これは?」

「優しくて可愛い貴方のメイドさんからのわがままを聞いてくれたお礼の膝枕ですよ〜?お気に召しましたか?」

「な、なるほど……。これは、ありがとうでいいのか?」

「いえいえ、どういたしましてです!!」

そう言うと、小春は僕の頭を軽く撫で始めた。

「撫で〜撫で〜、撫で〜撫で〜……」

小春の声は初めて聞いた日から優しく、そして、どこか安心してしまうような声だ。

こうして撫でられているだけで、何も考えなくていい。

無理しなくていい。

と肯定してもらえてるような感覚に陥る。

「あ、そうだご主人!!お耳掃除、してあげるから、左耳を上にして〜?」

「いや、いいよ……、膝枕してもらった上に耳掃除までして貰ったら、なんか、返せないものを借りることになりそうだから……」

「大丈夫、これでも前のクラスの女子からは上手いって言われてたし!!ほらほら〜、頭を動かして〜」

そう言って、小春は僕の頭を軽くポンポンと叩く。

やっぱり、こうやって強引にお願いされると逆らえないな……

「こうでいいのか?」

僕は壁の方へ顔を向け、左耳が上になるように頭の向きを変えた。

「ありがとうございます、ご主人!!じゃあ、早速掃除させてもらいますね……。今日使う耳掻き棒は、竹でできた梵天耳掻きです!!でも、お耳掃除しやすくするために、おしぼりで、軽く耳を拭いていきますね〜」

小春は、僕の耳におしぼりを当て、溝に沿って拭いていく。

普段そこまで意識していないが、こうやって、誰かに耳を触られるのは、少しだけくすぐったい。

そこから2、3分程度小春は僕の耳をおしぼりで拭いた。

「それじゃあ、耳掻き棒を入れますね〜?」

そう言い、耳掻き棒を僕の耳の穴に軽く入れて、耳の穴付近を軽く掻き始めた。

「ガリガリガリガリ……」

よくある耳掻きASMRのように、小春は耳を掻くタイミングに合わせて、中でしている音を囁くように耳元で繰り返す。

正直な話、めちゃくちゃ気持ちいいし、なんか、綺麗になっているような感じはしている。

「それじゃあご主人、奥の方に耳掻き棒入れていきますね〜」

そう言うと、小春は耳掻き棒を奥に入れ、耳を掻きはじめた。

「ご主人は、『カリカリ』と『ガリガリ』、どちらの描き具合いが好きですか?」

「個人としては、少し強めの方が好きだなー。痒いところにも掻いて欲しいから」

「分かりました、じゃあ、『ガリガリ』でいきましょう……」

そう言うと、再び掻く事を始め、少し強めに掻き始める。

「ガリガリガリガリ……、あっ、ここ、大きいのがありますね……。強敵だけど、絶対に引っ張り出してあげるんだから!!」

少し速いテンポで掻き始める、小春。

「ご主人、もう少しで出てくるので、もう少しの辛抱ですよ〜……」

更にラストスパートと言わんばかりにガリガリという音は、次第に強くなる。

あと少しだ、我慢だ、我慢するんだ陽色!!

僕は歯を食いしばり、痛いのを我慢した。

「取れました〜、ヒヤヒヤしましたね〜ご主人!!」

「そうだな、奥の方で固まってたなんて、普段の耳掃除では見つけれないものも見つけてもらえるとはな……」

「ご主人のお耳は私の全身全霊を持って綺麗綺麗します!!」

「それは頼もしいな」

僕は元の向きに戻ろうと頭を動かそうとしたその時、

「ほーら、まだ終わってないからそのままの姿勢でしてね〜」

小春に頭を押さえられてしまった。

「それじゃあ、ご主人!!最後に梵天で軽〜く仕上げをしたら、つぎは、右耳ですよ?」

そう言うと、再び耳掻き棒を耳に入れたと思いきや、梵天部分のふわふわした感覚が左耳の中に広がる。

「ど〜お?気持ちいい?」

「うん、最高だよ……」

ふわふわとしていく意識をどうにか保ちながら……。





「ふふふっ、相当気持ちが良くて、眠っちゃった……。ご主人〜!!左耳が終わりましたので右耳やりますよ〜?」

心苦しいが、私はご主人を起こすために軽く肩をゆする。

すると、ご主人は頭を私のお腹に埋めてあろう事か、ひと息吸ったのだ。

「ひゃうっ!?」

あまりの擽ったさに一瞬反応してしまう私。

少しはしたないですね……。

「でも、甘え足りなかったんですね……」

私はご主人の頭を少しだけ撫でる。

辛かったこと、悲しかったこと、怒りたくても怒れなかったこと……。

ご主人もそんな事がたくさんあって、色んなことからきっと逃げたくなったタイミングもあるのだろうか……。

私には分からない事だ。

「さてと、このままご主人のお耳掃除終わらせてしまいましょう!!」

私はご主人の右耳をおしぼりで軽く拭く。

そして、耳掻き棒で入口、奥の順で耳垢を掻き出す。

仕上げの梵天も忘れない。

でも、こうやって見てるとご主人のお耳は綺麗な形をしていて、とても、とても……

「……美味しそう」

私は気が狂ってしまったのだろうか?

「大丈夫、ご主人は寝てるし、それに少しならきっとバレない……」

私は口を軽く耳に近付けた。

「んはぁむ」

もう、この時点で私のタガが外れたのだった。






「じゅるるる……じゅぽっ!!」

これは、耳を掃除されていると言うよりも、舐められているのでは無いのだろうか……。

僕は少し生暖かい唾液の感覚に少しの気持ちよさと腰に来る刺激に驚いていた。

そして再び目を開ける。

先程まで膝枕していてくれていた小春は、横向きに寝転がった僕の上に四つん這いになっていた。

「ご主人が悪いんだよ。私を放っておいてひとりで眠りこけるから、寂しくなったし、いい匂いするし、いい形の耳してるし!!こんなの、我慢なんて出来るわけない……」

再び小春は僕の耳に口を近付けた。

先程とは違い、耳朶を甘噛みしている。

「はむはむ、はむはむはむ……」

そして、完全に油断していた僕の耳に強い衝撃が走る。

「痛っ!!」

「ご主人は、私のご主人だよね?」

「いきなりどうしたんだよ小春さん……」

「他の女の子には興味とかもないし、私だけだよね?」

「あの、小春さん……、怖いんですが?」

「ご主人、私の事愛してくれる?」

「……」

「私は、確かな愛の形が欲しいの。だから、これは私からの愛の形。変な虫が寄り付かないようにするの……」

そういうと、小春は先程噛んだ箇所をペロペロと舐め始めた。

「ご主人は、どう思う?こんな面倒臭い女は嫌い?」

続いて首筋を舐める小春。

その瞬間、僕は小春を押し倒した。

そしてその前、小春にキスをした。

「僕も男だ。あまりにも煽ってると、こっちから食うぞ?」

「ご、ごめんなさい……」

そう言いながら小春は、小さくなった。

「ごめん、ちょっと強く言いすぎた。今日はもういいよ。ゆっくり休んで」

「は、はい……、おやすみなさいご主人!!」

そう言うと急いで起き上がり、メイド服を軽く整えて小春はその場をそそくさと走り去った。

「全く、僕はこういうことがないと勢いで押し切れないのかよ……」

自分の不甲斐なさに腹が立つ。

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