第3話 休日の初デート!!

「それで、餅月さん」

「小春でいいよ?」

「では、小春さん」

「さんなんていらないよ〜、ご主人!!」

「それはハードルが高いのでまたの機会に……」

「ちぇっ」と言いながらまた1口コーヒーをすする小春さん。

「で、今日はこんな朝早くからどうしたの?」

コーヒーを置き、真剣に僕を見つめる。

「実は、せっかくの休みなんだから、初デートとかどうかな〜って思って……」

「連絡してくれれば、別に良かったのに」

「連絡先知らないから、仕方ないじゃん……」

「じゃあ、何故住所は知っていた!!」

「えへへ〜、実は私おうちでもお隣さんなんだよ?」

「はあ!?」

僕は走って隣の家の表札を見る。

「嘘…だろ…」

表札には『餅月』となっていた。

まさか、本当に家までお隣さんだなんて……。

とぼとぼと歩いて部屋に戻った。

「本当だったでしょ、ご主人?」

ニコニコとした笑顔を見せる小春さん。

「はぁ」と溜息をついて、話を始めた。

「それで、デートって言っても何処に行くのか教えてくれよ。準備しないといけないし……」

「そんなドレスコードがある場所なんて行かないよ、ご主人!!今日は初デートだしス〇ーバックスの新作を買ってお花見しに隣町の大きな公園に行こうと思ってます!!」

「お花見ね……」

まあ、隣町なら同級生にバレもしないし、春野さんもいないだろう……。

まあ、振られてるしもうどうでもいいんだが。

お花見となると、なるべく動きやすくカジュアルな感じの格好をした方がいいよな。

そんなことを考えながらコーヒーカップを眺めていると、

「ご主人、ダメですか?」

覗き込むように僕の顔を見る。

すごく可愛い……。

じゃなくて、

「いや、別に今日は特に予定とか無いから、デートは大丈夫だけど……、デートの時もメイド服で行くの?」

再び僕は、小春さんを見つめると、見られていることに気がついたのか胸元を隠しながら、

「流石にこの格好で外に出るのは恥ずかしいので……、でも、ご主人がどうしてもと言うなら……、いや、恥ずかしいからやっぱり無しで……」

顔を真っ赤にしながら答える小春さん。

昨日は前髪が邪魔をしていたけど、やっぱりこの子の顔はとても可愛らしいのだが、何故学校では今みたいに顔が見えるような髪型にしてないんだろう?

でも、それは聞かない方がいいから、やめておこう。

「うん、じゃあ着替えて玄関ホールで待ち合わせしようか?」

「玄関ホールじゃなくて、駅で待ち合わせしませんかご主人?」

「別にいいけど、わざわざ駅でいいの?」

「だって、同じ建物から出てきたら、同棲してると思われるじゃないですか〜」

顔を抑えながら「えへへてへへ」と言っている小春さん。

「まあ、そう思われないと思うが、了解。じゃあ、今は9:30か。11:00に駅でどうかな?」

「ちゃんと女の子の準備に時間がかかるのを配慮してくれるんだね〜、優しいご主人だ!!」

「普通じゃないの?」

「普通の男の子は配慮出来ませんよ、だんだん出来ていく人もいますが……」

そう言いながら、ヘッドドレスを外す。

「11:00に駅前で、また後でご主人っ!!」

そう言うと「ふんふふ〜ん」と鼻歌を歌いながら部屋を出て、隣の家に帰る小春さん。

玄関がガチャッと音をしてしっかりと家の中に入ったことを確認し、僕も玄関の鍵を閉めた。

「さてと、僕も準備をして駅に向かおう……」

僕はスエットと下着を洗濯機にぶち込み、シャワーを浴びた。








「10:50か、思ったよりギリギリになったな……」

僕は少しギリギリになったことを後悔しながらも、先程コンビニで買った缶コーヒーを飲んでいた。

やはり、自分で淹れるコーヒーよりも少し濃い味がする……。

そろそろ、待ち合わせ時間だが、どんな格好で来るのか少しワクワクしている。

缶コーヒーを飲み終え、リサイクルボックスに飲み終わった缶を入れる。

「おまたせしました、ご主人っ!!」

声をかけられた方を見ると、小春がいた。

緩くウェーブのかかった髪、淡いパステル系の水色のブラウスに薄いピンクのプリッツスカート、ブラウスの上には白の薄手のカーディガンを着ている。

春が目の前に現れた感覚と、心地の良い春風が通り過ぎた。

「ど、どうかな?春っぽい格好をしてみたんだけど……」

「とてもcuteで、可愛いです」

あ、まずい。同じ意味の言葉を2回使ってしまった……。

「それだと、verycuteで事足りない?」

「ふふふっ」と笑う小春は、メイド服姿とは少し違う、何処か大人びた印象を受けた。

「でも、可愛いことに変わりないから、問題ないだろ?」

こういう事は、やはり口に出すのは恥ずかしい。

僕は、目線を合わせられないままで一言発した。

「そ、それは、その……、ありがとう?」

「何故に疑問形!?」

「な、なんか、素直に褒めてもらえるのが嬉しくて……、ついっ!!」

テヘッと笑う彼女の笑顔が眩しくも、僕の彼女だと思うと、とても愛おしいものに感じた。

「そういうご主人も少し格好をちゃんとするだけでカッコ良さ2割り増しだね!」

「2割かよ……」

僕の格好は、白のTシャツに黒のワイシャツ。ズボンは、ベージュ系の少し淡い色。

少しカジュアルすぎるような気がするけど、高校生ならこんなものだろう。

「でも、これだと、2人とも少し大人っぽい雰囲気で同級生にもバレなさそうだね!!」

「ほら、無駄口叩いてる暇なんてないぞっ!!そろそろ電車来るし……、行こうか?」

照れ隠しで僕は言った。

「う、うん!!そ、そうだね!!」

そう言うと、小春は僕の腕にくっついた。

「あの、小春さん。何故にボクタチハウデヲクンデイルノデショウカ?」

「そんなの、彼氏彼女だからに決まっているでしょッ!!もしかして〜、緊張しちゃってる?w」

ええもちろん!!

生まれてこの方一度も異性とは触れ合ったことなんてないのですから!!

そんなもん緊張しない訳ないだろ!!

「……その、言い辛いんだけど、色んなところが当たって……」

「ふふっ、何言ってんの?」

小春は僕の耳元に顔を近付ける。

「わざと当てて、誘惑してるに決まってるじゃん!!」

囁くようにそう言うと、「ふふふっ」とと僕の腕を引っ張り、駅のホームに連れて行った。

「そんなの、反則に決まってるじゃん……」

ボソッと漏らした本音は、何とか小春に聞かれることを回避することが出来た。





『まもなく桜木町〜、桜木町に停車致します。お出口は左側で〜す』

アナウンスが鳴り、僕は隣でウトウトする可愛い彼女こと餅月小春を軽く揺する。

「小春さ〜ん、気温が暖かくて眠たくなるのはわかるけど、そろそろ着くよ〜?」

「うぅ〜ん……、いや、陽色くんの隣りだと、よく眠れるんだよね〜、なんと言うか、陽色くんの匂いが安心するって言うか……」

何この人平然と恥ずかしい事口走ってくれてんの?

「へぇ〜、参考までにどんな匂いなのか教えてくれよ?」

「なんと言うか、爽やかなんだけど、少し優しい香り。例えるなら、お日様の香りかな?」

「そ、そう、なのか……」

「うん、私この匂い好き〜。ずっと日向ぼっこしてるみたいで幸せな気持ちになれるんだ〜……」

「……」

なんか、自分で聞いておいて、めちゃくちゃ恥ずかしい……。

「……、あ、ごめんねご主人!!少し眠たくなっちゃって……」

「僕の彼女なんだし、僕のことを少し枕にすることくらい、気にしてないよ」

「ご主人優しいっ!!好き〜!!」

「おいおい、そんなくっつくなって!!」

周りの人からの視線が痛い……。

「でも、実は満更でもない表情をしているのはどうしてかな~?」

「ほれほれ~」と言わんばかりのこの表情、ムカつく。

ムカつくが、可愛い……。

「余計なことをいう口は、この口かな?」

僕は小春の唇に人差し指を置きながら言った。

自分でやっていて、とても恥ずかしいが、表に出してはまた煽られるだけだ‼

「……」

「……」

二人の間に沈黙が流れる。

『桜木町〜、桜木町〜。お出口は左側です』

「よ、よし着いたな!!」

僕はすぐに立ち上がり、沈黙を破った。

そして、小春に向けて手を差し出す。

「では、麗しきお嬢様。お手をどうぞ」

「ありがとう!!」

僕の手の上に手を置く小春。

本当にこんな感じにしていると、どこかの貴族のお嬢様とか、どこかの会社の令嬢のように感じる。

こうして僕らは電車を降りて、目的の公園に向けて歩き出した。

流石に腕を組むのは恥ずかしいので、手を繋ぐことで妥協してもらったのだ。

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