第2話 僕はいつからご主人様?

始業式の翌日は大体が土曜日なのだが、今年はなんと偶然にも金曜日が祝日だったため三連休だった。

時刻は午前8:00少し過ぎ、昨日遅くまでスマ〇ラをしていた為、まだ寝ている僕。

迂闊にも、昨日モヤモヤしすぎて連敗後に連勝が止まらなくなり、やめるにやめられなかったのだ。

ガチャッ

静まり返った部屋に響くドアを開ける音。

タッタッタッとスリッパを履いて歩いてくる音が少しずつ部屋の前に近付く。

ガチャッ

僕の寝ている部屋にそれは入ってきた。

眠った僕は全くもって気が付かない。

それもそのはず、今は睡眠サイクル的に熟睡状態なのだから。

誰かの吐息が耳を擽る。

「ご主人〜、朝ですよぉ〜」

優しい声が僕の耳元に囁き掛ける。

しかし眠たい僕は、

「あと3時間くらい寝させてぇ……」

そのまま寝返りをうつ。

「それだと、お昼になっちゃいますよぉ〜」

「今日は休みだから、昼でいいの……」

「そうですか、それでは……」

少し僕の掛け布団がめくれる。

それが僕の布団に侵入してきた。

寝ぼけている僕は、侵入者に抱きついてしまった。

柔らかい

柔らかさの中に確かな温もりを感じるし、この生地の触り心地は、メイド服…………?

ん?

ちょっと待て。

僕はメイドさんを雇ったり、お嫁さんを貰ったりした覚えは無い。

それじゃあ、今僕の布団にいるのは誰だ?

僕は目を開ける。

「あ、ご主人〜。メイドの抱き枕添い寝はお気に召されたみたいですね?」

おい、マジでちょっと待て。

何でうちにメイドさんがいるんだよぉぉぉお!!!!

「待って、なんで、僕の家オートロック……」

「私、同じ階に住んでるの。しかも隣の部屋」

「oh...、Jesus」

いや、それでも僕の家の玄関は鍵がついて……

「まさか、鍵はどうした!?」

「開いてたから、入っちゃった」

えへへとほぼゼロ距離で笑顔を見せてくれる。

ヤヴァイ、カワイスギル……

「なんだかんだ、結構筋肉質だし、手も大きいし、それに……、まだ勃ってないし!」

そう言いなが、僕の太ももに手を置き撫でている。

その瞬間、今まで避けていたのに、男とは単純で一瞬で反応してしまった。

「ねぇ、このまま2人で……」

彼女の顔がどんどん迫ってくる。

もうこのまま卒業してしまうのか?

でも、でもそういうのって……

「そういうのは、もっと仲が深まってからだろォォォォオ!!!!」

僕は布団から爆速で出て、トイレへ駆け込む。

急いで鍵を締め、己のムスコのハイビーストモードを落ち着ける。

「ごしゅじ〜ん!!ここ開けて〜!!私がちゃんと最後までお世話するから〜!!」

「やめてくれっ!!僕の貞操はまだちゃんと守らせてもらうよ!!」

「じゃあ、扉破壊してでも……」

ヤバイ、それはマジでシャレにならんっ!!

そう脳裏に過ぎった瞬間、僕は扉を押さえつけた。

ドンドンドンドンドンっ

すごい勢いでドアが叩かれている。

「もう観念して一緒に大人に……」

「なってたまるかぁぁぁぁぁあ!!!!」

こうして僕のムスコはノーマルモードに戻り、軽くトイレ掃除をしてトイレから出た。

「やっと出てきた〜、せっかくのチャンスだったのに〜!!」

頬を膨らませながら、トイレから出てきた僕を見る彼女。

「なんてことをしてくれるんだ、大体、まだ名前も覚えてないし、そんなにガンガン来られても逃げるしかできないし……」

「大丈夫、私に全て任せて気持ちよくなれば、あとは18歳になったタイミングでこの紙に名前を書いて一緒に役所に提出すれば全て解決っ!!」

そう言いながら、胸の谷間(何処に入れてんだよ)に入れていた婚姻届を見せてきた。

「よく恥ずかしげもなく、谷間から物出したな。流石の度胸だわ、それに……」

僕は彼女のメイド服姿を足元から舐めるように見た。

足元はスリッパだが、白に黒のラインが入ったニーソ、ミニスカートタイプのスカートは、ニーソとスカートの隙間の絶対的な領域、白と黒のシンプルなカラーリングのメイド服に、ヘッドドレスを頭に着けている。

そして極めつけは……

「なんだその挑戦的な胸元は!!」

「え!?でも、このくらい普通でしょ!!」

「んなわけあるかぁぁぁぁあ!!大体な、もう少し色んなところ隠せよ、目のやり場に困るだろ!!」

「別に、彼氏の君にならどこ見られても恥ずかしく……、恥ずかし…く…、いや、恥ずかしいので、あんまりジロジロ見ないでください!!」

そう言うと、ビンタをされた。

「痛ッ!?理不尽なっ!?」

「うぅ〜、強気でいけばごり押せると思ってたのに……」

顔を抑えて、真っ赤になった顔を隠しているが、耳まで真っ赤だったので、一瞬でわかった。

「まあ、いいや。座りなよ、朝ごはん適当に作るから」

僕は冷蔵庫を開け、卵と豆乳を取りだした。

「わ、私も手伝えることって……」

「大人しく座っておきなさい」

「ひゃい……」

大人しくなった彼女は、ローテーブルの近くに置いてある座布団(来客用)にちょこんと座った。

座った姿も、とても美しく、まるでフィギュアのようだった。

「普段の眠り姫があそこまで活発になるのか……」

僕は、ボールに卵2個をを割り入れ、そこに、砂糖大さじ6杯、混ぜ合わせる。

豆乳約600mlを少しずつ入れながら、混ぜ合わせる。

あれば、バニラエッセンスを数滴入れ、香りをつける。

少し大きめの深型角バットに食パンを置き、先程作った卵液を流し込む。

ラップをつけて、上から軽く重石をし、15分放置。

続いて、朝と言えばコーヒー、これは僕のルーティーンでもある。

ドリップポットにコーヒーフィルターをセットしたドリップカップを置き、お湯を沸かす。

豆は、〇eyコーヒーのお徳用、最強。

お湯が湧いた。

〇-faL、これも最強。

軽く回すように蒸らしながらコーヒーを淹れる。

「いい香り……」

思わずメイドさんも声を漏らした。

「そろそろ、フレンチトーストもいいかな?」

僕はフライパンにバターを一欠片落とし、卵液を吸った食パンを落とした。

パンを焼く香りがキッチンを包む。

1枚、2枚……、2人分のフレンチトーストが完成するのはすぐだった。

最後に、皿に盛り付けて、上から軽くはちみつを垂らせば、完成!!

「はい、朝ごはんのフレンチトーストとコーヒー」

「こ、これ本当にご主人が!?」

「なんだよ、冷凍食品でも盛り付けただけとか思ってんのか?」

「い、いや、そんなことは……、冷めないうちにいただきますね!!」

そう言うと、彼女はナイフとフォークを使用して1口食べた。

その瞬間、目を見開いたと同時に、次々と口に運び、数口おきに1口コーヒーを飲む。

それを眺めながら、僕もフレンチトーストを食べ進める。

美味しい。

今日もいい出来だ。





数分後、ひと通り食べ終わり、もう1杯コーヒーを注いで飲んでいた。

「まさか、ご主人が料理も出来て、掃除まで出来てるなんて……」

「まあ、一人暮らしだからな……」

「私を雇う理由がないじゃないですか!!」

「最初から言ってるだろ、僕にはメイドを雇う財力も必要も無いんだって!!」

「で、でもぉ〜、私は彼女だし〜、メイドさんみたいにご主人を癒したいし〜……」

「彼女だからって、頑張りすぎないか?皿下げるぞ〜」

「わ、私がお皿くらい洗いますっ!!」

バッと立ち上がり、皿を持ち上げる。

「いや、ここはうちだし、来客に皿を洗わせるなんて、言語道断だって!!」

「いえいえ、私はメイドだから!!」

「じゃあ、一緒に洗うでどうだ?」

「妥協点としてはそうですよね……」

そう言って2人でシンクに立つ。

僕が食器を洗い、流して、彼女が洗い終わった皿を拭き、棚に仕舞う。

二人でやると、すぐに片付いた。

「ところで、今更なんだけど、名前、何て言うの?」

「もう忘れちゃったんですね、ご主人は……」

少し呆れた声のトーンで僕の対面に座り、コーヒーをすすっていた。

「もう一度自己紹介しますね、ご主人!!」

「まず、ご主人呼びを控えていただけると助かるのだが……」

「いえいえ、お気になさらず!」

「気になるのだが……、まあいいや。それで、名前は?」

「そうでしたね、私の名前は、餅月小春もちづきこはるです。これからよろしくお願いします、ご主人!!」

満面の笑みでこちらを見る小春は、とても可愛く、やはり少し不思議な感じがした。

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