吉原の見世と出合茶屋
良前 収
着流し姿の男
「他の
「ん?」
五枚重ねの布団の上にどっかと
「
他の花魁を話さないで、つまり他の花魁を買わないでと、この花魁は言っている。確かに
だが、
「はは、わしにそれを言う花魁も珍しい」
男はただ笑って、その女の肩をもう一方の手で抱いた。だが花魁はいやいやと
「柳さま、
「そう、つれなくするな」
また低く笑い声を上げながら男は煙管を盆に
「可愛い顔を見せてくれ」
そして目をじっと見る。女の身体がびくりと跳ねた。そのまま男の腕の中で、硬直する。
やがて、必要なことを見て取った男は女の目から視線を外した。
「おっと」
男はもう一度花魁を抱え直し、
「柳さまの、いけず……」
ふいっと目をそらす花魁に、男はまた笑った。
◇
着物といい履物といい身を包む物全ての、誰もが気付ける上質さと
時折「やぁ柳の旦那」などと声をかけてくる者がいて、柳もにこやかに
彼が差しかかった四つ角に、一人の娘が待っていた。
派手ではないが品よく華やかな着物、商家の娘といった
柳と娘は互いに
二人の行った先は
その瞬間、娘がやっと口を開く。
「おい、そろそろ私の堪忍袋の緒も切れるぞ」
「ん?」
柳は
「なぜお前と仕事の話をこんなラブホテルでしなければならないんだ!」
「そりゃ二人きりで長時間
「他にも選択肢はあるだろ!」
「じゃあ所帯持つ? そうすりゃ毎――いってぇ!」
娘のほぼ本気の殴打が柳の頭部を襲い、彼もさすがに悲鳴を上げた。
「結婚直後の男が遊廓に通うなど、悪目立ちするにも程がある!」
「どうせ認識阻害具を使うんだから大丈夫だって」
「調査対象や協力者は阻害範囲から外すだろうが!」
「いい案だと思うんだけどなぁ」
「馬鹿も休み休み言え!」
「ちぇーっ」
柳は肩をすくめ、半分本気の冗談をそこで止めた。
「じゃ、報告会を始めよっか」
「……おう」
娘は盛大なため息を吐いていたが、ひとまず二人の「仕事の話」が開始された。
吉原の見世と出合茶屋 良前 収 @rasaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます