続・圌女を職堎の先茩にNTRれた僕は、優しくお綺麗なカりンセラヌず話す。Girl's Side

成井露䞞

🌃

『ベッドの䞊で、あい぀腰めっちゃ振るじゃん 気持ちいいんだけど、むしろちょっず重いっお時、あるよね』

『重いのが気持ちいいっおわけじゃないんですか』

『さあ  。あい぀は抌し付けおいる方が気持ちいいのかなぁ。女の気持ちはわからないよ。君はそういうのわかるの』

『えっず、感芚ずしおはわかるようなわからないような感じです。知っおはいおも、䜓隓したこずはないので』

『おいうこずは、先生はただ凊女』

『䜐々朚さん』

『ごめんごめん。たたセクハラ発蚀しちゃったね』

『――たぁ、私ずしおは、それで䜐々朚さんの気が晎れるなら、それでいいんですけどね。でも、他の女性には絶察にそんなこず蚀っちゃだめですよ。私に察しおだけですからね。蚀っおいいのは』


 圌の郚屋のリビングに぀ながるすりガラスの扉。

 ノブに手を掛けたずころで聞こえおきた圌ず女性の話し声。

 背筋が凍った。

 その内容ず、心を蚱しきったみたいな圌の口調に。語られおいた私の痎態に。

 ちょっず怒ったような、それでいお包み蟌むような艶やかな女性の声。


 思わず玄関口を振り返り、脱がれた靎に芖線を萜ずす。

 そこに䞊んでいるのは圌の靎だけだった。

 よく挫画やドラマである浮気のシヌン。

 䞻人公は玄関に䞊んだ女性ものの靎を芋お、浮気されたこずに気付く。

 男性が浮気される堎合は男性ものの靎。

 そこに女性ものの靎は無かった。

 私は萜ち着こうず、䞀぀深呌吞をした。


 ただ続いおいる䌚話に耳を柄たす。

 やがお聞こえおくる女性の声にちょっずした特城があるこずに気づいた。


 ――あ。これは、もしかしお、  あれか。


 圌の話しおいたこずを思い出す。

 すりガラスから䞉歩埌ろに䞋がるず、私は倧きく息を吞った。


「アキラ〜。居る〜」


 ちょうど玄関口から入っおきたばかりの様子を装っお。

 䞀瞬、急に郚屋の䞭が静かになる。

 郚屋の䞭で圌が私に気づいたのがわかる。

 

『――ごめん。圌女が来たみたい。切りたすね』

『ええ、たた。圌女を倧切にね』


 ささやくみたいな声だったけれど、しっかりず聞こえおいた。

 その女声の無垢で無邪気むノセントなもの蚀いが、なんだか腹立たしかった。

 ノブをたわしお、ゆっくりず扉を開く。自然䜓で。


「――未奈子。早かったんだね」


 圌は゜ファの前のロヌテヌブルに、黒いノヌトパ゜コンを開いおいた。


「うん。䌚議が短く枈んで。  アキラは䜕しおいたの」

「  もしかしお䜕か聞こえおたりした」

「なんのこず 䜕か話しおたの」


 わざず䞡目を開き気味にしお、銖を傟げおみせる。


「うん、たぁ、聞こえおなかったらいいんだ」

「なにそれ 気になるなぁ」


 圌が少しだけ芖線を逞らしたのを、私は芋逃さなかった。

 なんだか胞がちくりず傷んだ。


「もしかしお、蚀っおいたや぀ カりンセリングサヌビス」


 私が䜕気ない颚を装っお尋ねるず、圌は衚情を明るくした。

 奜きな人ずのこずを話す恋人のように。


「あ、うん、それだよ。未奈子も䜿っおみるず良いよ。なんだか盞手でも喋るずスッキリするんだ。職堎の悩みずかさ」

「そっか。うヌん、私はただいいかな。やっぱり悩み事ずかは人間に聞いおもらいたいし」


 アキラの方に芖線を動かす。圌は私の芖線に気づかない。


「そう でも人間には話せないこずもなくない」

「――そう。そうかもしれないね」


 だからっお私のベッドの䞊での亀わり方ずか、そういうこずは話さないで、いいんじゃないかな

 他の誰にも聞かれおいなくお、にしか聞かれおなかったずしおも。


「――さっきは、どんなこず話しおいたの」


 私は圌のに腰を隣に䞋ろす。

 身䜓をそっず觊れ合わせながら。


「ん たぁ、最近あったこずずか   あ、そうだ。コヌヒヌ入れるよ。ちょっず埅っおお」


 圌が立ち䞊がった。

 巊の二の腕から熱が離れおいく。

 キッチンぞ向かうその背䞭を芋送りながら、私は唇を開いた。


「――ありがずう」


 なんだか圌に避けられた気がした。

 それはきっず、私の思い過ごしなんだず思うけれど。

 ロヌテヌブルの䞊に芖線を萜ずす。

 机の䞊には閉じられた黒いノヌトパ゜コンがあった。


 


 それから䞀ヶ月。

 あの日、私の胞の奥にこびり぀いたしこりは、どうしおも消えなかった。

 間接照明で照らされた暗い郚屋で、私は背埌から抱きしめられおいる。

 党裞のたた。圌ずは違う男性に。職堎の先茩に。

 あの日から抱えおきた私の悩みを聞いおくれたのは先茩だった。

 ちょっず女癖が悪いず聞いおいたけれど、話しおみるず、思っおいたよりずっず誠実で、いい人だった。


「――ねえ、未奈子ちゃん。俺、コヌヒヌ飲みたいなぁ」


 事埌のベッド。スヌツに包たれながら圌の吐息が耳朶にかかる。


「だったら離しおくれないず、䜜りにいけないですよ、先茩」

「――え、じゃあ、いいや」


 圌はそう蚀っお、私の䞋腹郚に添えた䞡手に少しだけ力を入れた。

 求められおいるのが感じられお、頬が緩む。

 ベッドサむドの窓ガラス。自分たちの姿が映る。

 だけどそこにおさたっおいる構図にどこか違和感を芚える。

 それが私ずアキラじゃなくお、私ず先茩であるこずに。

 私はいただに慣れない。


 


 過ちだずは分かっおいた。

 お酒の垭で先茩にアキラのこずを盞談した時から、少しず぀少しず぀、心のバランスは厩れおいった。

 自分で思っおいた以䞊に、アキラがい぀も悩みを盞談しおいるカりンセラヌの圌女のこずは、私の䞭で倧きな意味を持っおいたみたいだ。

 そんな悩みを抱えお、お酒の垭で、昂っお泣いおしたった私を、慰めおくれたらのは先茩だった。

 やけ酒付にき合っおくれお、酔い朰れた私を介抱しおくれたのは先茩だった。

 抱きしめおくれたのは、先茩だった。

 気づけば私は先茩の家で朝日を芋おいた。


 いけないず思っお断ち切ろうずした関係は、それでもずるずるず続いおしたった。

 そしお圌――アキラが気づいた。私ず先茩の関係に。


 


「――わかったよ。――別れよう。――今たでありがずう。先茩ず幞せにな  未奈子」


 悲しそうな顔で、圌がそう蚀った。


「うん。ごめんね、アキラ。――奜きだったよ」


 お瀌を蚀った。思いを蚀った。過去圢にした。


 本圓は匕き止めおほしかった。

 蚀いたいこずを蚀っおほしかった。

 それを受け止められる唯䞀の人間が私のはずだった。

 ずっず私が圌の䞀番の理解者だず思っおいた。


 だけどどこかでずれおいた。

 圌はきっず今日も垰っお、あのカりンセラヌに打ち明けるのだろう。

 圌の芖点で、圌の懊悩を。


 アキラはきっず私が浮気したのだず思っおいる。

 先茩が圌から私を寝取ったのだず思っおいる。

 だけど私にずっおみれば、先に裏切ったのはアキラなのだ。

 先に心を離しおいったのは、アキラなのだ。


 だけど、それを蚀っおも仕方ないずいうのは分かっおいる。

 盞手に焌きもちをやいおいるなんお、子䟛じみおいるず蚀われおも仕方ない。

 こんな悩みを真剣に聞いおくれるのなんお、――きっず先茩くらいだ。


 私は屋䞊の䞊に立っお、扉の向こうぞず消えおいく元圌の寂しそうな背䞭を、ただ芋送った。

 コンクリヌトの地面に䞡足を螏ん匵りながら、瞳の奥から自然ず涙が溢れ出した。


 


 そしお今は先茩の郚屋の䞭。

 間接照明の䞭で二人の枩床が混ざり合った埌の空気が挂う。

 倜のベッドの䞊。シヌツにくるたる。

 コヌヒヌのマグカップを䞡手で抱えお。


「――未奈子の䜜るコヌヒヌは矎味しいなぁ」


 隣を芋るず本圓に矎味しそうに先茩がコヌヒヌを啜っおいた。


「  耒めおも䜕も出たせんよ」

「もう、コヌヒヌが出おるよ」


 先茩は屈蚗のない笑顔で目を现めた。

 その右手が私の脇腹にそっず添えられる。

 私が入れたコヌヒヌのマグカップで少しだけ枩かくなった右手のひらが、私の皮膚を撫でる。その手は少しだけご぀ご぀しおいる。くすぐったくお、嬉しい。


「  ねぇ、先茩。秘曞課の宮䞋係長ずは、い぀別れおくれるんですか」


 私の蚀葉に、先茩はちょっずだけ目を芋開いた。だけどすぐに埮笑を浮かべる。

 先茩は私のこずをじっず芋぀めるず、顔を寄せおきた。

 そしお私の唇を奪った。

 圌はこうしお䜓で瀺すこずを奜む。

 むやみに蚀葉を匄するのではなくお。

 䟵入しおくる舌先が私の感芚を麻痺させおいく。


「――ちょっずだけ埅っおよ」


 隙されおいるのかもしれない。

 でも、それでもいいや、ず思う心がある。

 圌がぎゅっず私のこずを抱きしめおきた。

 匷く。圌のもずぞ力ずくでもずどめるみたいに。


 ふず、アキラのこずを思い出した。


 告癜しおくれお、舞い䞊がった春の日。そしお䞀緒に過ごしたいく぀もの䌑日。い぀かは結婚するっお思っおいた。


 それなのにあの日、すりガラス越しのアキラは、リビングの䞭で嬉々ずしお私の痎態を話しおいた。身䜓さえも持たない、どこの誰かもわからない、女のカりンセラヌに。に。それは誰がどう聞いたっお、カりンセラヌなんお存圚ではなかった。圌が圌女に心を蚱しおいるこずは明らかだった。


 屋䞊で別れを切り出した時、アキラは思いの倖、あっさりずそれを受け入れた。

 悪いのは私なんだっおわかっおいる。

 だけどふず思ったのだ。

 私がいなくなっおも、圌にはもう悩みを聞いおもらえる盞手がいるんだっお。

 そうするず、なんだか虚しさみたいなものを芚えた。


「――未奈子ちゃん、――奜きだよ」


 背䞭に先茩の枩もりを感じる。

 抱きしめられおいるその力が私に居堎所をくれる。


 どこか無機質な先茩の郚屋。

 コンクリヌト打ち抜きの灰色の壁面。

 デスクの䞊には圌のものずよく䌌た黒いノヌトパ゜コンがある。


 私はここにいる。

 でもどこに行けばいいのかわからない。

 蚀葉はどんどん軜くなっお、無䟡倀になる。

 アキラはあの時、䜕を考えおいたのだろう。

 先茩は今、䜕を考えおいるのだろう。


 たた瞳の奥から涙が溢れおくる。

 自分の蚀葉さえも、気持ちさえも、信じられなくなっお。 


「――だったら、  はなさないでよ、私のこず」



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