第2話 絶望からの幸福

母の実家へ来て1週間。

僕は学校へは行かずに自分で勉強をしていた。

祖父母にお願いしてドリルなどを揃えて母の部屋や、リビングで1人でしていた。


母も仕事を探しながら面接に行ったり、

こういう前向きに行動を起こすところは母に似たようだ。


でもある夜、押し込めていた感情が爆発した。

23時頃、電話で父と話す母が居た。


楽しそうな声。


『自分など必要ない』


そう感じて家を出た。


多分この頃からだと思う。ふらふらと夜中に家を出る癖が出ていたのは。



夜中1時頃、近所の公園の滑り台の下の空間でうずくまる僕を母が見つけた。


「なにやってんの!!」

母は僕に叱った。当然だ。


でも僕は、「消えてあげただけ。俺なんか必要ない。」と力なく言うと、


引きずり出されて頬を思い切り叩かれた。


そんな母さんに僕は再度言った。


「産まないで欲しかった。そんなに父さんがいいなら俺なんか産まないで欲しかった。仕方なく産んだんなら捨てて欲しかった。殺して欲しかった。今ここで殺してくれていい。できないなら俺の事は記憶から消して。」


この時小学校5年生。

母は立ち尽くしていた。




――――――――――――翌朝。


家に戻ると、母は自室に居て、僕が戻ると僕に言った。


「涼太。あんた、どこまで本気なの。」と。


「なにが?」僕は怒っていた。

「あたしに」とそんな僕と真逆に冷静な母。



「ただの母親。それだけ。」



僕はそれだけ言って、リビングへ行ってまた勉強を始めた。

それくらいしかすることがなかったから。



母はそんな僕の後を付いてきて、僕の手を止めて、 強引に僕を母と向き合わせた。


そして…母は僕にキスした。


僕は驚いて固まっていると、



「答え聞いてない」と母。


僕は答えた。


「どうせ父さんには勝てない。だから死にたい。母さんにとって一番になれないなら生きてたくない。」と。


すると母は僕を抱き寄せて僕に言った。


『勘違いしないで。あんたは私の一番の男。産んだん瞬間からそう。』


でも僕はまだ怒っていた。


「じゃあなんで父さんとあんな楽しそうに話してたの。」


「あんたの話してたの。父さんは笑いもしなかった。」

「嘘だ」

「嘘じゃない。」

「嘘だ。」

「嘘じゃない。」

「嘘だ」

「嘘じゃない」


僕はもう笑っていて母を許していた。


そのまま母の首筋に鼻をつけて直接匂いを嗅いで抱きつきながら、

「母ちゃんごめん。」と言うと、


「勘違いさせたならママの方こそごめん。」

「ママは悪くない。酷いこと言ってごめん」

「悲しかった。凄く。でもね、あんたがそれだけ私を思ってるって分かったから今は凄く嬉しいし、幸せ。」




僕らには僕らの関係性があって、

僕らだけの世界がすでにそこにはもうあった。


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