リタの邸

「リタ!早いな」


「ロウこそ。まだ待ち合わせの30分前だぞ?」


「それを言ったらリタもだぞ」


「わ、私はお前を案内する側だからな。遅れる訳にはいかんだろう?」


「それにしても早いぞ。本でも読んで待ってればいいのに…」


「それだと熱中してしまうからな」


「えっ!?リタって結構本を読むのか?」


「お前の中での私のイメージはどうなっているのだ…。剣術に関することや儀礼。他にも色々読んでいるぞ」


「それは悪かったな。それにしても…」


「なんだ?」


「今日は騎士服じゃないんだな?」


「流石にまだ病み上がりだしな。それに、私の武器を見に行くわけでもないからな」


 今日のリタの格好はズボン姿にカッターシャツのような服。それに上着を羽織る形だ。動きやすくてリタのイメージに合っている。


「どうした?」


「いや、リタに合ってるなって思った」


「当たり前だ。私にもちゃんとネリアのようなメイドがついている」


「そういや、そうか。俺は見たことないけどな」


「あ~、まああれだ。機会があったら会わせる」


「分かった。それじゃあ、行くか!」


「うむ」


 王宮を出るとまずはリタの邸を目指す。馬車を使うのかと思ったら、街へ行くのに邪魔になるから徒歩だそうだ。特に離れている訳でもないから、問題ないらしい。


「流石に貴族の住む邸ほどではないが、護衛騎士に与えられている邸宅だからな。それなりに王宮にも近いんだ」


「へぇ~。じゃあ、外見も豪華なのか?」


「豪華か…う~む。そういえばそうなのかな?」


「なんだよ。はっきりしないな」


「しょうがないだろう?小さい頃は領地の邸に住んでいたし、騎士学校時代も王都の邸だった。そこから今の邸に移ったから基準が分からんのだ」


「あんまり外でそういうこと言うなよ」


「分かっている」


 にしても、騎士学校の首席だということと言い、リタは本当にエリート街道を進んできたんだな。王宮を出て10分ほど歩くと少しずつ家の規模も小さくなり、そこからさらに5分歩くとリタが立ち止まった。


「おっ!ここがリタの邸か?でけぇなぁ~」


「いや、ここは父上の邸だ」


「父上?っていうとエルゼイン伯爵家か?」


「ああ。普段より付かないからちょっと気になってな。さあ、先へ進もう」


「寄らなくていいのか?」


「構わないさ」


「そういえば見舞いでも会わなかったな。そんなに忙しいのか?」


「忙しいというか父上は今、領地に行っていてな。兄上は騎士団の仕事で王都には居ないし、上の兄は邸には居るがそれこそ今回の件で忙しいのだ。ああ、だが心配は無用だ。この前、見舞いには来ていただいた」


「そりゃよかったな。兄妹とどんな話をするんだ?」


「騎士団に所属するか領地を治めるかだから、基本は治安に関することがほとんどだ。領民や国民の命を預かる仕事だから当然だがな」


「えっ!?プライベートでもそんな話ばっかりなのか?」


「他の話題といえば、上の兄は子どもがいるからその話だな。兄上に関しては今新婚2年目なのに地方へ行くことが多いから、大体は愚痴ばかり聞かされている。姉上たちは嫁いで家にいないから中々会えないな」


「それは寂しいな」


「ああ。子どもの頃はよく相手をしてもらっていたからな」


「やっぱり剣のか?」


「なんでそうなる…。上の姉二人はどちらも剣はほとんど使えん。武門の家に生まれた義務で持ったことがあるぐらいだ」


「じゃあ、なんでリタは剣術なんだ?」


「単純に性に会っていたのだろう。逆にドレスでままごととかは苦手だった」


「親に反対はされなかったのか?」


「母上からは反対されたが、父上は大喜びだったな。姉上たちがみじんも興味を示さなかったから寂しかったらしい。将来は自分の育て上げた騎士を要職に付けたかったようだ」


「今は念願叶ったって訳か。親父思いのいい娘だな、リタは」


「変な褒め方をするな。私がやりたかっただけだ」


「そりゃ悪かったよ。でも、次男の人も騎士なんだろ?それでもリタになって欲しかったのか?」


「あ~、兄上は計算とか管理は上手いのだがな…」


 珍しくリタが口を濁す。


「ひょっとして剣の腕前は…」


「正直に言うと、新人レベルだ。それも、その中でも下位だろう。ただ、騎士でそういった兵站の管理に長けた人材は惜しいから今は第3騎士団の副団長をやっている」


「それってかなり偉いんだろ?」


「ああ。ただ、第3騎士団は南東部の地域を担当するから家を空けることも多くてな。それに剣の腕は人並みだから父上が余計に気にしていたらしい」


「一番上の兄貴は?」


「上の兄は剣の才能はあったが、次期領主だからな。無理はさせられんし、剣に使う時間も限られていた。とても残念がっていたのを覚えている。本人も剣は好きだったがしょうがないのだ」


「そうやって話を聞くと貴族って大変だよな。俺は全く向いてない気がする」


「そうかな?ロウは確かに気さくで貴族向きではないかもしれんが、大事な資質があると思うぞ」


「資質?」


「うむ。私を助けてくれた時もそうだが、自分の使命に対する責任感とやり遂げるための勇気がある。それは何かを成すには必要なものだと思うぞ」


「リタは真面目だな」


「なっ!?人が折角褒めてやったというのに…」


「冗談だよ。あんまり褒められ慣れてないからな。それより、邸はまだか?」


「もうすぐだ。ただ、あまり期待はしないでくれ。手紙も急いで送ったが用意はできてないと思う」


「大丈夫だって。使用人ってリタが直接選んだんだろ?」


「まあそうだが…おっと、着いたぞ」


「へ~、ここがリタの邸か。思ってたより立派だな」


「そ、そうか?」


「ああ。さっき、伯爵家の実家を見せてもらっただろ?あれよりかなり小さいと思ったけど、そこそこ大きいじゃないか」


 庭の規模が圧倒的に劣るものの、建物としては向こうの半分ぐらいの規模はある。領地を持たない騎士でも護衛騎士ともなればここまでの家に住めるのかと他の人も希望が持てるだろう。


「では、使用人を呼ぼう」


「呼ぶってここからか?」


「ああ。この魔道具を使って呼ぶんだ。この小さいボタンには個人の魔力が登録されていて、邸の中にある対になっている魔道具が反応する仕組みだ」


「へ~、中々便利だな。会話はできなさそうだけど、魔道具によって誰が来たか分かるとかもあるのか?」


「いや、対になっているから2つ一組だが?」


「それだと俺も部屋を使わせてもらうのにちょっと不便だな。邸の中にあるのが親機で、リタが持ってるやつを押したら青、俺が押したら赤とかそういう風にできないのか?」


「なるほど、それは便利だな。今度魔道具師に頼んでみるか」


「ん?今までそう言うのはなかったのか?」


「個人ではやっているかもしれないが、私は聞いたことがないな。そもそも、貴族が居は入り口に衛兵が立っていて、さっきの伯爵家の前にも門番がいただろう?」


「ああ、そういえばちらっとこっちを見ていた気もするな」


「そういう訳だから、この魔道具は私のような使用人が少ない貴族だけが使うんだ。そういう貴族は領地を持っていないことが多いから、主人の帰りを知らせる以外は必要になることがほとんどない」


「でも、子どもとかが居たら学校帰りはどうするんだ?」


「そちらは時間も決まっているし、寮もあるからな…まあ、便利そうだから連絡はしておく」


 ボタンを押しながらリタがそう返事をする。これで俺が使うのも便利になりそうだ。細かい予定を組まないと家に入れないって言うのも嫌だしな。

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