執事とメイドたち

「リタ様!本日のお越しをお待ちしておりま…!?」


 執事の男がこちらに向かってくる。しかし、リタを見た後で俺を見た瞬間、言葉を途切らせてしまった。


「あ、あの、そちらの方は?」


「うん?昨日手紙が届いただろう?今日邸に連れてくる客人だ」


「そ、そそ、そうでしたか!いや~、早とちりしてしまったようで申し訳ありません。すぐに用意いたします」


「うむ、頼んだぞ」


「今のが執事か?」


「ああ、ケスラーと言って、男爵家の出身だ。経験豊富で邸の管理や会計も一任している。他にもナターシャとリーディアと言う二人のメイドがいる。ナターシャは金髪のお前より少し背が低い料理担当のメイドで、リーディアは茶色の髪で背が低い。まだ、14歳だしな」


「えっ!?14歳でもう働いているのか?この邸にいるなら貴族じゃないのか?」


「ああ。確かに子爵家の出身だが、4女な上に領地は持たない法衣貴族だからな。貴族相手に婚約は難しいし、こうして少しでも条件をあげるために働いているんだ。王女付きの護衛騎士の邸で働いていたとなれば箔が付くだろう?」


「ふ~ん。小さいのに大変だなぁ」


「確かにな。だが、そういうものは多い。村であればもっと小さい時から働く訳だしな」


「家業が農耕じゃしょうがないか」


「魔物が多い地域だと村から出ずに一生を終えるものも居るぐらいだ」


「それはまた退屈そうだな」


「ああ。おっと、中に入るか」


 門はケスラーが開けてくれたので、入った後は閉めて邸の中へ。


「へぇ~、結構色々飾られてるんだな。絵画やツボまで有る。てっきり、鎧兜や剣を飾ってるのかと思った」


「最初はそれをしようとしたのだが、流石に玄関を入ってすぐにそのようなものばかりでは相手が委縮すると止められたのだ」


「ま、そりゃそうだ。アドバイスをくれたやつには感謝しないとな」


「ああ、それもケスラーが教えてくれたんだ。よくできた執事で紹介してくれた殿下には感謝している」


「ん?マリナの紹介だったのか?」


「ああ。この邸も護衛騎士に任命された時に頂いたものだからな。メイドの2人は私がケスラーと面接をして決めたが、彼だけは紹介なのだ」


「そういう経緯があったのか」


 バタバタバタバタ


「おかえりなさいませ!リタ様!!」


「リーディア、久しぶりだな。元気だったか?」


「はい。ナターシャ様が今、お菓子をお作りしておりますので、少々お待ちを…を?」


「ああ、紹介しよう。新しくマリナ殿下の護衛騎士となったロウだ。お前たちにも連絡が行ったかと思うが、強力な魔物から私を救ってくれた恩人でもある。失礼のないようにな」


「は、はいっ!嘘っ、てっきりケスラーさんの冗談かと思ってたのに…」


「ケスラーが何か言っていたのか?」


「いえっ!すぐにナターシャ様を呼んできます!」


「あっ、おい!なんだったんだ、リーディア…」


「結構元気いっぱいなんだな」


「まあ、末っ子というのもあるのだろうが、のびのびと居させている分もあるだろう。ケスラーからしたら孫のようなものだしな。さあ、リビングで待っておこう」


「いいのか?呼びに行ったみたいだけど」


「リビングで待っていれば来るさ。いつも帰ったらそうしているからな」


「そうか」


 貴族の邸なんて当然初めての俺は、周りを見ながらリタについて行った。


「ここだ」


「ここか?広いな…」


「まあ、大勢で集まって食事も取れるようになっているからな。私はそこまで人と食べないから、もっと小さい部屋で食べているが」


「そう考えるとこの邸、広すぎだな」


「全くだ。3人には負担をかけてしまっている。もう少し人を雇ってもいいのだが、私がほとんど邸にいないし、必要ないと言われてな」


「まあいいんじゃないか?変に人が増えて問題が起きても困るだろ?そのためにリタが邸に帰って来ないといけないしさ」


「そこは本当に助かっている。リーディアもナターシャによく懐いてくれているしな」


「年齢が離れた姉みたいな感じなのか?」


「そうだな。最初はナターシャの身分の方が低いから心配していたのだがな」


「ナターシャはどこの家出身なんだ?」


「オーキスという家だ。お前は知らないだろうな」


「全く分からん」


「ま、知らなくてもしょうがない。彼女の家は騎士爵家なのだ。騎士爵家は数多くある上に、一度騎士として途切れてしまったら、即平民になってしまうぐらいだからな」


「それはそれできついな」


「本人たちもそれは分かっているから、貴族という意識もそこまで強くないのが特徴だな。ナターシャは料理が得意だが、普通は料理人は男性が多いのだ」


「ふ~ん、革新的でいいじゃん」


「…お前は。今日はそれを聞けただけでもここに連れてきてよかった」


「大袈裟だな」


 パタパタ


 そんな会話をしていると可愛らしい音が響いて来た。


「リタ様!お帰りなさいませ」


「ああ、ナターシャ。今帰ったぞ」


「ご心配しておりました。大けがをして帰ることも難しいとお聞きしておりましたので」


「うむ。みんなには心配を掛けたがもう大丈夫だ。今はリハビリ期間だがな」


「この機会に十分お邸でお休みください。ところでお客様がいらしたと…」


 なんでここの使用人たちは俺を見ると必ずフリーズするのか…。顔に何かついているのか?ペタペタと顔を触ってみるがそのようなことはない。まあ、ネリアが準備してくれたんだからそんなことありえないんだけどな。


「この方は?」


「いや、客人だ。リーディアにも伝えたが、私の命の恩人でもあるから丁重に扱ってくれ」


「は、はい。よろしくお願いいたします」


「こっちこそよろしく。ナターシャさん」


「ナターシャで結構です。お菓子を作りましたのですぐお持ちしますね」


「そうだな。ああ、お前たちの分も一緒に頼む。簡単にこの間のことを説明したい」


「承知しました」



 それから、5分してナターシャさんを含め3人の使用人がリビングにやってきた。


「話はナターシャから聞いていると思う。それぞれ席についてくれ」


「あの…俺はどこに?」


「ロウは私の隣でいいぞ。説明する時に対面にいては面倒だ」


「リタ様が隣に…」


「な、何者なのかしらあの人…」


「なにか盛大な勘違いをされているような気がするな」


「みんなどうした?」


「いえ、お話をお願いします」


「そうだな。まずは何から話したものか。やはり、ロウとの出会いからだな……」


 リタはそれから俺と出会った時のことを話した。そして、ベイルン伯爵領で大けがを負ったことも。


「ほ、本当に命の危険だったんですね!そこの方、よくやりました」


「ああ、まあ俺がもっとうまくやれればよかったんだがな」


「その件はもういいと言っただろう。気にしすぎだ」


「それにしても、同じ護衛ということですが、リタ様のご学友ですか?」


「いや、ロウは他国の出身なんだが訳あって、旅をしているんだ」


「では、ご学友ではないと?」


「うむ。大体みんなも知っているだろうが、私は皆に避けられていたからな」


「えっ!?そうなのか?リタって結構親しみやすいと思うんだけどな」


「そういうのはお前ぐらいだ。特に女性騎士見習が学年一位だということが気に入らないやつが多くてな」


「ああ、そっちがあるのか」


「私を含めて女性が学年首席で卒業することはほとんどない。学校の歴史でも数名いる程度だ。まあ、中にはその年度自体LVが低い年もあって、私の時は低くはなかったがな」


 自慢気にリタがいう。まあ、それだけ努力したんだろうしな。体格もそこまで大きくないし。

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