全てを貫く銃を片手に異世界に行った俺、姫を助ける

リタと王都

待ち合わせ

「なんだ、まだ食べたりないのか？」

「いや、あれだけ美味かったんだからネリアにも食べさせたくてな」

「全く、ロウはがさつだと思ったらそういう優しさを出すな」

「そうか？褒めても何も出ないぞ。大体、ネリアにはいつも世話になってるからな」

「それだけは間違いないな」

「むっ、いつもじゃない」

「当たり前だ。ネリアもそうそう迷惑ばかりかけられては参ってしまうだろう」

「それなんだよな～。王宮に俺がいる間ってネリアのやつ休まないと思うんだよ。リタ、何かいい案ないか？」

「む、確かにネリアの性格ならやるかもしれんな。そ、それならこれはどうだ？任務の後やたまの休日は私の家に来ると良い。ネリアもお前が王宮にいないなら好きにするだろう」

「いいのか？だけど、俺とリタが一緒に休みを取るのって護衛的にどうなんだ？」

「それは…だが、うちの邸も主がほとんどいないわけだし、部屋は余っている。どこか好きな部屋を使うとよいだろう」

「ん～、でも家主がいないのはなぁ…」

「私がいなくとも、邸にはメイドが2人と執事が一人いる。生活に不自由はないぞ。それにお前の故郷は遠いのだろう？王宮以外にも好きに荷物が置ける場所があってもいいと思うぞ」

「そう言われると魅力的だな。今はほとんど着の身着のままだけど、そのうちものも増えるだろうし、明日邸に行った時に見させてもらっていいか？」

「うむ。では、明日だな」

「おう！」

　話をしているといつの間にか俺の部屋の前に来ていたので、リタとはここで別れる。

「帰ったぞ～」

「おかえりなさいませ。パーティーの方はどうでしたか？」

「ネリアの予想通りだった。本当にこいつを着て行って良かったよ。陛下に宰相と第一騎士団の団長までいたんだぜ？」

「ああ、あのお三方は仲がよろしいですから。きっと、リタ様を心配されての事でしょう」

「そうなんだよ。やっぱり、護衛騎士ってのは偉いんだなぁ」

「それもありますが、リタ様はエルゼイン伯爵家のご令嬢でもありますから、気になるのでしょうね」

「そういや、そんなことを聞いたな。リタって気さくだからそう思ったことなかったけど、かなり良い身分なんだよな」

「領地持ちの伯爵家ですし、家自体も重要なのです」

「そうなのか？確かに武門だって言ってたから魔物がいっぱいいるここじゃそうかもな」

「それもありますが、エルゼイン伯爵家はどの勢力にも属さないことを貫いておりまして」

「それがどうしたんだ？王家なら王族派閥の方がいいだろ？」

「通常であれば当然そうなのですが、何か軍事関係で問題が起きた時、どちらの陣営からも頼れるということが利点なのです。どちらかに有利な報告をすることもありませんから。ただ、純粋に国の利益のためだけに動く家なのです」

「あ～、そりゃあ貴重だな。だから、リタみたいな高位の貴族がマリナの護衛についても文句が出ないのか」

「そういうことですね。他の貴族ですと、どちらかから嫌がらせが入ることもありますし、要らぬことを諫言する可能性もありますから」

「あいつも苦労人なんだなぁ」

　コンコン

「ん？誰だ」

「ロウ様、先程言づけられたものをお持ちいたしました」

「ああ、悪いな」

「では、受け取ります」

　ネリアが扉を開け、頼んでおいたアヒージョとパンが運ばれて来た。

「あら？先程食事は済まされたのでは？」

「ああ、ちょっとな。とりあえずテーブルに置いてくれ」

「はい」

「それでは失礼いたします」

「ああ、ありがとな」

　アヒージョを運んできてくれたメイドに礼を言ってネリアに向き直る。

「さっきリタたちと食べたんだけどさ。これが一番うまかったからネリアにも食べてもらおうと思って。リタのお墨付きだから間違いないぞ！」

「リタ様の…それは楽しみですね。ですが、よろしいのですか？」

「ああ。いつもネリアには世話になってるしな。たまにはこういう美味いものを食べてもらおうと思って。でも、好きなものじゃないなら遠慮なく言ってくれよ。別にたべられないなら俺が食うからさ」

「いいえ、せっかくロウ様に頂いたものですからいただきます」

　そういって、運ばれてきた料理を食べるネリア。

「そういえば、気になったんだけどさ」

「はい」

「ネリアとかっていつ食事してるんだ？」

「ロウ様が出かけられている時や、読書など自由時間。あとは習い事をされている合間ですね」

「それだけなのか？食べる時間取れてるのか？」

「食べる時間と申されましてもそういうものですので…」

「う～ん、本当は一緒に食べて欲しいところだけど、それは前に断られたからなぁ。時間を決めよう！」

「は、はぁ…」

「と言っても俺の飯の時間も決まってるからそれに合わせないとな。朝は俺が7時ぐらいだから8時でいいか。昼は13時。夜は今みたいに食後に代わりに食べてくれ」

「しかし、朝はそれ以降にお出かけの際は準備を致しますし、夜は入浴の用意がありますね」

「う～ん。それじゃあ、何か予定がある時はその後で」

「釈然としない部分はありますが分かりました。それでロウ様の気が済むなら」

「おう！じゃあ、明日はよろしくな」

「はい」

　アヒージョを食べ終わったネリアにそう告げて俺は眠りにつく。明日はどうなるんだろうな？

「ロウ様！朝ですよ」

「うん？ネリアか…分かった」

　まだ少し眠たいが体を起こし、簡単に朝の準備を済ませて食事を取る。

「今日はリタ様とお出かけですから簡単なものにしております」

「あっ、そういえば昼どうしよう。まだ給料出てないんだよな…」

　そう、俺が護衛騎士として雇われてからまだ1月も経っていない。給料日はまだなのだ。王宮住まいで何不自由ない生活をしているのから忘れていた。

「それなら、ヴァリアブルレッドベアーの売却金額がありますよ。こちらに入っております」

　ネリアに見せてもらったのは小型のバッグだ。革で肩から掛けられるタイプで大きくはない。

「結構強いって話だったけど、あんまり金にはならないんだな」

「それは違いますよ。こちら開けてみて下さい」

「うん？」

　ネリアに言われるままバッグのボタンをはずして中を見る。手前には小さいポケット。死して奥には…。

「なんだこれ！？ザクザク入ってるじゃねぇか！」

　そこには明らかにバッグの容量を超えた金貨が入っていた。金貨には100クロムと書いてある。

「確か平民の給料って月に2000クロムだったな。これが20枚ってことか」

「それはそうなのですが、金貨では持ちませんよ。使いにくいですから」

「考えてみればそうか。500円玉とか千円の方が1万円よりいいよな」

「なんですかそれは？」

「ああ、俺の国の通貨だよ。訳があって持ってはいないんだけどな」

「そうですか。平民は大体銀貨…10クロムと銅貨の1クロムを使っていますね。100クロム金貨は冒険者とか一部の人間だけでしょうか？後は家賃の支払いですね」

「まあ、そういうまとまったやつだけってことだな。で、なんでこいつはこんなに入ってるんだ？」

「このバッグはマジックバッグの一種とのことです。ただし、この口よりは小さいものしか入りませんし、容量もこのバッグの4倍までと書かれております。詳しくはこちらを」

　俺はネリアから手紙をもらう。封蝋と言うのだろうか？何やら印が押してある。

「この印ってどこのなんだ？」

「そちらは王家の紋です。いい機会ですからこちらは封を切らずに覚えておいてくださいませ。今後もいただくことがあるかと思われます」

「そんなことないと思うけどな。でも、マジックバッグって陛下の許可を取らないといけないんじゃないのか」

　ぺらりと手紙の封を切らずに手紙を取り出して中を読むとこの前の討伐報酬だと書いてあった。う～む、いいものをもらったな。これは今度の依頼も頑張ってやろう。

「それではお金の問題は解決いたしましたので、髪型から整えさせていただきますね」

「せっかくだし、よく見えるようにしてくれ」

「もちろんです！」

　それから、1時間以上をかけて髪と服をセットしてもらった。アラドヴァルは緊急時にでも呼び出せるから置いていくとして、他には…。

「特にないか。大体よく考えたら街に行ったことないしな。買い物は今日すればいいか」

　そう思い直した俺は待ち合わせ時間までまだあったが、特にすることもないので向かった。

「こういう時にスマホがあればなぁ。まあ、こっちじゃ本になるんだろうが。流石に読みながら待つって言うのもなぁ」

　娯楽も少ないし、問題ないのかな？リタが来たら聞いてみるか。そう思って、待ち合わせ場所に着くとすでにリタが待っていた。