食事とダンス
「ふぅ~む。ひょろっこいと思ったが、中々様になっておるな」
「フォーク団長、失礼ですよ」
「しかし、貴公も…うっ!ははは、何でもない」
今ナチュラルに宰相が騎士団長の足を踏みつけたように見えたが…。
「皆さん仲がよろしいのですね」
「まあな。オートバンもフォークも私と1歳しかわからんから、昔からよく遊んでいたのだ」
「そうですか、そういう普通の友人のような関係もあるのですね」
「友人と言っても家同士の関係はあるがな」
「ん?どうしたリタ?」
「お、お前、普通に話せるのか?」
「は?失礼だな。いつも普通に話してるだろ?」
「い、いや、陛下にはちゃんとした言葉づかいで…」
「リタになんで敬語とか必要なんだ?」
「それは別にいらないが」
「だろ?ほら、流石に一国の主に失礼な物言いはできないだろ?こう見えて俺の国もそういうところは面倒だったんだ」
そうかと言いながらもなんだか釈然としない顔をするリタ。なんだってんだ?
「いやぁ、本当に面白いやつだな。ロウと言ったか?今度騎士団内で模擬戦をやるんだが出てみないか?」
「いや~、ちょっと俺は無理ですね。実践しかしたことないんで」
「別に自分の武器でも構わんぞ?」
「いや、それはもっとダメっていうか…」
「フォーク殿。うちの護衛騎士の武器は素晴らしいのじゃが、ちと危険での。団員に何かあっては困るので自重してくれい」
「姫様がそうおっしゃるのでしたら、残念ですが仕方ありませんね。実に興味深かったのですが」
「そんなに興味深いですか?」
「ああ。私もあの魔族を見せてもらったが、あれだけの強さを持った魔物はまずいないだろうな。持っている武器も装飾こそないものの、実用的で無駄がなかった。恐らくは6本の腕全てが達人級だろう。あいつに理性があれば、ひとりで何人もの団員の練習相手が出来たのにな」
「フォーク!お前は全く…。少数だが犠牲者も出たのだぞ?そういう軽はずみな発言は…」
「そうだったな。つい…しかし、もったいないとは思うのも事実だ。武人の性だな」
「お前ら、今から食事だぞ。全く…」
「そうでした。すみませんね、このような話ばかりで」
「いえ、こちらこそ入室時には失礼を…」
「本当にお前こそロウなのか?」
「まだ言ってんのかリタ」
それから、少しして食事が運ばれて来た。
「あれ?そういやテーブルがないな」
「今日は立食形式じゃ」
「おっ!そうなのか、興味あったんだよなそういうの」
「ほう?初めてなのか?では、料理の食べ方を教えてやろう」
「いいのか?あっ、でもウソは教えんなよ。お前も恥かくからな!」
「そんなことはせん!ほら、行くぞ」
リタに腕を引かれて料理を取っていく。
「ほら、これはこうやるんだ」
「へぇ~、パンがついてると思ったら乗せるのか」
「ああ。ビッグアントラーのすね肉を使ったアヒージョだな。軽くつまめるのもいいところだぞ」
「思いっきり肉だけどな」
「そう言うな。私のことを考えて下さったのだろう」
「そういや、リタって肉好きだったな。もっと食え食え」
「バカか。食べられる量には限りがあるんだから最初は色々食べるのが当然なのだ」
「そ、そうか」
う~む、肉のことになるとこだわりが深いな。流石は人の肉を奪おうとしたやつだ。
「リタのやつ、やけに楽しそうじゃの」
「良いではないか。リタは普段からただでさえお前の護衛で縁談どころか、パーティーにも出ておらんのだ。年相応の感じでいいではないか?」
「父上の言う通りなんじゃが、相手がのぅ…」
「姫様を助け、自らも助けてくれた護衛騎士。別に相手としては変ではないですぞ」
「やけにロウのことを買うんじゃな、フォーク殿は」
「実際、姫様のことを助けておりますし、リタも忠孝に厚い。良い組み合わせだとは思いますがな」
「全く、気遣いがないのが貴公の悪いところだ。そういうものは思っても口には出さぬものだ」
「ということはオートバンも思っているのだろう?」
「揚げ足を取るな。さあ、姫様。このような武骨ものは放っておいて私たちも食事を楽しみましょう」
「…そうじゃな」
そして、30分ほど食事を楽しむと音楽が流れてきた。
「おっと、そろそろ簡単じゃが、ダンスの一曲でも踊るかの」
「ダンスかよ」
「ほれ、リタはまだ無理をさせられんからお主の相手はわしじゃ」
「俺下手くそだから怒るなよ?」
「心配するな。はなから期待しておらんから」
「それはそれでなんかな…」
「ほら、背筋を伸ばせ!殿下のを務めるなど光栄なことだぞ」
「分かってるよ。そんじゃ、頼む」
「うむ」
メロディーが流れ始めて俺たちはダンスを始める。っていうか滅茶苦茶恥ずかしいんだが…。男比率が多い上に、リタが踊れないから俺たちだけが踊ってるし。
「ほう?馬の事と言いお主、ちゃんと動けておるぞ」
「本当か?」
「いたっ!褒めた先からこれか!」
「す、済まん。痛かったか?」
「大丈夫じゃ、それより足が止まっておるぞ?」
「お、おう」
その後も少しぎこちないながらもなんとか足を踏まずに踊りきれた。
「ふ~」
「お疲れ様」
「おっ、悪いな」
マリナとのダンスが終わり、リタが飲み物を持って来てくれた。
「殿下の足を踏んだのは許せんが、中々様になっていたぞ」
「ありがとな。いや~、面倒なことをさせられた甲斐があったってもんだな」
「それなら、どんな場所でもいけるだろう」
「は?いやいや、身内が精いっぱいだぞ?」
「ここ数日でそこまで踊れるんだ。少し慣れればどんなパーティーにも出られるだろう」
「ひょっとして、自分があまり出ないから押し付けようとしてるな?そうはいかないぜ!」
「なっ、そんなことあるか!殿下の相手が私ではおかしいだろうが!」
「婚約者がいないのに特定のやつが毎回相手なのはおかしくないのか?」
「ええ~い!つべこべ言うな」
「では、2人でやればどうだ?」
「「陛下!?」」
「リタはそろそろ相手を捜してもいい頃だし、確かにロウは今後を考えるとダンスの上達は必要だ。それならお互いの主張を一部認める形だろう?」
「うっ、それは…」
「さてはリタ。自信がないんだな?私は構いません、陛下。立派にダンスを身に着けましょう!」
「そうか。では、手配を済ませておくからな。できれば、次の依頼に行く時までに頼む」
「ははっ!次の依頼?」
「うむ。実は最近少し噂が立っていてな。まだ確証が持てぬから調査の段階ではあるが、遠くないうちに行ってもらうことになるだろう」
「期間は?」
「ひと月はかかる。リタの復帰もあることだしな。良い教師を選定させておこう」
「あ、ありがとうございます」
「ふっ、ダンスの練習当日が楽しみだな」
「何を余裕そうに。リタこそ逃げんなよ」
「無論だ」
「お主ら飽きんのう。その調子で明日、店先で喧嘩をするでないぞ?」
「しね~よ。こいつ次第だけどな」
「それはこっちの台詞だ」
「ん?明日でかけるのか?」
「はい。私は剣を持っていないのでリタに選んでもらうに行きます。ついでに邸の見学もさせてもらうつもりです」
「ほう?邸を…それはいい。リタは任務があるためあまり帰っていないからな。来客があればしっかり管理する気にもなるだろう」
「へっ、陛下!」
「良いではないか。使用人も最低限の3人だけ。王女の護衛騎士の家にしては質素であろう?」
「寄り付かぬ家ではそれで充分ですので」
「だから、こうやって友人が訪ねるのが良いのではないか。もてなすのにまさか、現状のままとはいくまい?」
「それは…」
「そうだぞ。俺も同僚だ。ちゃんとした扱いをしてもらわないとな!」
「お前というやつは調子のいい」
「でもさ、家を見たいのは本当だぜ。貴族の家ってみたことないし、リタの家が気になるんだよ」
「まあ、そこまで言うなら…」
「ふむ。いや~、今日は陛下が無理に誘ったと思っておりましたが、良いものを見られましたな」
「うむ。騎士たちにも見せたかったな」
「いい気晴らしになると言っただろう。とはいえ、そろそろ時間か。君たちも朝が早いだろうし、今日はこの辺で終わりだな」
「では…」
陛下の言葉が合図となってパーティーは終了する。
「おっ!そうだ。このアヒージョってやつ?ちょっと部屋に頼む。うまかったから」
「かしこまりました」
配膳をしていたメイドにそう言づけて部屋を後にした。
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