小パーティー

「それで、明日はリタ様とお出かけになるのですね?」


「ああ、朝は頼むわ」


「かしこまりました。では、明日の起床は6時ということで…」


「ちょっと待った!早くねぇか?」


「早くありませんが?起きられて朝食を済ませて7時。軽くお風呂にも入りますし、その後は髪のセットに衣装合わせ。妥当かと思われますが…」


「待て待て。ちょっと街に出かけるだけじゃないか?」


「姫様の護衛騎士である男女2名がです。いい加減な恰好をなさっていては、悪い評判がついてしまいます。それに、リタ様は妙齢の女性ですよ。それこそ隣に髪がぼさぼさの男性が並んでいては二度と街を歩けませんよ」


「そ、そんなものなのか?」


「ええ。リタ様は騎士である前に伯爵家の3女であられますから。そんな噂が流れたら婚約どころではありませんよ」


「婚約ってリタって婚約者が居るのか?」


「居られませんよ。姫様を大事にされておりますから、そこまで気が回らないのです。実家の方も元々武門のところですし、3女ともなれば結婚相手捜しより王女殿下の護衛騎士という名誉の方が大事ですから」


「ここに来てまで貴族の名誉か。リタも大変だな」


「ご本人はそう思われておられないので良いのではないでしょうか?」


「考える時間がないだけだろ?まっ、俺には関係ないけどな」


「そうですか?」


「なんかマリナもネリアも変に絡んでくるよな」


「失礼いたしました。ですが、以前にもお話しさせていただきました通り、騎士たちはリタ様に中々話しかけないものですから」


「それがいまいち分かんないんだよな。別に威圧してる訳でもないのによ。確かにちょっと目つきは悪いけどな」


「ふふっ、本当にロウ様にはリタ様も形無しですね」


「褒めてくれてんのか?」


「もちろんです。主を褒めないメイドはおりません!」


「どうだか」


 ネリアとそんな会話を繰り広げながらお昼まで時間をつぶし、昼からはまたマナーの時間だった。そして、夕食になるころ…。


 コンコン


「はい」


「失礼いたします。本日の夕食ですが、リタ様をお招きした小パーティーを開催したいとのことですが、ロウ様のご予定は開いておられますか?」


 入ってきたのはミスティアだった。マリナ付きのメイドからということはマリナからか。直接言いに来てもいいのにな。まあ、いいか。


「分かった、出席するよ。今からか?」


「いえ、ご用意があると思いますし、1時間後にお願いいたします」


「了解」


「では、失礼いたします」


 入った時と同じように無駄のない動作でミスティアが出ていく。


「お誘いでしたね。すぐに用意いたしませんと」


「パーティーってホールでか?」


「いえ、ミスティア様のあの口ぶりから察するに個人用の小ホールですね。この部屋より少し広い程度です。親しいものだけを招く時や、婚約者がおられる方なら婚約者とその友人数名などで開かれるものですね」


「要は緊張しないで済むやつだな。じゃあ、スーツで行くか」


「そうですね。ですが、いつも着られているものではなくパーティー用の装飾が施されたものにいたしましょう」


「別にいいのに…」


「相手への礼儀ですよ。ささっ、どうぞ」


 ネリアに誘われるがままに鏡台の前に立ち先に簡単な衣装合わせをする。


「ふむ、こちらで問題ないようですね。では、もう少しお待ちください。お風呂の用意をしてきますので」


「ああ、分かったよ」


 そして、風呂に入るといつものように洗ってもらい、準備を整えていざ…いざ?


「あのさ、俺はどうすればいいんだ?ここで待っていていいのか?」


「はい。そのように伺っております」


「いつの間に…」


「では、係の者が呼びに来るまではゆっくり致しましょう」


「ああ、そうしようか」


 少しだけお茶を飲んで過ごすと呼びに来たので早速会場へ向かったのだが…。



「あ、あれ?」


「なんじゃ?何か変なところでもあるか?」


「い、いや、マリナがドレス姿でいるのは分かるんだが、隣の人は?ひょっとしてお前の姉か?いや~、美人だな~」


「アホか貴様は!姉上はとうに嫁に行っておるわ!見てわからんのか?」


「いや~、こんな人と会ったことはないなぁ。だって、すらっとしててきれいだし。そういや、リタの快気祝いみたいなもんだろ?本人はどうしたんだよ、おせぇなぁ」


「ロウ。き、貴様というやつは…」


「えっ!?その声、まさか!」


「さっきから目の前にいるだろうがぁ~~~~!!」


「ロウよ、そんなに目の前にいるのがリタだと意外か?」


「意外っていうか、本当に真後ろにもう一人いたりしないだろうな?」


「いないわ!なんでそんな真似をしなければならないのだ」


「あっ、そのしゃべり方は本当にリタだな」


「どういう判別の仕方だ、貴様。そんなにこの格好がおかしいのか?」


「いや、おかしいっつーか。あまりに普段と違うからさ。さっきも言ったけど、すげぇ綺麗だし」


「またお前はそうやって…。パーティーなんだからこのぐらいは当然だろう?」


「そりゃあ、着飾るのは当然だけどさ、ドレスと相まって受ける雰囲気とかが違いすぎてさ。なんか変なこと言ってんな俺」


「全くだ。私を褒める暇があるなら殿下を褒めるべきだろう」


「いやいや、マリナはこれでも王族だろ?ドレスも着慣れてるだろうし、何でも用意されるじゃん。前にも一度見たことがあるしさ。リタのはちょっと予想外だった。でも、似合ってるよ」


「……そうか」


 それだけ言うとリタはちょっと下を向いた。う~ん、せっかく綺麗なのに顔が見えん。


「お前たち、いつまでそうしているつもりだ。こちらへ来なさい」


「父上!」


「えっ!?陛下?」


「うむ」


「どうしてこちらに?」


「娘の命を守ろうとした騎士の快気祝いだ。出ぬわけにはいくまい。衣装もこちらで用意させたのだが、気に入ったようだな」


「は、はい」


「ありがとうございます、陛下。お陰でロウの鼻を明かしてやれました」


「ふっ、お前らしいな。そうそう、今日は他にも数名招いているから紹介しよう」


 陛下がさっと手をあげると後ろから数人が顔を出した。


「こちらがわが国で宰相をやっている、オートバン=フェネック侯爵だ。横にいるのは第一騎士団団長のフォーク=マイルズ伯爵だ」


「オートバンです。どうぞよろしくお願いします。聞けば異国の方とか。そちらの話でも聞かせていただければと思います」


「フォークだ。第一騎士団が世話になったな。今後も幾度か一緒に行動することもあると思う。よろしくな」


「よろしくお願いします」


 俺はマナー講習で身に付けた騎士の儀礼を行う。とはいってもここには剣を持って入れないので簡易式のものだが。

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