外出の約束

「ふ~、動いたなぁ。それにしても結構早いんだな。よく騎士はあんな速度で走るよな」


「ん?あんな速度で走らんぞ?」


「は?いや、でもさっき…」


「ロウ、騎士の装備は重たい。それに騎士団として動く時は荷運びの馬車を引く重種の馬も一緒だ。偵察や連絡等の中でも緊急時以外ではあれだけの速度は出さん」


「じゃあ、俺は無駄に頑張ったのか?」


「無駄ではないぞ。それだけ速く走れるのは騎士として必要な資格じゃからのう。それが出来ぬのなら配属先もずいぶん絞られるぞ?」


「ならよかったぜ」


 あれだけ頑張ったのに全く使わないなら苦労した意味がないからな。フェンネに乗れるようになったのは良かったけど。


「さて、そろそろ時間じゃな。帰るとするか!」


「おう!」


 こうして、俺たちはキャロルにフェンネたちを任せて王宮へ戻った。そして、5日後…。




「あ~、疲れた~。この5日間、ほとんど授業とか勘弁してくれよ…」


「ふふふ、馬にも乗れるようになりましたし、本格的に騎士として活動される重要なお仕事ですよ」


「それにしたってなぁ。別に国の歴史なんて必要か?ネリアはそういうの勉強したのか?」


「はい。と言っても私の場合は図書館で自主的にという話になりますが。メイド科に所属しているわけではありませんでしたので、基本はマナーやダンスなどでしたから。一般教養として学ぶ分はありますが、そこまで多くはありませんね」


「へぇ~。でも、貴族なら自身のルーツとか気にならないのか?てっきり、そういうことにこだわるのかと思ってたが…」


「そういうのは当主になるものが、家の方で学ばれますから…。あまり声高に言えることではないのですが、王族派と貴族派で解釈の違う部分もありますし」


 なるほど。教科書として統一見解を出すのが面倒なんだな。そういうめんどくさいところは流石だな。


 コンコン


「は~い」


「『は~い』じゃないわい!もう時間じゃぞ?」


「おっと、そんな時間か。ネリア、ありがとな」


「いえ、行ってらっしゃいませ」


 俺はネリアに見送られてマリナと一緒にリタのところへと向かう。


「いよいよ今日でリタもベッドの住人とおさらばか」


「そうじゃ。本当に良かったわい。改めてロウもありがとな」


「一部は俺のせいでもあるからな。気にすんな」


「うむ。では、忘れておく」


「そこはもう少しだな…」


「着いたぞ」


「チッ、はぐらかされたか」


 コンコン


「はい」


「リタ、入るぞ!」


「マリナ様!どうぞ入ってください」


 マリナと一緒に部屋に入るとリタは隊服を着ていた。


「うん?ロウも一緒だったのか」


「ああ。マリナがうるさくてな」


「よく言うわい。絶対一番に行く時かなかったじゃろうが」


「そ、そんな訳あるか!」


「声が上ずっておるぞ」


「うぐ…」


「ふふふ、来てくれてうれしいぞ。マリナ様もわざわざ来ていただいてありがとうございます」


「いや、快気祝いならもっとよかったのじゃがな。ひとまずは医師からも、もう大丈夫だと聞けて安心じゃな」


「はい。しかし、御身を守るにはこのなまった体では不十分です。今ひとたび、時間を頂くことになるかと…」


「よい。リタが戻ってくるだけでわしはうれしいわい」


「マリナ様…」


「ところでよ、リハビリってどうするんだ?いきなり動き回るわけでもないんだろ?」


「マリナ様のお言葉に感動していたのに貴様というやつは…。まあ、最初は軽く流すぐらいだな。だから、明日は私の街行きに付き合ってもらうぞ」


「俺がか?」


「お前以外にいないだろう?」


「なんでだ。別に他のやつとでも…」


「軽く流すと言っただろう?お前の剣を見て稽古をつけてやる。それがリハビリになる」


「げっ!そういうことかよ」


「遠慮は不要だ。騎士たるもの武器を見る目も確かだからな」


「あれ?でも、騎士の剣って支給品があるんじゃなかったのか?」


「それはだな…」


「ああ、護衛騎士ともなれば支給品以外も認められておるぞ。のう、リタ?」


「…そ、その通りです。マリナ様」


 変な間があったがそうなのか?


「それなら頼むか。支給品の剣も気になるけど、俺に合うかなんてわかんないし。それならリタに見てもらった方がいいな!」


「お前というやつは…」


「何か変なことを言ったか?」


「いや、では明日の…9時半はどうだ?」


「結構半端な時間なんだな」


「店が開くのは10時からだ。それぐらいに集まれば開店に間に合う。いい剣はすぐに売れることもあるからな!」


「ならそうする。マリナ、セドリックに言っといてくれな」


「しょうがないのぅ。明日は親衛隊から数名追加で来させるか」


「そういや、俺って親衛隊扱いなのか?」


「うん?いや、違うぞ。お主はわし直属の護衛騎士じゃ。リタたちも親衛隊から護衛騎士に抜擢という形じゃから本当は違うんじゃが、籍は残させておる」


「どうしてだ?」


「その方が便利なのじゃ。護衛騎士だとわしが決裁して支給品などの処理をせねばならぬが、親衛隊に籍があればそっちでできるんじゃよ」


「なんだよ、サボりかよ」


「サボりじゃないわ!効率化じゃ」


「物は言いようだな。俺に協力するのも支給品を買わなくて済むからだろ?」


「違うわい!わしはリタを思ってじゃな…」


「マリナ様!ち、違います…」


「そうか?まあ、明日は楽しんでくるとよい。セドリックには悪いが、リタもずっとわしについておったから休暇もほとんどとっておらぬしの。邸にもたまには帰るんじゃぞ?」


「ん?リタって邸にほとんど帰ってないのか?」


「あ、いや…」


「まあ、護衛騎士じゃからの。基本は王宮に一室与えられて住み込みになるんじゃ。お主もそうであろう?」


「そういえば…じゃあ、邸の管理ってどうなってるんだ?」


「任せっきりだな」


「じゃあ、明日は先に邸に行こうぜ!」


「なっ!?それでは剣の方が…」


「リタに見てもらえるのはうれしいけど、結局いざってなったら俺はアラドヴァルを使うしさ。貴族の邸って言うのも気になるしな!」


「そ、そうか?では、行くとしよう」


「よかったのぅ…」


「別に私は!」


「リタ様、御荷物の移動が終わりました」


「そうか、済まない」


 話をしていると、荷物が部屋に運び終わったと連絡が来た。


「それじゃあ、明日9時半だな!遅れんなよ!」


「お前こそ遅れるなよ、ロウ」


「ああ」


 休み明けだし、あんまり話し込んでも悪いと思い俺は先に戻る。この前はマリナより先に来ちまってたしな。

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