競走
「マリナ様!いらしたのですか?」
「うむ!ロウが馬に乗れると聞いたのでな。1日でどれだけになったのか見てやろうと思ってな。ま、わしでもそれなりにかかったからの。乗ると言ってもお主の手を借りてじゃろうが」
「あ、いえ…」
「フォローせんでもよいぞ、キャロルよ」
「マリナ、お前ってやつは…」
「は~い、フェンネ。こっちですよ。ロウ様が来てくれましたからね~」
「お、おい、ロウ。あいつは」
「ん?マリナも知ってんのか?」
「あ、ああ。今年の新人騎士のパートナー選びはわしもおったからの。本当に乗れるんじゃろうな?」
「そんなに疑うなよ。今から見せてやるから」
俺はフェンネの横に立つと少し腹を撫でてやる。
「今からあいつに俺たちのコンビネーションを見せてやろうぜ」
ブルル
俺の言葉に奮い立ったのか、フェンネは一声鳴く。そして俺はあぶみに足をかけてフェンネに乗った。
「お、おお、本当に乗っておる…」
「どうだ!さあ、フェンネ。昨日よりちょっと早く歩くぞ」
ヒヒ~ン
俺がそういうと合図をしなくてもフェンネは辺りの草原で軽く走り出す。
「お、おお、すげぇ!やっぱ、馬って早いし何より視点が高い!」
昨日もそう思ったが、歩いてばっかりだったからか風を感じることもなかったし、風景も気にする余裕がなかった。今日は最初から乗れるって気持ちがあるせいか、すごく楽しいぜ。そして、しばらく流した後、マリナの前に戻ってくる。
「へへっ、どうだ?」
「お前、本当にロウか?別人じゃなかろうな?」
「流石に失礼だぞ」
「しかしのぅ。あれだけ多くの騎士を振り落としてきた馬じゃからな。たった一日で乗れるとはふつう思わんじゃろ?」
「きっと相性が良かったんだよ。それか運命だな」
「そんな訳の分からん説明では納得できんわい!」
「まあそういうなって。俺とマリナだってそうだろ?」
「はっ?お、お前、今なんと…」
「いや~、助かったぜ。あん時、出会ってなけりゃ、町の方向も分からなかったからな」
「き、貴様、わしの心をもてあそびおって!」
「な、何怒ってるんだよ、マリナ」
「うるさい!こうなったら競走じゃ!わしとお前の馬、どっちが早いかな!」
「マリナ様、いけません。ロウ様はまだ馬に乗って2日ですよ!」
「い~や、これだけ乗れておれば問題あるまい。のう」
「俺はいいけど、マリナこそ帰ってきてから乗ってないんじゃないのか?そんなんで勝てるのかよ」
「心配無用じゃ。わしは騎士と競走して勝ったこともあるんじゃぞ!!」
「へ~」
俺はマリナの言葉を聞いてちらっとセドリックを見る。セドリックは俺の視線に気づくとコクンとうなずいた。だよなぁ、負けず嫌いの姫様に大人げなく騎士が勝つなんてできないよなぁ。
「さぁ、お前の実力を見せる時じゃぞ、ラウダ」
ブルルル
ラウダと呼ばれたマリナの馬は体を震わせて応える。毛並みのいい明るい栗毛の馬だ。
「ふっふっふっ。この父上からもらったラウダの実力、見せてやるからな!」
「望むところだ!」
「では、ルールの説明を行います。厩舎の先にある訓練用の馬場にて2週を先に走り終えた方の勝ちとなります。ただし、ゴールするまでに騎手が振り落とされそうになったり、振り落とされた場合は着順に関わらず、失格となります」
「まあ、馬術だしな」
「お主はちゃんと頭に入れておいた方がよいぞ」
「落とされねぇっての」
「そうかの?」
「はい、続けますよ。スタートの合図はあちらの内周にいる確認員が行います。スタート時に赤旗を下に降ろしますので、それを合図にしてください。ゴールの判定も同様に確認員が行いますから、結果には従ってくださいね」
「うむ。当然じゃな」
「それでは出走待機場までお願いします」
俺たちはキャロルの指示に従って出走待機場に向かった。
「ふふふ、我が実力見るがよい!」
「はいはい」
「それでは、位置について…」
確認員がそういうと旗を掲げる。そして一気に旗は振り下ろされた。
「行けっ!ラウダ」
「さあ、お前の走りを見せてくれフェンネ!」
2頭の馬がほぼ同時にスタートする。スタートに関しては流石に自分で自身がある辺り、マリナに分がある。
「適当に乗り回してるだけかと思ったらちゃんと走れるんだな」
「どうじゃ!ほれほれ、おぬしも頑張らんと置いてくぞ」
「へいへい。フェンネ、無理はするなよ。ついて行くだけでもいいからな」
ブルル
俺がそういうと、自分の実力を侮っていると思ったのか一気にスピードを上げるフェンネ。
「お、おい、早いって!これじゃあ、カーブを回れないぞ!」
この馬場のコースは陸上トラックのような形をしている。カーブは緩やかながら長いので、このままのスピードで突入するには俺の経験が足りなかった。
「少し緩めてくれ。これ以上早いと俺が落ちちまう」
ブルル
しょうがないという感じで少しスピードを落としてくれるフェンネ。それでもまだ少し恐怖を感じるが、贅沢は言っていられない。横にはラウダに乗ったマリナがいるのだ。
「むぅ、本当に乗りこなしておるのぅ。しゃくじゃがあの馬なら妥当か。まあ、わしも負けてられん!行くぞ、ラウダ!」
ヒヒ~ン
「ま~たペースが上がったぞ。マリナのやつ大丈夫か?」
あんなちっこい体でどうしてやるもんだと感心する。俺と同じかそれ以上のスピードが出ているのに全く臆することがない。
「まあ、ここからは直線だし、一気に詰めるぞ!」
ヒヒ~ン
俺もフェンネも力を入れペースを上げる。そして、次のカーブを無事に抜けて2頭ほぼ横並びで2週目に。
「ここからはどれだけスピードを落とさずに行けるかだな。無理はするなよ。カーブではちゃんとスピードをと済んだ」
ブルル
分かったとカーブ手前でスピードを落として突入するフェンネ。一方のラウダ・マリナ組はそのまま突入する。
「はっはっはっ!怖くなったのか?」
「勝負は終わるまでわからねぇよ」
「そうこなくてはな!」
マリナたちがスピードに乗って馬場の外側に押し出される中、俺たちはスピードを落としたためカーブを終えると内側にいた。
「よしっ!このままのペースだ」
勝負は2週。次のカーブ出口で決まる!
「さっきよりぎりぎり早く入ろう」
ブルル
俺たちはカーブに入る時、さっきよりも少しだけスピードを上げる。
「おおっ!?やる気じゃな。じゃがわしも負けんぞ!」
「おう!勝負だ」
カーブの突入はやや向こうが先、だけどさっきの抜け方を見ると俺たちにもチャンスはある。
「もうすぐカーブを抜ける…いまだ!」
「ラウダ!わしらも負けぬぞ」
2人と2頭が勝利を求めて疾走する。そして…。
「ゴ――ル!!」
「ふぅ~!久しぶりに走ると疲れたわい」
「あ~~、こんなにスピード出すと大変なんだな」
「ふふふっ、どうじゃ?わしの実力見たじゃろ?」
「ああ。正直もっとゆっくりしか走れないと思ってたよ」
「お2人とも素晴らしいです。中々乗る機会がないのにうまく乗りこなせてましたよ」
「キャロルたちが普段から世話をしてくれているおかげじゃ。ラウダもありがとな」
ブルッ
「フェンネもよく頑張ったな。あんまり走ってなかったんじゃないか?」
ブルン
フェンネはまだまだ走れると言っているようだ。
「ははは、まだ元気があるんだな。でも、今日はもうゆっくり歩こうぜ!俺もちょっと疲れたしな」
「なんじゃ、もう終わりか?まあ、ラウダも久しぶりじゃったし今日はこのぐらいにしておくかの」
それからはキャロルも交えて馬場を少し走り、厩舎前に戻った。
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