治療と手段

「お、来たのう」


「マリナもいたのか」


「当たり前じゃ」


「今どこまで探した?」


「その棚は終わったぞ」


「はえぇな」


「お前と違って普段から本を読んでおるからのぅ」


「耳が痛いぜ」


 俺も情報を集めるため、本を探して読んでいく。



「…どうじゃ?」


「ねぇ。というか、呪いってやつの説明を扱ってる本自体が少なすぎる」


「そうなんじゃよな~、そもそも呪い自体禁忌の術じゃし、普通に本は出せんしの~」


「まあそうだろうな」


「はぁ~、物体じゃないから体外に出すこともできんしの~。壊したりできんもんかの~」


「ん?今なんて言った?」


「じゃから、呪いを壊せんもんかと…まあ、その方法も分からんのじゃがな」


「それだぜ!」


「へっ!?」


「マリナ、来い!」


「ちょ、待て、待つんじゃ…」


「待てねぇよ、リタに会いに行く」


「いや、放せ!服が破れる!」


「あっ、悪い」


「全く、お主ときたら…まあ、それだけリタのことを大事に思ってくれるのはうれしいがの」


「当たり前だろ?あいつは…」


「あいつは?」


「だ、大事な仲間だからな!」


「…そうか」


 にやにやするマリナを連れてもう一度、リタに会いに部屋へ入る。


「あ、面会は…」


「直ぐに済む。今日は確認だけだ」


「どうした、ロウ?」


「リタ、お前の呪いみたいなやつなんとかできるかもしんねぇ」


「ほ、本当か?」


「だけど、滅茶苦茶危険だ。一晩ゆっくり考えてくれ」


「いや、このことを告げられた時から心は決まっている」


「それでもだ。俺の提案はアラドヴァルを使うことだ」


「!」


「お、おい、ロウ。お主正気か!?あんなものをリタに?」


「ああ。あの銃なら大丈夫なはずだ。だけどな、リタも知ってんだろ?あれはそんなに器用なもんじゃない。呪いを撃った後は…」


「私の体か…いいだろう」


「そうだよな。嫌だよな…えっ!?」


「私の命はそもそもお前と出会った時からお前のものだ。今回もな。それにお前は私の言葉に応えてくれた。結果はどうなっても私は後悔しない」


「だ、だけどよ…」


「本人がいいと言っておるんじゃ。他のものも色々手は尽くしてくれておるが、このままではリタの体がもたん」


「なんだよ、さっきは反対していただろ?」


「それはそうじゃが、他に手を思い浮かばんのも事実じゃし」


「ロウ、殿下をあまりいじめるな」


「いじめてなんか…。本当にいいのか、リタ?」


「何度も言わせるな。あまりしつこいようだと、嫌だというぞ」


「わ、分かったよ。でも、明日だからな」


「ああ。待っている」


 言いたいことは伝えたので、部屋をあとにする。


「本当に大丈夫なんじゃろうな?」


「多分な」


「多分じゃダメじゃろ」


「呪いの位置を正確につかむのと、体への影響を一番少なくしないといけない。それが俺にできるかだ」


「どうしてもできない時はわしがやる」


「どうやってだよ。マリナはこいつを使えないだろ?」


「そ、そんなことないわい。お前の指を使えばいいんじゃろ?それなら、わしにもできる!」


「…いや、俺がやるよ」


「どうした急に?」


「お前にアラドヴァルを使わせるわけにはいかないからな」


「なっ!人が折角、決心したというのに!」


「じゃあな。俺はちょっと本でも読んどくよ」


「おいっ!」


 だってさ、俺の袖口を掴む手でさえ震えてるんだぜ。そんなやつに呪いを倒すためとはいえ、部下に銃を向けさせるなんてできねぇよ。



「お戻りになりましたか」


「ああ。本でも読んでおこうと思ってな」


「お持ちしているものでよろしいですか?」


「いや、そうだな。人体について書かれた本はあるか?」


「ございますが、医者になられるおつもりですか?」


「ん~、明日1日だけな」


「?」


 不思議そうに俺を見るネリアだったけど、ちゃんと本を持って来てくれた。しかも、内容を短時間で吟味してくれたようで、かなり分かりやすい本だ。


「よーっし!読むぞ」


 気合を入れて本を読み進める。


「ふむふむ。ここなら貫通しても問題ないか?いや、こっちの臓器を傷つけそうだな。ってか、そもそも呪いの位置がどこかに寄るよな。どうやって感じ取ったらいいんだ?」


 う~ん、考えても分からん。


「でも、神官風のおっさんたちは場所が分かるみたいだし、なんとかなるだろ。今は少しでもこいつを頭に叩き込まないとな」


 出来ることをしてからなら、結果を受け入れられる。俺はこの前のことでそれを学んだ。あんな思いをするのはもうたくさんだ。


「絶対に助けてやるからな。待ってろよ、リタ」



 翌日。まだ、体調も万全ではないリタを屋外に出して俺たちは打ち合わせをする。


「リタの呪いを可視化する方法は?」


「無い訳ではありません。これまでも神聖力による治療を試みた場合には呪いの方が反応して見えてはいます。ただ、呼吸をするように伸び縮みしていますので、どうなるかまでは…」


「治療が終わるとまた見えなくなるのか?」


「はい。恐らく一度で見えるのは4秒。1日に我々で施せる回数は3度迄です」


「案外チャンスが少ないのぅ」


「いや、2回あれば十分だ。一度目で位置を捕らえて、2度目で必ず仕留める!」


「ふっ、ロウがそういうのなら信じるしかないな」


「体調は大丈夫か?」


「ああ」


「では、まずは呪いの位置を確かめていただきます」


「待ってくれ」


「どうしたリタ?」


「服を脱がせてくれ」


「は?」


「へ、変な意味ではないぞ。勘違いするな。その方が確認しやすいと思ってだな…」


「そ、そういうことか。びっくりするだろ。分かった、お前の覚悟絶対に生かすぜ!」


「頼んだぞ」


 俺たちに付いてきていたネリアとヴェルデに服を脱がせてもらったリタは再びベッドの上に寝転ぶ。


「では始めます」


「頼む」


 パアァァァ


 神聖力による治療が始まった。


「おおっ!?見える…この黒い玉のようなやつだな」


「そうです」


「位置は…右肺の下側!?心臓近くじゃねぇか!いや、だけど他の臓器は少ない。うまく心臓さえ外せば…」


「で、できそうかロウ?」


「任せろ!絶対に決めてやる。行くぜ、アラドヴァル!!」


 ヒュイーン


 あの時と同じようにアラドヴァルが輝き、ブローハイパワーからスモルソンへと姿を変化させた。


「な、何じゃ、武器の形が…」


「さあ、お前の出番だぜ。もう一度頼む!」


「じゅ、準備はよろしいですか?」


「ああ、やってくれ」


「それが、あいつを倒した武器か?」


「お前のお陰でもあるんだぜ?待ってろよ」


「うむ」


 もう一度、術者たちが神聖魔法で呪いの姿を映し出す。


「見えた!これで撃ち抜く!!うまく当たってくれよ…」


 俺は引き金に手をかける。核を撃ち抜くようにそして…。


「出来たら、リタには傷をつけないでくれよ」


「ロウ…」


「頼むぞ!シュート!!」


 バァン


 俺は銃の引き金を引く。すると、この前と同じようにシリンダーが回り、弾丸が発射される。そして、中空に留まるのも同じだ。


「いける!」


 バァン


 再び引き金を引いて弾丸が発射されるが、次の弾丸も静止している。


「いけるのか!?いや、いっけ――!」


 バァン


 3発目の弾丸を撃ったところで弾が進み始める。そして、3つすべての弾丸が合わさった時、時が流れ始めた。


 チュン


 甲高い音を立てて、一発の弾丸がリタの体を突き貫けていく。


「う”っ!」


「だ、大丈夫か?」


「え、ええ、心配いらないわ」


「確認じゃ、もう一度治癒魔法を!」


「はっ!」


 パアァァァ


「み、見えません!呪いは消えております!!信じられない…。我々があれだけの力を込めて出来なかったものが…」


「ふふっ、ロウはそれができるやつなのだ。のう、リタ」


「はい、殿下。それにしても…」


「ど、どうした?まさか、傷でも残っているのか?」


「いや、逆だ。どこも痛くなかった。まるで呪いだけを狙って当てたような感じだった」


「そうか。確かにこの前は2発同時。今回は3発だったからな。まあ、何にせよよかったぜ。これでお前も元気になるよ」


 ほっとして俺は手を置く。


 むにゅ


「ん?」


「ほう?元気になったのは貴様の方だな。寝たきりの私にこのような真似をするとは…」


「い、いや、これは違う、違うんだ!」


「何が違うものか!覚えていろ!!体調が戻ったら、剣術を教えてやるからな!」


「じゃあ、俺は戻るから」


「まて、逃げるな!」


「リタ様!まだ動かれては」


「放せ!奴に一撃入れるだけだ!」


「ダメです。お体に障りますから、中に入りましょう」


「ぐっ!全く、あいつときたら…」


「ですが、治られてよかったですね」


「まあな。その点は感謝している。その点だけだがな!」


「素直じゃないのう。そうじゃ!今日は早く寝るがよい。明日、あいつがこの数日何をしていたか教えてやろう」


「姫様それは…」


「なぁに、さっきのことはロウが悪いんじゃし、これで恨みっこなしじゃ」


「ネリアが止めるような内容か。殿下、明日を楽しみにしております」


「うむっ!じゃから今日は早く寝るのじゃ。復帰を楽しみにしておるからな」


「ええ。必ず戻ってまいります」



 その後、マリナから俺が落ち込んでいた時のことを聞かされたリタが、俺をからかって来たのは言うまでもない。

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