リタの容態

リタの体に巣くうもの

「門を開け~い!」


「マ、マリナ様!?」


「さっさと開けんか、ぶち破るぞ!」


「た、直ちに!」


「横暴だろ?」


「リタのためじゃ。あとで謝るわい」


「そうだな」


「なんじゃ、こういう時は気が合うのう」


「まあな」


「姫様、どちらへ向かわれますか?」


「当然、王宮じゃ。我が王国選りすぐりの魔法使いを集めよ!」


「ははっ!」


 風魔法使いが空から一気に王宮を目指す。


「飛んで入れるもんなのか?」


「そんな訳あるか。門のところまでじゃ。じゃが、今は一刻も惜しい」


「だな」


 そして、馬車も魔法使いに遅れ王宮の馬車止めに止まった。


「姫様!緊急と聞いて来ましたぞ!!」


「おおっ!?ベルディハか!弟子は?」


「後ろに」


「分かった。部屋にリタを移せ!」


「はっ!」


 騎士たちがリタを運び出し、近くの部屋に寝かせる。


「こ、これは、ひどいケガじゃ…」


「そうじゃろ?頼むぞ!」


「お任せを。このベルディハめとその弟子たちの力、お見せいたしましょう」


 ベルディハと呼ばれた爺さんとその後ろにいた術者が呪文を唱えると、リタが光に包まれる。


「おおっ!?これで…」


「ふうっ。治療は終わりました」


「どうじゃ?」


「傷は勿論癒えましたぞ。何なら前より肌がきれいに…」


「どうした、ベルディハ?」


「これは何ということだ!?」


「何か問題があるのか爺さん?」


「姫様、こやつは?」


「最近護衛騎士になったロウじゃ」


「こやつが…。リタの傷は確かに言えました。しかし、体内に訳の分からぬ澱みのようなものが残っております」


「そ、それは治せんのか?」


「時間を頂ければ…」


「どのぐらいかかる?」


「…」


「わ、分からんのか?」


「わしでもこれは見たことがありませぬ。答えることは…」


「そ、そんな…嘘だろ」




「はぁ…あれからどうだ?」


「部屋から出てきません。私も手を尽くしているのですが…」


「もう丸2日じゃぞ。全く。それで治療の方は?」


「申し訳ございません。調べてはいるのですが、呪いに近いものでして、神聖力でもどうにもならないのです。よほど強い魔物だったようでして…」


「それは分かっておる!…すまん」


「いえ、マリナ様のお気持ちは理解できます。我々も無力感にさいなまれつつあります」


「解析の方はどうなのだ?」


「陛下にもお伝えいたしましたが、魔物ではないとのことでした」


「魔物ではないじゃと?」


「はっ、恐らく魔族に分類されるものだと」


「魔族…魔王が誕生するというのか」


「そうであればあれだけの規模の騎士団で、あの被害で済んだのは…」


「そうだとしてもリタはまだ生きておるのだぞ!」


「おっしゃる通りです。我々は今後とも全力を尽くします」


 コンコン


「なんじゃ?」


「ヴェルデです。マリナ様にお伝えしたいことがございます」


「分かった、入れ。ご苦労だったな、戻ってくれ」


「はい、失礼いたします」


 報告に来ていた政務官を退出させるとヴェルデの報告を聞く。


「して、伝えたいこととはなんじゃ?」


「リタが目を覚ましました」


「ほ、本当か!?」


「会いに行かれますか?」


「もちろんじゃ!」


「ロウ様にはいかがいたしましょう?」


「わしが伝える。あいつが気に病んでおるのもわしのせいじゃ」


「それは…」


「よい。リタとセドリックが付くようになってから、わしの周りには多くの味方が付いた。犠牲も目に見えぬようになり、感情的になることをよしとしまっておったのじゃ」


「マリナ様は王族である前にひとりの女性です。時にはそう振舞うことも大切です」


「それでもじゃ。あんな言葉は言うべきではなかった。自分が情けないのじゃ…」


「マリナ様」


「心配するな。わしもあいつもこれしきの事で参るほど堕ちておらんわ。きっと、リタを助ける方法を思いつくはずじゃ。あいつはわしを救った男じゃぞ?」


「そうですね。吉報をお待ちしております」



 ドンドン


「こらぁ~、開けんか!」


「うるさい…」


 俺は部屋にこもっていた。あれから何日か経ったと思うが、気が晴れない。


「あの時、俺がぼーっとしていなければ…。いや、それよりもっと早くあの力を出せていれば…」


 考えるのはずっとそのことだ。リタがかばってくれなければと思いだして体が震える自分も嫌になった。そんな自分を助けたせいで今リタが苦しんでいる。その事実がさらに嫌になった。


「なんで、俺は…くそっ!」


 今から何をしても過去は代えられない。


「こいつが…こいつで過去をぶち破れれば…なんていっても無理だよな、ははっ」


 はぁ、とため息をつく。


「このまま死んだらリタに会えんのかな…無理だよな。あいつは俺を助けて、俺は結局何も…」


「こら~~~いい加減開けろ!マスターキーを持ち出すぞ!」


「うるせぇ!お子様!!」


「リタが!リタが起きたんじゃ!!わしらが行かなくて誰が行くんじゃ!」


「リ、リタがっ!それを早く言え!」


「言っとるじゃろうが!とにかく行くぞ」


「お、おう!」


 バンッ


「来たか。遅いぞ!」


「わりぃ」


「行くぞ、まずは顔を見んとな」


「ああ」



「面会時間はなるべく少なくお願いします。まだ目が覚めただけですので…」


「分かった」


「ああ」


「ん?誰だ…」


「リタ、目を覚ましたか!」


「大声も禁止です」


「す、済まぬ…」


「殿下…来てくださってありがとうございます」


「喋らずともよいぞ。当たり前じゃ、大事な護衛騎士何じゃからの」


「リタ、俺…」


「ロウ、聞いたぞ。あいつを倒してくれたんだな」


「ああ。でも、俺がもっと早く…」


「言うな。お前が早くだなんて。私が残っていても奴には何もできなかった。お前はできることをした。あの中でお前だけができることをな」


「だけど、そのせいでリタが…」


「そのおかげで殿下も守れたし、あいつも倒せたのだろう?私に感謝しろよ」


「ああ。お前が元気になったら何でも言うことを聞いてやるよ」


「ふっ、約束だぞ。うっ…」


「リタ!?」


「これ以上は体に障ります。今日はどうか…」


「分かった。リタ、また来るからの」


「はい」



 面会を済ませマリナとともに部屋を出る。


「リタ、苦しそうだったな」


「うむ」


「解決策を探さないとな」


「そうじゃな。じゃがその前に…」


「その前に?」


「お前はネリアに謝ってこい!全く、ずいぶん気にしておったぞ」


「あ、そうだよな。俺が勝手に沈んでる間もなんとか使用してくれたもんな。悪い、行ってくる」


「ああ」


 マリナに見送られながら、ネリアの住んでいる使用人棟に向かう。


 コンコン


「はい」


「ネリア、居るか?」


「ロウ様!今開けます」


 ガタガタン


「ご、ご用ですか?」


「あ、ああ。大丈夫か?」


「はいっ!それでどのようなご用件でしょうか?」


「要件っつーか、その…一言謝りたくてな。済まない、帰ってきてからあんな態度取って」


「構いません。何が起きたかも聞きましたから。誰でもつらい時があるんです。ロウ様を責めるものはおりません。騎士たちも感謝しておりましたよ。体調を崩したものは下がっていなければやられていたと言っていましたし」


「でも、ネリアにひどい態度を取ったのは俺が悪い」


「ロウ様の気が済まないというのであれば、今後は何があっても私は部屋に入れて下さいませ。お話を聞くことならできますから」


「そうする」


「それと…」


「それと?」


「お風呂に入りましょう。臭いますよ」


「えっ!?本当か?さっき、リタに会って来たんだけど…」


「いけません!今すぐお風呂に入りましょう。リタ様がかわいそうですよ」


「そうだよな。こんな臭いした男、嫌だよな」


「違います!自分を助けてくれた男性が会いに来てくれたんですよ?嬉しいに決まっています!でも、そこに臭いがしたらケチがついてしまいます。思い出はきれいになるようにしなければなりません!」


「お、おう?」


「さあ、すぐにお湯を用意いたしますから」


 ぐいぐいとネリアに部屋から出され、お風呂に連れていかれる。


「全くもう、こんなに汚れているのによく部屋にいられましたね」


「まあ、特に気にならなかったし」


「いけません!ただでさえロウ様は姫様に仕えておられるのですよ。悪い評判が流れてしまいます」


「…言われてみればそうだな。気を付ける」


「それに姫様やリタ様も嫌がりますよ?」


「さっき、リタは俺に会えてうれしいって言ってなかったか?」


「それとこれとは別です。逆の立場で考えてみて下さい。いつも変な臭いを気にもせず近寄ってくるんですよ?いくら好意を持っていても嫌でしょう?」


「うっ、それは嫌だな。でも、好意っていうほどか?」


「では、ロウ様はお二人がお嫌いですか?」


「嫌いじゃないけど…」


「でしょう?ではそれは好意ですよ」


「そう…なのか?」


「そうです!ですから、ロウ様はそんなお二人に恥をかかせてはなりません!隣を歩いている男性が身なりもきちんとしていないなんて絶対にダメです」


「わ、分かったから。偉く力説するなネリアは」


「それぐらい、お二人は素晴らしい方ということです。もちろん、ロウ様も」


「俺も?」


「ええ。みなさん言っておられますよ。姫様を助けた上に今度は騎士団でも敵わない魔物を退治したって」


「でも、あれはアラドヴァルが凄いだけで、俺の力じゃないぞ」


「何を言われているのですか。私だったらたとえどんな武器を持っていても逃げ出していました。立ち向かわれたからこそ、今があるんです。その勇気は間違いなくロウ様のものですよ」


「ネリア…ありがとう。ちょっと元気が出たよ。必ずリタを助ける方法を見つけるよ」


「その意気です!」


 風呂から上がった俺は頭もすっきりしてスーツ姿に着替えさせてもらうと、すぐに図書室へと向かった。

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