リタとの賭け
「まずはどこに行くんだ?」
「目撃情報から北側じゃな。そのまま草原を避けるように北の山側を抜けるルートで王都方面に向かう予定じゃ」
「げっ、それってまさかまた野宿か?」
「まあの。しょうがないじゃろ。情報を元にするとこのルートがいいんじゃ」
「それじゃあ、しょうがないか。気を引き締めないとな」
「なんじゃ、えらくやる気じゃのう…」
「そいつは町の人を襲ってるんだろ?早く見つけた方がいいだろ」
「そうじゃな。皆の者!必ず我らの手でベアー種の魔物を退治するのじゃ!」
「「おおーーー!」」
マリナの号令を合図に馬車を率いながら騎士団は北側のルートを進む。
「はっ!」
「でやっ!」
「魔物が報告より多いのう」
「そうですね。ゴブリンやコボルトなど下級のものばかりですが、もうこれで3度目です」
「可能性としては?」
「強力な魔物が出たせいで弱い魔物が押し出されているのかもしれません」
「やはりその可能性か…先に進むぞ」
「はっ!」
魔物の出現した場所や特徴を書き留めながら俺たちは進んでいく。しかし、出遭う魔物は下級ばかり。騎士たちにとっては準備運動代わりだ。
「数だけは多いぜ」
「小隊長殿!こちらへ」
「これは…リタ様!」
「どうした?」
「ここに足跡があります」
「見せて見ろ」
リタに続いて俺も見せてもらう。
「結構大きいな。これだと3mは越えてそうだな」
「ああ。みんな!気を抜くなよ。強襲を受ければただでは済まんぞ」
「了解であります!」
足跡を追いながら進んでいくと、やはり山に当たった。
「この先の山を越えれば私たちが出会った森だな」
「またあんなのに出くわすのかよ」
「そうとも限らん。あの時お前が相手をしたのが、あの足跡の持ち主かもしれん」
「セドリックの言う通りならいいんだけどな。期待しないでおくよ」
「うむ。最悪を考えておくことは重要じゃからな。行くぞ!」
マリナの合図とともに俺たちは再度進む。幸い、こちらのルートでも道は悪いものの馬車は通ることができ、そのまま野営場所まで行くことができた。
「少し予定より遅れたが、なんとか着けたか。つかれたのう」
「まあこんな道じゃな。やっぱり、馬車の改善が必要だろ?」
「そうじゃな。誰か職人を探すとするか」
「その時は俺も連れてってくれよ」
「ロウをか?なんでじゃ」
「俺の方が馬車には不満があるからな。きっと、いいものになるぞ」
「クレーマーにならんといてくれよ。良い職人は気難しいのも多いからのう」
「王族でもその辺は気にするのか?」
「気にするも何もわしらが使う魔道具の大半はそういうものが作っておる。わしらも作れんようになると困るんじゃよ」
「手に職だな。おっと、テントの設営を手伝うかな?」
「邪魔になると言われておらんかったか?」
「それは組み立てのところだろ?広げるだけとかやれることはあるさ」
「案外まじめなんじゃな」
「こう見えても一応は体育会系部活に入っていたからな」
「部活?何部に入っておったんじゃ?」
「弓道部だよ。と言っても分からないか。弓を射るところだ」
「おお!弓か、それならわしも少しはできるぞ!」
「あ~、多分マリナじゃ無理だな。おっと、先に手伝ってくる。そんじゃな!」
「あっ、おい!ちょっと待て…行ってしもうた。なんじゃバカにしおって。弓ぐらい引けるというのに」
「まあまあ、殿下。お疲れでしょうから、馬車でお休みください」
「うむ」
「さ~て、手伝いますか。なあ、これどこ運んだらいいんだ?」
「ご、護衛騎士様!?これならあちらですが…」
「おう!」
俺はどんどん物を運んでいく。ちょっと重たいものがあったが、しょせん俺の武器はアラドヴァルのみ。行軍中も馬車の中が主なのでこういう時に頑張らないとな。
「て、手伝っていただけるのはありがたいのですが、よろしいのですか?その…護衛とは仮なのですよね?」
「えっ?どうしてだ?」
「殿下とも親しげでしたし、どこかの国から留学中かお忍びで来られている貴族の方だと噂ですが…」
「ぶっ!違う違う。普通の一般人だって!」
「そ、そうなのですか、我々はてっきり…」
騎士団の中で噂になってるとは思わなかったな。う~む、だけど考えてみたら馬に乗れない事情を全員が知ってるとも思えないし、しょうがないか。それは俺が馬に乗れるようになったら解決することだし、もうしばらくの辛抱だ。うんうんと納得すると、もうしばらく俺は設営の手伝いをこなした。
「ふ~、こんな感じだな。あとはと…」
「疲れただろう。飲め」
「おっ、サンキュー」
リタからもらった飲み物を遠慮なく飲み干す。
「ふ~、生き返る~」
「まるで死んだことがあるような言い方だな」
「そうか?結構普通の言い回しのつもりなんだけどな」
「変わった場所だな、お前の生まれたところは」
「ここからするとそうかもな。でも、いいところだぜ。争いは…あるけど、俺の国はそこまでじゃないし。夜道だって女一人でも歩けるしな」
「それはすごいな」
「ま、心理的にはどう変わらないけどな。俺は男だし」
「む、それはそうだな。私のようなか弱い女だとびくびくしてしまうな」
「そうかもな。お前って腕は立つんだろうけど、体格はそんなでもないからな~」
リタは背こそ170cmほどあるものの、それだって男からすれば高い方でもない。それに、筋肉質ってことでもないし、外見だけ見てるとなぁ。
「な、なんだ、そんなに見て!大体、私がか弱いように見えるのか?」
「ん~、少なくとも強いって感じじゃないな。ほら、リタって別に筋肉質でもないからな!」
「なっ!いつもどこを見ているのだ!」
「何怒ってるんだよ。褒めたのによ」
「それのどこが誉め言葉だ全くお前というやつは…」
それだけ言うとリタはどこかへ行ってしまった。
「なんだあいつ?」
「リタもまだまだ子供だからな」
「おっ、セドリックの方はもういいのか?」
「ああ、テントの設営もほぼ終わった」
「早いな。食事の方は?」
「今から焼くところだな。昨日の肉がまだある」
「それに今日の分もな。しばらくは肉続きか…」
「嫌か?」
「好きだぜ。リタに取られないともっといいがな」
「それはそうだな」
それから少しして、料理係が肉を焼き始めた。一番に焼けた肉はリタが少し味見をして、マリナに渡す。
「リタ」
「なんだ」
「マリナに肉渡す時、残念そうな顔してるぞ」
「嘘だ!」
「うん、嘘」
「お前は~!」
「ちょ、待て!剣に手をかけるな!」
「うるさい!」
バタバタバタ
「何をしとるんじゃあいつら、明日も捜索だというのに…」
「剣を避ける訓練?」
「セドリック、それはいかんじゃろ。リタの奴、ちょっと本気じゃぞ?」
「だが、リタは斬れません」
「ならよいか。ほれ、お前らもちゃんと食べるんじゃぞ。あいつらは戻って来なければなくてよい」
「はっ!」
「待て、リタ!何か嫌な予感がする…」
「それは死の予感か?」
「違う!話を…」
「問答無用!」
「あ~あ、誰かさんのせいで切れ端しか食えなかったな」
「お前のせいだろ」
「うるせ~、あんなに暴れまわるやつが悪いんだよ」
「逃げるからだ」
「誰でも逃げるわ、あんなもん。お前はいいよな、最初に味見の分は食べてるんだし」
「ひ、一切れだけだぞ。一切れだけ…」
「そんなに残念そうにするなら食事中は大人しくするんだな」
「お前がいらないことをしなければな」
「「はぁ…」」
「ちゃんと起こせよ」
「その前に起きるんだろうな?」
「起きるよ」
「よ~し、そこまで言うなら明日の朝食を賭けよう」
「騎士が賭け事なんていいのか?」
「これは相手を分析する訓練だ」
「物は言いようだな。乗った!」
「ふっ、泣きを見るなよ」
「リタこそな」
「私は負けん!」
「あっ、それと起こさないのは無しだぞ?」
「何っ!?」
「お前やっぱりそうするつもりだったのか。肉ひとつのために浅ましい奴め」
「浅ましいだと。肉は必要なんだ、活力だぞ」
「危ない宗教にでもはまってんのか?食いすぎはダメなんだぞ」
「肉は食べすぎることはない」
「なんで断言できるんだよ。まあいい、ちゃ~んと起こせよ、起きるまでな」
「まて、それでは私が勝てないではないか?」
「当たり前だろ?なんで俺が負ける勝負をするんだ?」
「卑怯だぞ」
「起こさないでおこうとしたお前に言われたくはないね。大体、見張りをしないのはダメだろ?仕事優先だ」
「くそっ!次は覚えていろよ」
「次があるのかよ」
「まだまだ野営のチャンスはあるからな」
「野営がチャンスとか、やっぱりお前脳筋だな」
「なんだと!」
「おい!」
「なんだ!」
「うるさいぞ、リタ」
「で、殿下!申し訳ございません」
「よい。ではな」
「はっ!」
「怒られてやんの」
「…」
「さて、俺も寝るか。おやすみ」
「…おやすみ」
「やれやれ、とんだ騎士様だ…」
しょうがないから負けてやるか。そう思っていた俺だったが、寝起きにそんなこと覚えているはずもなく…。
「起きろ、ロウ」
「ん?なんだ?」
「本当に起きてどうする」
「ふわぁ、おはよう」
「ああ、さっさと見張りを交代しろ」
「わかった。おっと、鎧だ」
寝ている時に着けている鎧を外したのでまた着込んで外に出る。何もないといいんだけどな。
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