魔物の捜索
「いやぁ~、先程は驚きました。まさかマリナ様が婚約者を連れてこられたのかと…」
「伯爵は中々冗談がうまいのう」
今は伯爵に招かれて晩餐の途中だ。俺はというと、マリナの後ろで護衛をしている。くぅ~目の前の料理に手を付けたいぜ。
「おい、よだれ」
「はっ!」
リタに注意され慌てて口元を押さえる。危ない危ない。
(何やっとるんじゃ、ロウは)
「それで、依頼した件なのですが…」
「領内に強い魔物が出るということじゃったな」
「はい。逃げ帰ったものの話によるとベアー種の魔物のようでして」
「ほう?興味深いな」
「この辺りに出る魔物は草原の魔物がほとんどですので、森林地帯の魔物の目撃は少なく、騎士団も上手く捕捉できないのです」
「それで、王都に援軍を頼んだのじゃな?」
「おっしゃる通りでございます。国王陛下にはご迷惑をかけて申し訳ないと伝えてください」
「よい。諸侯が負えぬものは王家が解決しよう。それで、目撃地点はどこなのだ?」
「目撃情報を集めましたところ、草原より王都側のところで多いようです。今なお、我が領にとどまっているかも定かでなく…」
「なるほどのぅ。確かにこれでは一伯爵には余るかもな。他領に逃げ込まれれば簡単には手が出せんからの」
「はい。そこで陛下の騎士団であればどの領地であれ、追っていけると思い書状を出させていただきました」
「分かった。早速、明日より調査に向かう。我が騎士団からも2名ほど情報の整理をしたいので手配を頼む。残ったものは全員で捜索に向かおう」
「マリナ殿下はどうされますか?」
「うん?わしも同行するぞ。なに心配ない。陛下の騎士団がついておるのだ。それに新しい護衛もおるしの」
そう言ってマリナは俺に目配せする。しょうがないので俺もうなずいて伯爵に新しい護衛は強いアピールをかます。
「ふむ。あれだけリタやセドリックに信頼を置かれていたあなたが新たにそばに置いたその男、その実力が気になりますな」
「ふふふ、そうじゃろう。じゃが、そうそう人に見せるものではないのでな」
「残念ですな。見かけからすれば、我が騎士団の団員にも劣って見えるその男がどれほどのものか気になったものですから」
「ふっ、そんな挑発は無駄じゃぞ。その男、強いが手加減というものが苦手でのぅ。わしもお主も戦力は貴重じゃろ?」
「ははは、そう言われると返す言葉がありませんな!」
「はぁ~、疲れた~」
「なんじゃ、ちょっと夕食の間に護衛しただけじゃろ?」
「いや、あんな会話に巻き込まれるなんて聞いてないぞ」
「そうか。じゃが、伯爵は中立派じゃから優しいもんじゃぞ?」
「中立派?」
「うむ。王族派はわしら王族に全幅の信頼を置いておる貴族。貴族派は自治権を常に求めておる派閥。中立派はそれ以外じゃ」
「中立派適当過ぎないか?」
「しょうがないじゃろう。そう説明せんととっても細かくなるんじゃ。説明を聞くか?」
「いや、いい。どうせ直接関係ないことだしな」
「なんじゃ、つまらんのう。じゃが、相手が何派に属しているかは行く前に調べるんじゃぞ?ロウに来る質問も変わってくるからのう」
「例えば?」
「王族派ならば忠誠を試すために色仕掛けでもするじゃろうなぁ」
「貴族派は?」
「貴族派なら色仕掛けでもして内部情報を入手しようと思うじゃろうなぁ」
「一緒じゃねぇか!」
「一緒ではないぞ。王族派は後で冗談だと済ませるために婉曲的な手を使うじゃろう。対して貴族派なら送り込んだものは処分するだけで済むから直接的に来るじゃろうな」
「処分って…」
「一番バレた時に被害が少なくなるからのう」
「えげつないな」
コンコン
「誰じゃ?」
「私です」
「リタか。入れ」
「失礼いたします。ロウの食事を持ってまいりました」
「ん?俺だけここで食うのか?」
「さっきも伯爵はお前の事だけ聞いておったじゃろ?興味を持たれておるからのう。できるだけ、外には出ぬようにな」
「まあ、出る気もないけど…」
「ロウは美術品とかには興味がないのか?」
「美術品?このツボとかか?」
「うむ」
「特にないな。割ったらアイテムが出るかは気になるけどな!」
「はあ?なんじゃそりゃ」
「うっ、いや。家のタンスを開けたり、つぼを壊したりしてアイテムを入手する勇者がいるんだよ」
「なんと!お前の地方の勇者は野蛮じゃのう。それでは野盗ではないか!」
「う、でも、魔王を倒してくれるんだぜ?」
「その場合、魔王を討伐したらどうなるのだ?ただの野盗に成り下がるのか?」
「い、いや、流石に倒したら王様から褒美も出るし、しねぇんじゃないかな?」
「大商家や貴族の邸なら金では変えぬものも眠っておるがの」
「た、多分しないと思うぞ。まともな人間なら」
「まともな人間ならそもそも人の家のものを壊したり、開けたりしないだろう。ロウ、もう一度常識を学んだ方がいいぞ」
「リタのくせに痛いところ付いてくるな」
「お前はいちいち私を脳筋扱いするな…」
「まあ、最初に会ったイメージがな」
「私はゴリラか何かか?」
「いや、しいて言うなら狼か?ちょっと人を寄せ付けない感じとか」
「狼か…」
「リタよ。なにまんざらでもない顔しとるんじゃ」
「殿下!いえこれは違うのです、誤解です」
「誤解であればいいんじゃがの。お主、ちょっとカッコつけるからのう」
「そ、それは…」
思い当たる節があるのか言葉に詰まるリタ。まあ、騎士学校主席でプライドもあるだろうししょうがないよな。そう思って俺はリタの方を叩く。
「まあ、そんな時もあるよな」
「貴様は何を触っておるのだ~!」
「ぐぇ…やめろ、俺は別に体を鍛えてるわけじゃないんだぞ…」
そうつぶやくと俺の意識は闇に吸い込まれていった。
「ん?」
「お、起きたか?」
「リタ?どうしたんだ?俺は…」
「す、済まない。私がお前を殴って気絶させてしまったのだ」
「そういや、そんなことがあったような…いてて」
「動くな。一応、軽くだが治癒魔法をかけておいた。しかし、私はそこまで得意ではないからな」
「ん?でも、ヴァリアブルレッドベアーの傷を治した時は?」
「あの時はセドリックがいただろう?2人で使うと相乗効果で効力が上がるんだ」
「そうだったのか。しかし、流石は伯爵家のベッドだな。いい寝心地だぜ」
「ば、馬鹿を言うな。いいから寝ていろ。」
「お前はどうするんだ?」
「今は殿下の見張りをセドリックがやっているからお前が寝たら交代する」
「いいのか?俺がやらないと明日寝不足になるんじゃないのか?」
「ふっ、心配するな。我々は元々騎士なのだ。野営にも慣れているし、この程度では差し支えない」
「そうか。なら遠慮なく…」
まだ体が重いと感じた俺は気持ちの良いベッドと枕で再び眠りについた。
「まったく何が寝心地のいいベッドだ。人の膝をなんだと思っている…」
ロウが寝付いたのを見届けると、私はひざからロウの頭を離して枕に持っていく。
「さて、ここからはセドリックと交代しないとな。面倒をかけるやつだ全く…」
その面倒を作ったのが自分なのはおいて、気分良くリタは隣の部屋へと向かった。
「ふわぁ~」
「起きたか?」
「リタ、おはよう」
「うむ、おはよう」
「へ?」
まさか、こいつが普通に挨拶を返すなんて明日は雨か?
「もうすぐ、食事の時間だぞ。早く用意をしろ」
「あ、ああ」
リタに言われて、俺は鎧を着こむ。食事のあとはすぐに出発するからだ。
「はぁ~、今日も疲れたわ」
「殿下。お疲れ様です」
「うむ、伯爵はよほどお前が気になるようじゃの。朝もなぜおらんのかと聞いて来たわ」
「何と答えられたのですか?」
「初めての護衛で疲れておるから休ませておると言っておいたわ。間違いではないしの」
「そりゃあありがたい。ついでに飯は?」
「もうすぐ持ってくるはずじゃ。リタも一緒に食うじゃろ?」
「はっ!」
それから、3分ほどでセドリックが俺たちの飯を運んできてくれた。
「ありがとな、セドリック」
「問題ない、リタも持って来たぞ」
「悪いな」
伯爵家の朝食はサンドイッチだった。まあ、野菜と肉を一緒に取れるし悪くないな。
「ん?どうした?」
「いや、案外よく食べるんだなと思ってな」
「まあこれでも育ち盛りだからな!」
「そうか」
「なんじゃお前ら、仲がいいのう」
「殿下!」
「別にいいことじゃろ?それより、手が止まっておるぞ」
「す、済みません」
食事も終えて、伯爵に軽く挨拶をし、いよいよ調査に向かう。
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