ベイルン伯爵領
「ん~、やっぱり草原はいいのう。壮大な感じがして」
「そうだな。しっかし、広い草原だな。何か活用してるのか?」
「うちでは川が流れているところを利用して農業をしておるな。この国の穀物生産もこの辺が盛んなんじゃ」
「手間いらずって訳か。でも、水場だと魔物もいっぱいいるんじゃないか?」
「そうじゃな。だから、水を引いて草原はそこまで手を出しておらぬ。あんまりいじりすぎても、人の生活圏に来てしまうからの」
「色々考えてるんだな」
「自然とは共存せねばならんからの。無理に食い込めば手痛いしっぺ返しを食う。過去の教訓じゃ」
「教訓?何かあったのか?」
「うむ。一度草原の3分の1まで人の手を入れたことがあったんじゃが、魔物の生息域が押し狭められた結果、あふれるようにその土地に一気にやってきたのじゃ。魔物の襲来に備えて騎士や兵士も常駐しておったが、あまりの数に作ったばかりの町は滅んでしもうた。以来、草原の開発は王家に許可をもらわねば出来ぬようになっておる」
「そりゃあ、大変だったな。今も守られてるのか?」
「大体はな。不届きものがたまに、魔物の卵を狙うようじゃが」
「魔物の卵なんてどうするんだ?」
「魔物の種類によってはふ化させて懐かせるんじゃよ。貴族だけでなくて冒険者の中にも魔物使いと呼ばれるものがおるんじゃが、大体のものはそうしておるそうじゃ」
「そりゃあ、何とも言えないな」
魔物にはいい迷惑だろうが、そもそも人が魔物を狩っている以上、絶対に悪だとも決められない行為だろう。
「なんにせよ。町に飛び火せんことが重要じゃ。どんな魔物がいるかもおおよそでしかわからんからのう」
「調査とかはしないのか?」
「どれだけ魔物がいると思っておるんじゃ。そんな暇があったら別のことをするわ」
調査も大変とかこの草原にはいくらの魔物がいるのやら。
「でも、その草原を抜けるんだろ?安全なのか?」
「ここはルートが構築されておる。魔物の生息域もそのルートの近くは調べてあるし、定期的に騎士団も通るから、魔物の方も寄って来んわい。途中には町もあるしの」
どうやら山肌に沿って道が作られていて、さらにその中間地点に町もあるらしい。今日は野営でないと知ってほっとする。
「これで今日は野営しなくて済むな」
「はぁ、ロウよ。昨日の話覚えておるか?今日は伯爵の家まで行くんじゃぞ?」
「おお、そういえばそうだったな」
「しっかりせい。全く、帰ったら地理の勉強もせんとな」
「ほ、ほどほどにな」
乗馬の練習もあるし、あまり詰め込み教育は良くないからな。そんなことを思いながら時間が経つのを待つ。1時間後には街について食事だけ取るみたいだ。
「飯っていっても、そこまででかい店じゃないんだな」
「ああ、ここは知り合いがやっておる店なんじゃ。融通が利くんじゃよ」
そういうと、レストランに入っていくマリナ。
「いらっしゃいませ!あら、どうぞ奥へお入りください」
店に入るとマリナを見た途端、店員が奥へ入るよう勧める。どうやら知り合いの店というのは本当らしい。
「マリナ様、ようこそいらっしゃいました。こちらの方は?」
「新しい護衛じゃ。こう見えて腕が立つんじゃよ」
「そうでございましたか。私はてっきり…」
「てっきりなんじゃ?」
「いえいえ、どうかごゆるりとお過ごしくださいませ」
「ありがたいのう。しかし、少し急いでおってな。食事だけ取りに来たんじゃ」
「そうでございますか。残念ですが、心を込めて作りますのでお楽しみください」
「うむ!」
「さっきの爺さんが知り合いか?」
「ああ、爺やは少し前まで、わしの世話役だったんじゃ。しかし、体を壊してしまってのぅ。隠居したあとはここでレストランをしておるんじゃよ。案内してくれたのが孫娘じゃ」
「へ~、それで親しげだったんだな」
「うむ。やめてしまっては中々会えないからの。こういう機会には利用しておるんじゃよ」
「なるほどな。で、うまいのか?」
「当たり前じゃ!わしは身内びいきはせんからな」
マリナの言う通り、運ばれてきた料理はどれもおいしかった。正直、晩餐の時に食べた料理と変わらないぐらいだ。一体何者なんだよあの爺さん。
「爺やが何者かとな?普通の執事じゃが?」
「執事が何で料理がうまいんだよ」
「さあ?じゃあ、切るのは得意とか言っておったのう」
「うっ…」
なんだかこれ以上聞くのは不味い気がしたのでそれ以上は突っ込まないで置いた。
「さて、出発じゃな。また来るぞ!」
「いつでもお待ちしております」
「うむ!」
こうして食事も済ませた俺たちはいよいよ伯爵の邸を目指し進んでいった。
「マリナ様、草原を無事に抜けました!」
「ご苦労だったの。けが人は?」
「けがをしたものはおりません!これも新しい護衛騎士殿のお力添えのお陰です」
「いや、みんなが体を張ってくれたからだ。俺は攻撃しただけだしな」
「しかし、あれだけ早いブリッツキャットなどを見事な腕前で仕留められましたし…」
「褒められておるんじゃ。素直に受け取れ」
「そういうことなら」
草原は安全と言っても魔物に出くわさない訳ではなく、2度ほど魔物がやってきた。その中でもブリッツキャットという魔物は大型の猫型をした魔物で鋭い爪と牙に素早い動きで騎士の剣を寄せ付けなかった。しかし、アラドヴァルの弾丸の速度には反応できず、射程ギリギリから一撃で仕留めたのだ。
「アラドヴァルといったの。本当にいい武器じゃな」
「射程の限界まで進むことを考えなければな。弾の残りは11発か」
昨日使った分は俺の魔力を使って補充されたから朝の時点で弾は装弾数MAXの13発だった。ブリッツキャットに2発使ったから残りは11発。
「こう考えるとちょっと少ないよなぁ」
「何がじゃ?」
「アラドヴァルの1日に仕える回数だよ。魔物が多いとすぐに使えなくなる」
「そういえば、町に出てないからまだサブウェポンを持っておらんのじゃな。帰ったら一緒に見に行くか!」
「いいのか?マリナも城下町に行って」
「うむ!それにわしがおった方がロウにもいいぞ。王女の紹介をむげにはできんからの」
「それは正直助かる。でも、サブ武器って言ったらやっぱり剣か?」
「普通はそうじゃな。それに剣だとリタやセドリックも使えるから稽古つけてくれるぞ」
「セドリックはともかくリタに稽古か…しばかれそうなんだが」
「それはお主の普段の行動の結果じゃろ。諦めろ」
「帰るまでにもう少し考えてみる」
「諦めが悪いのう…」
そして、それから時間ほど進むとさっきより大きな町が見えてきた。
「おっ、見えたか。あれがベイルン伯爵領の領都ビスチャートじゃ」
「へ~、城壁も立派だし問題がありそうではないな」
「まあ、領地はあそこだけはないからの。さあ、もう少しじゃ。皆の者、気を抜くでないぞ!」
「はっ!」
マリナの呼びかけに騎士団が返事をする。う~ん、こういうところを見るとこいつも立派な王族なんだけどな。
「なんじゃじろじろ見て」
「いや、たまに威厳があるなって思ってな」
「たまには余計じゃ」
「それよりもう町に入るぞ」
「そうか。では、ちょっと鏡を見てと…」
「なんだセットが気になるのか?」
「当たり前じゃろ?伯爵に失礼じゃからな」
「そっちか。俺も見てやるよ」
「お主に分かるのか?」
「あんまりわからん」
「正直じゃな。まあ、確認するのはしてもらった方が良いじゃろ」
そんなわけで馬車の中でセットの確認をして、町に入る。
「伯爵の邸ってすぐなのか?」
「いや、確かここは奥じゃな。10分はかかるじゃろう」
「そんな奥に作ってどうするんだ?」
「有事の際は避難所でもあるし、最後の砦じゃからな。奥に作るのが理にかなっておるんじゃよ」
「ふ~ん」
「気のない返事じゃのう…」
「別に俺は戦争する気はないしな」
「そりゃそうじゃな」
「マリナ様。伯爵邸に着きました。門番に取次ぎをしますがよろしいですか?」
「頼む」
ほどなくして、伯爵が出迎える準備を済ませたということで馬車は敷地に入っていった。
「こういうところ本当に面倒だよな」
「そういうな。寝起きの格好で出迎えられても困るじゃろ?そういう時は処罰せんといかんしのう」
「そりゃ嫌だな」
そして馬車が止まり、扉が開いた。
「ようこそいらっしゃいました、マリナ様…?」
「お久しぶりです、伯爵様」
「マリナ様、こちらの男性は?」
「紹介します。私の新しい護衛でロウと言います」
「ロウです。以後、お見知りおきを」
「あ、ああ。よろしく」
あっけにとられる伯爵だったが、気を取り直してマリナをエスコートする。ここは流石に俺が出る幕ではないのでマリナが降りてから馬車を降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます