まさかの食事相手
「ではお入れいたします」
「ん?ネリアの分は?」
「私は使用人ですので、仕えている方とは一緒には取りません。どうぞお気遣いなく」
「う~ん。そう言われてもなぁ。こういう扱いには慣れてないんだ。慣れるまで頼むよ」
「…よろしいのですか?」
「ああ、できればそうして欲しい。せっかくのお茶の味も分からなくなる」
「クスッ、ではすぐにカップを持ってまいります」
ネリアはササッと部屋を出ていくとすぐに戻ってきた。
「それではいただきます」
「ああ」
俺もお茶に口を付ける。多分紅茶だろうけど、香りからしていいんだよなぁ。
「ん?そういえば、どうしてカップを入れ替えたんだ?」
「紅茶には最適な温度がありますので。ロウ様のものは注いで時間が経っておりましたので」
「それぐらいなんでもないのに」
「いいえ、おもてなしをするのに手は抜きたくありませんから」
「ネリアは真面目だなぁ。にしても、このお茶美味いな」
「ありがとうございます。まだ、習って少しなのですが…」
「そうか?十分だと思うけどな」
「普段は姫様も召し上がっておられますし、きっと茶葉のお陰ですね」
「どうだろうな?今度マリナにも飲んでもらったらどうだ?」
「私がですか?ミスティア様を差し置いてそれはできません!」
「そこはこだわりがあるんだな…」
「もちろんです。ミスティア様は何年も姫様に仕えておられます。あの方を差し置いてなどとてもできません」
「メイド同士、仲がいいんだな。マリナに仕えるのに権力争いとかないのか?」
「ないわけではありませんが、姫様に仕えるのにそれを出すものはおりません。できるだけ中立になるように考えられておられますし」
「それならよかったな。あいつ、結構気を遣うみたいだしな」
「はい。私たちにもよくしてくださいって素晴らしい方です」
「後は無茶をしなければいいんだけどなぁ」
「そうですね。王族としての責任感が強いお方ですので、心配です。ですから、ロウ様これからも姫様をお願いします」
「これからと言われてもな。俺は旅人だし」
「ですが、その鎧の傷は姫様をお守りになられたものでは?」
「守ったっていうか、マリナを狙っていた魔物と出くわしたって感じだな」
「そうなのですか。ですが、どちらにせよ助けたいただいたことには変わりありません。どうか、お願いします!」
急に立ち上がり頭を下げてくるネリア。
「うっ、そう頼まれてもな。マリナが言ってきたらだぞ?こっちはただの平民なんだから…」
「ありがとうございます。願いを聞き届けて下さった音は一生忘れません!」
「いや、やるとも決まってないし…」
「いいえ。こちらの部屋に姫様が案内されたことといい、きっとそうなります!」
「断言されてもなぁ」
そんな会話をネリアとしながら、紅茶のお代わりも貰いつつ時間は過ぎていった。
「~~それで、お姉様が…」
コンコン
「はい」
「ネリア、入りますがロウ様の準備はよろしいですか?」
「大丈夫です」
「…」
「ん?ヴェルデか。どうかしたか?」
「ネリア、あなたは…メイドなのですよ」
「あっ、も、申し訳ございません!」
「いや、これは俺が頼んだんだよ。ひとりで飲んでたら落ち着かなくてさ」
「いいえ、そういう訳にはまいりません。確かにロウ様のお相手をするのはネリアの仕事でもありますが、他人が部屋に入ってくるのにくつろいでいては誤解されてしまいます。私だったからよかったものの、他の貴族が入って来られる場合もあるのです」
「そういえばそうか。ネリア、悪かったな」
「いえ、ロウ様は悪くありません。気を抜いた私が悪いのです」
「まあ、今回は多めに見ましょう。ですが、気を抜いてロウ様におかしなことを吹き込んではいけませんよ。ロウ様はこちらの国のことをあまりご存じない様子ですから」
「いや、おかしなことは言われなかったぞ?」
「ロウ様がそう思われていてもです。貴族の常識は往々にして平民とは異なりますから、ロウ様がこのまま出ていかれることになれば、面倒ごとに巻き込まれませんので」
「うっ、そう言われると自信がなくなってきたな。あとで何か本でも読むか」
「それでしたら食後にお持ちいたします。学園でも使われている書籍がありますので」
「助かる。食後ってことはもうすぐ食事なのか?」
「はい。その知らせに参りました」
「それで食事は食堂とかで取るのか?」
「とんでもありません!殿下の恩人にそのようなところでの食事など。今日は殿下からお誘いが来ておりますので一緒に来ていただきます」
「ひょっとしてこの服も?」
「いいえ、そちらの服に関しましてはお客様としてのおもてなしです。前に来ておられた服は着れたものではありませんでしたし」
「そりゃそうだな。じゃあ、案内してくれ」
「かしこまりました」
「では、ロウ様。行ってらっしゃいませ」
「あれ?ネリアは来ないのか?」
「私はこの時間でお部屋を整えさせていただきます」
「別に汚れとかないと思うんだが…」
「ロウ様。さあ、行きましょう」
ネリアのことは気になったが、ヴェルデに言われ俺はマリナの元に向かう。
「こちらになります」
「ありがとな」
どこかの部屋の入り口まで来るとヴェルデが扉の横に立つ。すると、両脇にいた騎士が扉を開けてくれた。
「うわ~、改めてすごい対応だな」
「では、先にお進みください」
「あれ?ヴェルデは?」
「私は部屋の隅で待機しておりますので」
「分かった」
そのまま扉の向こうへと進む。
「げっ!?でかい部屋だな。飾りも豪華だし…」
「何が『げっ!?』じゃ、ちゃんと聞こえておるぞ」
「おお、マリナか。久しぶりだな」
「何が久し振りじゃ、さっき別れたばかりじゃろ!」
「言われてみればそうだな…え?」
マリナに声をかけられて最初は気づかなかったが俺の真正面には豪華ないでたちの男が座っていた。
「あ、あのさ、マリナ。そちらの方はひょっとして…」
「うむ!わしの父上であり、現フォートバン王国国王のユピテル=フォートバンじゃ」
「君がマリナの話していたロウか。掛けたまえ」
「は、はい…」
やべぇ。親父の前で普通にマリナとか言っちまったよ。くそぅ、先にこいつが声をかけてこなけりゃ…。
「ん?わしの顔に何かついておるか?」
「何でも。あっ、やべっ…」
「よい。別に貴族でもなければ、我が臣民でもないのだ」
「た、助かります」
話の分かる国王陛下でよかった…。って、話の分かる国王陛下って何だよ!
「ロウ、お前変じゃぞ?」
「変ってなぁ。普通の反応だろ?国王陛下の前だろ?です…」
「いや!わしと会った時はそんなんではなかったじゃろ!これは差別じゃ!」
「いや、区別だ。マリナからは威厳が感じられない」
「な、何じゃと!お前、覚えておれよ…」
「マリナ。そこまでにしておきなさい。食事も話も出来ぬではないか」
「うっ、父上。すみません」
国王陛下に注意されてしょんぼりするマリナ。こいつ本当に親父のことが好きなんだな。
「さて、紹介が遅れたな。一応マリナが言った通り、余がフォートバン王国国王のユピテルだ」
「あっ、ロウと言います」
「うむ。今日は娘を助けてもらったそうだな。礼を言う、ありがとう」
「い、いえ、国王様にそう言ってもらうほどでは…」
「いや、報告書を読んだが現れたのはヴァリアブルレッドベアーだろう?あの魔物は騎士団を派遣してようやく倒せる魔物なのだ。マリナには目立たぬように視察を行わせてしまっている故、あの魔物を倒せるだけの戦力を付けてやれなかった。少なくとも2人の騎士の命はなかっただろう」
「それは…」
リタも同じことを言っていた。俺は女神とか言う存在からもらったアラドヴァルがあるから倒せたが、改めてあの魔物は強かったと思わせられる。
「ロウ、何度も言うがそこは誇ってよいぞ。その後のわしへの対応は誇れんが」
「マリナ、一言多いぞ」
「はっ!父上」
「それにしても、興味深いのはあれだけ強い魔物であるヴァリアブルレッドベアーを一撃で倒したことだ。何か特殊な魔道具らしいが…」
「ああ、アラドヴァルの事ですね」
「そうだ。少し見せてもらえないだろうか?」
「構いませんけど、今は部屋に…へ?」
俺が頭の中でアラドヴァルのことを考えていると手元に急に表れた。どうなってんだこの銃は?
「お、おい、お主…」
「貴様!よくもこのような場で…」
急に表れたアラドヴァルに反応して近くにいた騎士たちが詰め寄ってくる。
「下がれ!」
「し、しかし、陛下…」
「先程の反応を見るに、故意でないのは明らかだ!そうだな、ロウよ」
「はい!」
急に剣を向けられぶんぶんと首を縦に振りながら答える。騎士ってこえ~な。いや、主が危険にさらされたと思えばしょうがないのかもしれないけどさ。
「騎士が済まなかったな。改めて見せてもらっていいか?」
「どうぞ」
おずおずとアラドヴァルを差し出す。
「ふむ、変わった形状だがどうやって使うのだ?」
「えっと、そのグリップ部分にある引き金を引くと弾が発射される仕組みです」
「グリップ?ここを持つのだな」
「はい。それで引き金に指をかけて引くんです」
「ふむ。引いてみてもいいか?」
「あっ、いや、それはやめた方が…」
「父上、御耳を…」
俺が止めようとすると、マリナも国王陛下の耳元でささやく。
「なんと!それは誠か!!ならばやめておこう」
「そうしてもらえると助かります」
リタが引いた時は何も起きなかったが、もし引けでもしたら、この場所にある高そうなものが壊れるだろうからな。もし隣にも貴重なものがあったら貫通するし、考えてみるとアラドヴァルって建物の中じゃ不便だな。幸い大きい穴は開かないけど、つぼとか色々破壊しそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます