食事会終了
「それにしてもこのような魔道具、簡単に手に入るものではないだろう?どこで手に入れたのだ?」
「さあ?」
「さあってロウよ!父上が聞いておるというのに…」
「い、いや、本当に出自は知らないんだよ。その…旅に出る時に渡されたものだからさ。正直、それと着てた鎧ぐらいしか持たされてなくてさっぱりなんだ」
「だが、お主はこの国は初めてじゃろう?それまではどうしておったんじゃ?」
「いや、よくわからないが俺も気づいたらあそこにいてさ…」
「なるほど、どこか高度な魔法文明の村でもあるのだろう。私も書庫にある本で読んだことがある。本人にもわからないのであればこれ以上は聞くまい」
「ありがとうございます。それも俺専用というか一つだけなんで、多分高いものだとは思います」
「そうだろうな。細かい細工に手になじむ造り。相当な鍛冶の技術も求められるだろう。では返そう」
国王陛下からアラドヴァルを返してもらう。
「それで、今後の事なのだが、ヴァリアブルレッドベアーを売るそうだな?」
「あっ、はい。マリナから聞いていると思いますが、金がなくて…」
「全く、金も持たさず異国の地に送るとはお前の親は非情じゃの」
「いや、親に送られたんじゃなくて別のやつに送られたんだよ」
「そ、そうなのか?それは悪いことを言ってしもうたな」
「俺も言ってなかったからな。別にいいよ」
「ゴホン。それでヴァリアブルレッドベアーなのだが、王家に売ってくれないか?」
「それマリナからも聞いたんですが、買ってもらえるんですか?」
「ああ。あの魔物は高位の魔物では。毛皮は固く、魔法にも強い。肉も美味でその…私も好物なのだ」
意外にこの国王様も人間っぽいんだな。できた人だとは思っていたけど…。
「そういうことならお願いします。どうせ俺も金が欲しかったですから」
「うむうむ」
「なんでマリナが返事するんだよ」
「別にいいではないか。お主とわしとの仲であろう。そうじゃった、ロウよ鎧はどうするんじゃ?」
「鎧?着てたやつならもう着れないだろうから新しいのを買う気だが?」
「いい鎧が安く手に入る機会があるんじゃが乗らぬか?」
「本当か?で、どこで買えるんだ?」
「正確には買わんのじゃ。ロウよ、わしの護衛にならんか?」
「ご、護衛!?マリナの?」
「そうじゃ。そのアラドヴァルとか言う魔道具があれば大体の魔物は倒せるわけだし、わしは大人数での行動はあまりできぬ。お互い損はせぬはずじゃぞ?」
「いいのか?こんな平民で」
「いいも何もお主は一度わしを助けてくれておる実績もある。誰も反対せんわい」
そう言われ、俺はちらりと国王陛下の方を見る。
「ああ、父上の許可ならもう取っておるぞ。もちろん賛成してくれておる」
「でもなぁ…」
護衛なんて堅苦しそうだしなぁ。あっ、でもさっきネリアと約束したっけ。
「分かったよ。護衛になる」
「なんじゃ、もっと嫌がるかと思っておったのに…」
「正直に言うと気が進まないところもあるけどネリアと約束したしな」
「ネリアと?お主、何か言ったのか?」
「いや、もしこのまま留まることになったら守って欲しいって言われたんだよ」
「そうか…あやつめ」
「あっ、これは内緒な。ネリア、気にするだろうし」
「分かっておる。しかし、な~んか気に食わんのう。ネリアの言うことならほいほい聞くのは」
「別にほいほい聞いてるわけじゃないぞ。王宮に来てマリナが頑張ってるのも分かったしな」
「そ、そうか!それなら当然じゃな!!」
急に元気になるマリナ。どうしたんだ一体?
「なにはともあれこれで決まりじゃな。リタたちと一緒の親衛隊用の鎧を…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あの鎧重いんじゃないのか?」
「まあ、それなりにはの。じゃが、鎧は重たいもんじゃろ?」
「いや、俺の武器の特性からいってああいう重たいのはな。もっと軽いやつはないのか?」
「贅沢なやつじゃな。しかし、確かに一理あるのう。父上」
「ああ、軽装でもそれなりのものを用意しておこう。それと先程のヴァリアブルレッドベアーだが、君の分のコートも発注しておく。軽装になる分、あれを上に着ればちょうどだろう」
「本当ですか?ありがとうございます」
「ロウ、父上には礼を言うんじゃな」
「マリナもありがとな。助かったよ」
「そ、そうか!まあ、わしも王女として護衛には当然の配慮をしたまでじゃ!」
「そうか?なら次からは例は言わないでおくな」
「社交辞令じゃ!それぐらいわからんか!」
「分かってるよ。それにしても、どれぐらいになるんだろうな。俺、大金とか持ったことないから楽しみだな」
「…う~む。お金の受け渡しは少し待て」
「えっ!?なんでだよ」
「多分、今のお前が受け取ったら価値をわからぬまま使いそうじゃ」
「そうだな。護衛になるということは知識も必要になるし、教師も付けよう」
「げげっ!こっちでも勉強か…」
「しょうがないじゃろ。このままだと、露天商にすら騙されるぞ」
「それは嫌だな。分かったよ」
「ロウよ。できるだけ、早く済ませて欲しい」
「どうしてですか?」
「実はマリナの帰還と入れ替わりにベイルン伯爵から依頼が届いていてな。数日中にはそちらに向かって欲しいのだ」
「それはマリナと一緒にということですか?」
「そうだ。なんでも魔物の被害が増えているらしくてな。騎士団も一緒に派遣する」
「が、頑張ります」
「ちなみにベイルン伯爵領はわしらの出会った先の領地じゃ。王都の横にある領地なんじゃぞ」
「ふ~ん。じゃあ栄えているのか?」
「そうじゃな。遠い領からは宿泊地としても利用されるからのう」
「魔法があるからそれぐらいパッと移動できないのか?」
「そんなことするのは貴族の早馬ぐらいじゃ。魔力も持たんし、一般人がそんなに強力な魔力を持っとる訳なかろう」
「じゃあ、移動は馬車になるのか?」
「まあな。じゃが、馬車と言っても護衛は歩きの場合が多いから早さはないぞ?」
「不便なんだな」
「安全のためには仕方ないわい。全員馬車に乗っておって襲撃されてもつまらんしの」
「そりゃそうだ」
「陛下。そろそろ」
「ああ、そういえば夕食に招待したのだったな。そろそろ食事にしよう」
国王陛下がそういうと料理が順番に運ばれてくる。
「ん?カトラリーの使い方は知っておるのか?」
「カトラリー?ああ、ナイフとフォークの事か。一応見たことはあってな。外側からだろ?」
「ロウは貴族ではないんじゃよな?」
「そうだぞ?そんな風に見えないだろ?」
「それはそうなんじゃが、色々知っておるからのう」
「ま、国が変われば常識も変わるってことだな!」
「それもそうか。わしも食わんとな」
「成長しないもんな」
「失礼な!ちゃんと成長しておる」
「そうか?まあ、俺はお前が大きかったときは知らないしな」
「それを言うなら小さかったときじゃろ!よ~し、明日にでも昔の絵姿を見せてやろう」
「いや、別に見たいわけじゃないけど…」
「ならん!わしもちゃんと成長しとるところを見せる!」
「面倒なやつだな。でも、せっかくだし見てやるか」
この世界に写真はなさそうだし、どうやって記録してるのか気になるしな。
「それにしても豪華な食事だな。味も旨いしいつもこんないいもの食べてるのか?」
「当然じゃ!王族たるもの最高のものを食べんとな。他国の人間にも未熟な舌では失礼になるしのう」
「結局そこにつながるのかよ。王族も楽じゃねぇな」
「まあ、飢えることもないしそのぐらいはしょうがないじゃろ」
「そんなもんか」
「そんなもんじゃ」
「ふむ…」
「父上、どうかされましたか?」
「いや、少し考えることができたと思ってな」
その後も和やかに食事は進み、食後の時間になった。
「おっと、忘れるとこじゃった。ほれ、これをやろう」
「なんだこれ?この花の紋章は…」
「これは桃の花じゃ知らんのか?」
「モモは知ってるけど、花なんて見たことないぞ」
「そうか。わしの紋章じゃ。お前は今からわしの護衛騎士じゃからの。これを付けていれば王宮の一部エリアはフリーパスじゃ」
「一部って全部じゃないのかよ」
「アホ。兄上の部屋には入れる訳なかろう。父上のところもじゃ」
「ああそう言うことか。もっと制限かかってるのかと思った」
「まあ、入れんエリアには金色の刺繍をされた近衛騎士がいるから分かるじゃろう」
「マリナの部屋の近くにはいないのか?」
「まあ、わしにも王位継承権はあるとはいえなることはないからのう」
「そうなのか?」
「兄上が2人おって、姉上もいるんじゃぞ?どうやってなるんじゃ」
「そんだけいれば、安心か」
「大体、王宮生活は窮屈なことも多いからの。わしには合わんわ」
「ふ~ん。まあ、堅苦しいよな」
「そういうことじゃ。それよりつけてみい」
「着けるってこのクリップで挟むのか?」
「うむ」
「でも取れたりしないのかこれ?」
「お前以外は外せんわ。さっき持った時に所有者登録しておいたからの。服にも傷がつかないように魔法もかかっておるんじゃぞ」
「そりゃいいや。さっき、この生地が高いって聞いたばっかりだからな」
「着心地はどうじゃ?」
「すっげーいい。ただ、堅苦しいけどな」
「それは我慢せい。明日から頑張るんじゃぞ?」
「ああ、魔物に困ってるって話だしな。なるべく早く終わるようにするぜ」
「頼りにしておるぞ」
「任せとけって!」
その後も少し話をして食事が終わった。
「今日は時間を取らせたな」
「いえ…」
「父上、お願いを聞いて頂いてありがとうございました」
「いや、お前にはいつも苦労をかけているからな。これぐらい問題ない。ではな」
国王陛下と別れて、俺たちも退出した。
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