メイド
「マリナ様、おかえりなさいませ」
「うむ。今帰ったぞ」
「そちらの男性は?」
「ああ、道中少しあってな。父上にもそのことで話があるから伝えてもらえるか?それとすぐ横の部屋にこやつを泊めたいのでヴェルデを呼んでくれ」
「…承知しました」
一瞬驚いた様子だったがメイドらしき女性はすぐに用件を聞くと外へと出ていった。
「ふぅ~、なんとか戻って来れたの。リタ、セドリック、ご苦労じゃった」
「いえ、殿下のお役に立てず申し訳ありません」
「我々は姫様のため、今以上に精進いたします」
「2人ともそう気にするな。あんな大熊、普通は倒せんわ」
そういうとマリナはこっちを見る。
「なんだよ」
「ロウもご苦労じゃった。改めて礼を言う」
「なんだよ、マリナらしくねぇな」
「そうか?なら、普通に話すか!」
急に元気を取り戻すマリナ。全く、お子様の考えはよくわからんな。
コンコン
「入れ」
「マリナ殿下、お呼びでしょうか?」
「おおっ!ヴェルデ、来てくれたか」
「はい」
「実はな。今日の帰り道、魔物に襲われてのぅ」
「それは!御身は!?」
「この通り、もちろん無事なんじゃが、相手が相手での。ここのロウという男に助けてもらったんじゃ」
「そうでしたか。ミスティアよりマリナ殿下が見知らぬ男を連れているという話は聞いておりましたが…ありがとうございます。殿下を救っていただいて」
「い、いや、ただの通りすがりだったし…」
あまりに丁寧に頭を下げられて恐縮して返事を返す俺。慣れね~な…。
「いいえ。通りすがりでも魔物に遭えば逃げるという選択肢もあったはずです。勇敢な方なのですね」
「そういう訳じゃないんだけどよ。まあ、礼は受け取っとく」
話が進みそうになかったのでとりあえずそう返す。
「それでな、父上にはまた話すのじゃが、ロウには隣の部屋をしばらく使ってもらおうと思うのじゃ」
「隣の!?いえ、かしこまりました」
ん?なんかあるのか?さっきのミスティアとか言うメイドも変な反応だったが…。
「後、視察の報告書をまとめないといかんから、紙とペンを用意してくれ」
「それは…魔物に襲われたのですし、明日以降でもよろしいのでは?」
「そうはいかぬ。調査結果は1日も早く必要じゃろうし、この後で父上とも会う予定じゃ。忙しい父上の時間を何度も取らせるわけにはいかんわい」
「マリナ様…かしこまりました。ただ、無理はなさいませんよう」
「分かっておる」
「では、失礼いたします」
返事をしてヴェルデは出ていった。
「いいのかマリナ?疲れてるんだろ」
「さっきも言ったが、わしは視察の帰りにヴァリアブルレッドベアーに襲われたんじゃ。視察の結果を早く渡さんと宰相も困るじゃろう」
「でも、もうすぐ夕方だろ?明日でも一緒なんじゃ…」
「明日の仕事始めに資料があるかないかは違うじゃろ?」
「そりゃあそうだけどよ。そこまでやらなくていいと思うぞ?」
「お主はそういうが父上や宰相はわし以上に忙しいんじゃ。あまり手を取らしたくないんじゃ」
「…マリナがいいならそれでいいけど、ちゃんと休めよ」
「もちろんじゃ!書ききったらすぐに休むわい」
「なら、何も言わねぇよ。ん?どうしたリタ?」
「いや、お前も人の心配をするのだなと」
「失礼な…。さっきまでは帰ったらすぐ休むと思ってたんだよ。こんな無茶するやつだとは思わなかったぜ」
「無茶でないといっとろうに」
「はいはい」
む~、怒りにほほを膨らませるマリナだが、疲労がたまっているのは俺から見ても分かる。なにより、こんな小さいのに命の危険に出くわしたんだからな。この世界に危険が多いとはいえ、かなりのストレスだろう。
「俺から言えるのは寝るのも仕事だってことだ。頑張るのはほどほどにな」
「うむ。肝に銘じておく」
それからすぐにヴェルデが紙とペンを持って来た。流石にマリナの報告書は機密事項なので俺はここで部屋を出ることとなった。
「では、隣のお部屋へ案内します」
「おう!」
「こちらです」
案内された部屋に入って驚く。
「あのさ、この部屋広くないか?マリナの部屋とほとんど変わらない広さなんだが」
「ええまあ。マリナ様の隣の部屋になりますので、それなりの格が必要ですから」
「そうなんだな。そういうのあんまり詳しくなくてな。おっと、言葉遣いがなってなくて悪いな」
「いいえ。ロウ様はマリナ様の命の恩人ですからお気になさらず」
「いや、そこまでじゃ…あるのか?」
「では、設備についてお話いたしますね。メイドも付きますが、おひとりの場合もあるかと思いますので」
「頼む」
「まず部屋の明かりはこちらで。次に…」
室内の各設備を説明してもらう。簡単だが手洗い場もあり、生活はほとんど現代と変わらない。これも魔法を使ったものらしいけどな。
「ちなみにヴェルデさん…でしたっけ?」
「ヴェルデで結構です」
「ヴェルデに聞きたいんだけど、こういう設備は一般人でも普通なのか?」
「そうですね…明かりぐらいはついていると思いますが、それでも価格はしますので夜を迎えれば真っ暗な家も少なくありません。ここは王都ですからそういう家は少ないですが、農村であれば先程説明した通りかと」
「なるほどな。ありがとう、これからも色々聞くと思うからよろしくな」
「はい。では、私はこれで…」
「ああ」
用事があるのだろう、ヴェルデは一通りの説明が終わると出ていった。
「さて、それでこれからどうするかな?まずはこの壊れた鎧だよな…」
改めて鎧を見て見る。そういや、ここに来る時も気にしてなかったが、外してみると結構な恰好だったんだな、俺。
「鎧の前部分は爪でえぐられてるし、よく見ると胸元丸見えじゃんか…こんな格好でも王宮に入れるもんなんだな」
そんなところで感心しつつ、鎧を脱いでいく。
「それにしても持ってみると結構重いな。革のくせに一部には金属も使われてるしな」
関節部なんかは革だが、ところどころには金属板がついている。これのせいでそこそこ重量がある。付けている時はあまり感じなかったが、改めて持ってみると重い。
「でも、不思議だよな。これぐらい重いと俺じゃあんなに動けなかったはずだけどな?」
謎が生まれたが、まあそこら辺は異世界に飛ばされた影響で体に変化があったのかもしれない。
「どっちにしろ、俺からすればありがたいことだし、今は気にすることないな。どっちかというと気にするのは服の方だよなぁ」
マリナは父上に説明するって言ってたし、マリナの親父ってことは国王だろ?流石に国王の目の前に半裸の男が出るのはなぁ。そう思っているとドアがノックされた。
コンコン
「ん?誰だ?」
「ネリアと申します。入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないぞ」
「では、失礼します」
ネリアという女性が扉を開けて入ってきた。
「何の用だ?」
「あっ、鎧の方を外していただけたのですね。ヴェルデ様の方よりお着替えを手伝うようにと言づけを頂いております」
「ほんとか!いや~、実はさっきまで自分の格好に気付いてなくてな。助かるよ!」
「いいえ、それだけ姫様をお守りいただくのに懸命であられたということですね。すぐに着替えさせていただきます」
「あ、いや、そういうことじゃないんだけどな」
俺が返事を返す間にもネリアは持って来た服をテーブルにかけて用意をし始めた。
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