王都フォートバン
「なあ、リタ」
「なんだ?」
「結局マリナって婚約してるのか?」
「なっ!?貴様まさか殿下を狙って…」
「そ、そういう訳じゃねぇよ。さっきの話でちょっと気になったんだよ」
「そうか。いや、まだ殿下に婚約者はいない」
「えっ、意外だな。さっきの感じだと居るのかと思ったけどな」
「王族の婚約は難しいのだ。殿下は上に第一王子と第二王子、それに第一王女がおられる。上の方の婚約相手とのバランスが必要だし、場合によっては他国に嫁ぐ可能性もあるのだ」
「えっ!?でも、人質とかは必要ないって言ってただろ?」
「あくまでこちら側からということだ。隣国と争わぬために婚姻関係を結ぶ国は多い。我が国も第二王子の婚約者は隣国の王女だ」
「そうなのか。でも、隣国の王女が第二王子の相手でいいのか?普通第一王子なんじゃ…」
「相手は小国だし、他国の影響を多く受けるのは国としていいことではないからな。まあ、第二王子である殿下も後々は公爵家を起こすことになっているが」
「ふ~ん。でも、王族って貴族になったらどうなるんだ?やっぱり他と同じぐらいの地位なのか?」
「場合による。多ければそれなりの地位に納まるし、時代が進めば一般貴族の扱いになることが普通だ」
「なるほどな。リタも結構知ってんなぁ」
「お前まさか私が脳筋とでも思っていたのか?」
「違うのか?」
「違うわ!!これでも騎士学校主席だぞ!」
「へぇ~」
「なんだその気のない返事は!」
「だって行ったこともないしな」
「ふっ、それはそうだな。リタ、ロウにはきちんとした説明が必要だろう」
「セドリック…ちっ、それなら説明してやろう」
「いいよ別に」
「なんだと!人の折角の好意を…」
「自慢したいだけだろ?俺は行かないし」
「くっ!」
図星を突かれたのかリタは引き下がった。う~む、マリナと言いリタと言い身分が高いはずなのにいちいち反応してきて面白いやつらだな。
「王都だ。あと、5分もすれば着く」
「えっ、本当だ!結構話に夢中だったから気づかなかったな」
「それはお前だけじゃ!」
「あっ、帰ってきた」
「どこにも言っておらんわ!」
「へいへい。それじゃあ、さっさと入り口に向かいますか」
王都への門が見えてきたので俺たちはそこに向かって進みだす。
「あれ?こっちに進まないのか?」
「そっちは一般入り口じゃ。その横は商人用の入り口でそのさらに横が貴族用入り口じゃ。わしが何でそっちに並ばねばならんのじゃ」
「あっ、そういうことか。貴族って楽でいいんだな」
「緊急の知らせをする時にいちいち並んではおれんからな。さあ、行くぞ」
「おう!」
「こちらは貴族用入り口になります。通行証をお願いします」
「うむ」
門番に言われマリナが何かを取り出す。
「これは王族の…失礼いたしました。しかし、馬車は?」
「ちょっとあっての。借りられるか?」
「すぐに手配いたします!」
4人いた門番のうちの一人が奥に入ると何やら大きな声で話している。急いで手配をしているのだろう。
「こうしてみるとマリナって本当に偉いんだな」
「そりゃそうじゃろ。王族なんてその辺にごろごろしておらんしのう」
「お待たせいたしました。御者は…」
「残念ながらおらんのじゃ。そちらの手配もできるか?」
「一応連れてきておりますが、王宮までは…」
「そうじゃな。ついたらこちらで手配をしよう」
「ありがとうございます。おい!失礼のないようにな」
「はいぃ」
相手が王族だと知った御者はしきりに恐縮している。う~ん、ああいうのが普通の反応なのか?
「とりあえず、門を通らせてもらうぞ」
「はっ!」
こうして城壁を進むと一気に町が広がっていた。
「うお~~~すげぇ!これが王都か!」
「どうじゃ、我が王都は!」
「お前のじゃないけどすげぇよ!」
「む、そこには反応するでないわ」
自分でも我が王都という発言はちょっと恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして起こるマリナ。こういうところはやっぱりお子様だな。
「さてと。それじゃあ、ここまでだな。ヴァリアブルレッドベアーの処理をしたいんだが…」
「処理はどこでする気なんじゃ?」
「どこって冒険者ギルドかないのか?」
「ああ、あるぞ。じゃが、ロウは所属しておるのか?」
「所属?してないけど、登録って大変なのか?」
「大変ではないが、金はかかるはずじゃぞ?のう」
「はい。冒険者ギルトの登録料は確か1000クロムかかります」
セドリックのやつが無情にも告げる。
「ロウの今の所持金は?」
「えっと…」
そう言われて俺は改めてポケットをまさぐる。
「ははは…ねぇ。全部使っちまったみたいだ」
「はぁ…。お主、ギャンブルにでもはまっておるんじゃなかろうな?」
「してねぇよ。俺の住んでたところじゃ、未成年はできないの!」
「よい国じゃな。ロウが落ちておらんでよかったわ。それでどうする気じゃ?登録せずに売るのか?」
「ん?登録しなくても売れるのか?」
「売れるぞ。ただ、買取価格はかなり下がったはずじゃがな」
「ちなみにどのぐらい下がるんだ?」
「5分の1だ」
「は?いやいや、差がありすぎだろ?」
「まあ、ギルドの方も身分も分からんものに出自の不明なものを売りつけられても困るからのぅ。しょうがないじゃろ」
「そりゃあそうだけど、それじゃあ闇市みたいなもんだろ?」
闇市がどんなもんか知らないけどよ。
「これじゃあギルドには売れんのぅ」
楽しそうにこっちを見てくるマリナ。性格の悪いやつだな。
「どうすりゃいいんだ…」
「わしに売らんか?正確には王家にだが」
「は?そんなことができるのか?ただの魔物だろ?」
「ヴァリアブルレッドベアーはただの魔物ではない。本来であれば騎士団を投入する厄介な魔物だ」
「そういうことじゃ。生息数も少ないし、それなら父上も嫌とは言わんじゃろ」
「裏があるんじゃないだろうな?」
「大丈夫じゃ、信用せい!」
まあ、他に売れる当てもないししょうがないか。マリナじゃないが、それこそ道中に商人と出会っていればなぁ。
「そうと決まればこのまま王宮へ行かんとな!ゆくぞ!」
「はいっ」
御者が予定通り王宮へと進路を取って進んでいく。これから一体どうなるんだ?
カラカラカラ
「あのさ」
「なんじゃ?」
「この馬車も急ぎの手配とはいえ王族が乗ってるんだろ?なんでこんなに揺れるんだ?」
「いや、馬車は揺れるもんじゃぞ?王族の専用馬車も守りの陣が刻まれている以外は意匠が施されているぐらいじゃ」
「マジかよ…もっといいの作れないのか?」
「そういうなら、ロウがアイデアのひとつも出すんじゃな」
「そういうのは専門家に任せるぜ」
「なら我慢じゃ」
そうは言うものの、街中でこれなら出先じゃ思いやられるな。歩いて町を行き来するのは大変そうだし、何か考えないとな。
「つ、着きました」
「そうか、ご苦労じゃった。門番には後で連絡しておくから、後日褒美が届くじゃろう」
「あ、ありがとうございます。では、あっしはこれで」
「うむ」
「へぇ~」
「なんじゃ?」
「いや、そういやさっきからリタじゃなくて御者とも話してんだなって。そういうのって騎士に任せないのか?」
「まあ、本当はそうするべきなんじゃが、普段は商家の娘を装って各地に行くからかのぅ。あんまり気にならんようになったんじゃ」
「なるほどな」
「む、そこの馬車。どうしたんだ?ここは王宮の馬車用入り口だぞ」
「私だ。事情があって御者がいない。すぐに手配を!」
「リ、リタ様!すぐに手配いたします!!」
「おおっ!リタって王宮じゃ偉いんだな」
「王宮ではとはなんだ!」
「いや、さっきまでは普通に話してた相手だしなぁ」
「それはお前が勝手に…」
「御者をお連れ致しました!」
「そ、そうか。ご苦労だった。御者よ、この馬車を王宮の馬車止め迄運べ」
「分かりました」
御者を乗せた馬車はパカパカと奥へと進んでいく。それに合わせて景色がどんどん華やかになっていく。うう~ん、これが王の住処ってやつか。
「あんまりきょろきょろするな。不審者にしか見えんぞ」
「しょうがないだろ?こっちはこういうの見る機会なんてないんだからよ」
「きれいか?」
「ああ」
「そうかそうか、ならしょうがないのぅ」
うんうんとうなずくマリナ。急になんなんだよ。
「着きました」
「そうか。では、向かうとするか」
「おう!」
「ロウ、ここからは礼儀正しくするんじゃぞ?わしがいいと言っても体面があるからのう」
「わ、分かったよ」
ちらりと窓の外を見ると、そこには数人騎士が並んでいた。正直その姿だけでもおっかない。リタと違って堅物そうだしな。セドリックみたいな感じでもないし。
「ほれ、先に降りろ」
「いいのか先で?」
「王族より後で降りるなど、超特別待遇じゃぞ?」
「そりゃあごめんだな」
てっきりレディーファーストかと思ったらそうじゃないらしい。馬車を降りるとすぐにリタたちの方へと向かう。
「おい、お前がエスコートしないか」
「えっ、俺か?セドリックやリタじゃダメなのか?」
「本来ならそうだが、馬車から降りてきたものがするのが普通だ」
「げっ!?そうなのかよ…先に言ってくれりゃあよかったのに」
「済まんな。知っていると思っていた」
「いいや、セドリックは悪くねぇよ。それじゃあ、行ってくる」
すぐに馬車の入り口まで戻るとなんとかエスコートをする。
「なんともぎこちないエスコートじゃのう…」
「しょうがないだろ、初めてなんだからよ」
「む…それならよしとするか」
こうしてなんとかマリナを馬車から降ろした俺たちは先頭をセドリック、後ろにはリタを連れて進みだした。
「これからどこへ行くんだ?」
「静かにせい。ぼろが出るぞ」
「す、済まん」
なんとか背筋を伸ばしてついて行く。向かった先は広い部屋だった。
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