アラドヴァル

 銃の性能を知らないことをリタに突っ込まれた俺は必死に言い訳を考えた。


「いやぁ、これは住んでるところから出る時に貰ったんだよ。でも、変わり者の人でさ一切説明もなかったんだよな。その後は運よく魔物にも出遭わなかったから初めて使ったって訳」


「貴様、本当にそんなことがあるとでも…」


「リタ!あまりロウを責めるな。これでも命の恩人じゃ」


「しかし、殿下。あの武器は危険です!ヴァリアブルレッドベアーを一撃で仕留めるなんて」


「それでもじゃ。それに考えてもみるんじゃ、ロウが本気になったらわしらもあいつと同じ運命じゃぞ?」


「いや、流石にそれはしないが…」


「合わせろ、馬鹿もん」


「いでっ!」


 かかとで足を踏みつけてくるマリナ。かばう気なら暴れんなよな…。


「リタ、姫の言うことも一理ある」


「ぐっ!…しょうがない。だが、扱いには気をつけろ」


「言われなくてもそうするぜ。こっちは平民だからな。人を撃ったらどうなるか分からねぇし」


「盗賊なら無罪じゃぞ。国のためにそれなら許可しよう」


「許可しようって言われてもな。弾には限りがあるし、規模も分からないところには突っ込めねぇよ」


「そんなに少ないのか?いや、あれだけの威力じゃ。そうそう使えんか」


「そういうこった。しっかし、あれからは魔物も出ねぇなぁ」


「当たり前じゃ!ここは王都への交通路じゃぞ。そんなに魔物だらけでどうやって移動するんじゃ」


「でも、さっきは出ただろ?」


「むぅ。それを言われるとのう…」


「先程の魔物は殿下を狙ったものかもしれない。明らかにこの辺りには生息しない魔物だからな」


「確かに、王都の近くに親衛隊でも勝てないような魔物が出るのは不自然だな」


「ま、そう決めつけることもあるまい。変異種の可能性もあるしの」


「変異種?」


「うむ。魔物の中には突然強くなるやつがおっての。それらのことをひとまとめに変異種と呼んでおるんじゃ!」


「お子様知恵袋だな」


「お子様ではない!全く、人が親切に教えてやっておるのに…」


「殿下の説明に加えて言うならば、同じ種族の中で役割に特化したものを亜種という」


「役割に特化?」


「そうだ。例えばゴブリンでも弓を使うのがうまいやつはアーチャー。魔法を使うのが得意なやつはメイジと得意なものをより使えるようになった奴らだ。そういうやつらは通常の種より手ごわい」


「へ~、でもゴブリンなら弱いんじゃないのか?」


「お前の武器ならそうかもしれんが、一般人は剣すら握ることはないんだぞ?それにあいつらは少なくとも5体はまとまって動く。1匹、2匹なら倒せるかもしれんが多数の敵を倒すのは容易ではない」


「そりゃそうか。後ろは見えないもんな」


「一般人が戦うとなれば村だと槍が多いのう」


「そうなのか?そりゃなんでだ」


「使う鉄の量が少ないからじゃ。剣だと全部鉄じゃろ?じゃが、槍ならば穂先だけで済むからのう」


「ああ、そういうことか」


「それにリーチの問題もある。剣相手なら槍が有利だ」


「でも、あんたら2人とも剣だよな」


「まあ、練度が違うからな。槍も使えないことはないが剣の方が慣れている。それに騎士の制式装備は剣なのだ。槍を持っていても剣は帯刀していなければならない」


「結構面倒なんだな」


「爵位は最低とはいえ騎士も一応は貴族の端くれじゃからの。親衛隊の騎士ともなれば扱いも違うんじゃぞ?」


「ふ~ん。給料もいいのか?」


「なっ!そんなことで騎士は揺らがぬ!」


「いや、でも金は大事だろ?その装備だって金かかってそうだし…」


「騎士にはちゃんと雇用先から支給がある!」


「言われればそうか。変に着飾った鎧とかで護衛されても、護衛される方が気に食わないだろうしな」


「…」


「なんでそこで黙るんだよ」


「いやぁ、ロウの言う通り高位貴族出身の騎士にはたま~におってな。じゃが、たま~にじゃからな。たま~にじゃぞ?」


「そう何回も言わなくても分かったよ」


 そんなに否定するってことはそこそこの頻度で発生してるんだな。


「それで金はどんぐらい貰えるんだ?」


「リタたちは親衛隊の騎士じゃからのう。月に30000クロムぐらいか?」


「それって多いのか?」


「一般人の平均が月に2000クロムぐらいだったかの?」


「すげ~!」


 2000クロムがどんぐらいか知らないが、20万ぐらいと考えても30000クロムは300万だ。年間に直すと3600万!くぅ~、贅沢してそうだな。


「何を羨ましそうにこっちを見ている。そんなに使う機会もなければ色々支出はあるぞ。大体、我々が貴族であることを忘れたか?」


「そういやそうか。家賃も高いだろうし、着る服だって安物はダメだよな。いや、でも羨ましい…」


「確かに一般人からすれば高額だ。お前がそう思っても仕方がないな」


「そうだろ!いや~、あんた物分かりがいいな。セドリックだっけ?よろしくな」


「ああ」


 俺はセドリックと握手を交わし、再び歩き出す。



「はぁ~。しかし、商人の一人も通らんとはな。もう少し普段は通るはずなんじゃが…」


「商人が通ると何かあるのか?」


「そうすればわしが馬車に乗れるじゃろ?まあ、乗り心地は良いものではないがのう」


「贅沢な」


「じゃから、我慢して乗るといっておるのじゃ」


「だけどさ、そんなほいほいと王族が商人の馬車に乗れんのか?それこそ商人が悪いやつならどうするんだよ?」


「ん?当然商人には歩いてもらうぞ」


「げっ、ひどいやつだな、マリナは」


「ひどくないわい!商人にもメリットがあるんじゃ。王族を助けたとなればそれなりに報奨は出る。場合によっては数度ぐらい取引もしてやるんじゃぞ?向こうからしたらも度でのいらない商売が降って湧くんじゃ」


「ふ~ん。そういうもんなのか」


「ロウは変わった知識は持っているのに金関係の事にはうといのぅ」


「いや、だって学生だしな。まだ未成年だし」


「未成年?ロウの歳でか?」


「そうだぞ?ひょっとしてこっちの成人って早いのか?」


「早いかは知らんが、大体は15歳で独り立ちじゃな。孤児院なんかで世話をしてもらえるのもその歳までじゃし」


「はぁ~、15歳なんかじゃ何もできないだろ?」


「それならロウはいくつならできるようになるんじゃ?」


「それはえっと…」


 そう言われてみれば18歳で成人って高校卒業に合わせたような感じだよな。こっちじゃ学校なんてほとんど行かないみたいだし、それならアリなのか?


「学校行かないならそれでもいいかもな。まあ、体が成長途中だから猶予は欲しいけどな」


「ロウのところは学校が一般的みたいじゃが、何年通うんじゃ?」


「ん~、人によってまちまちだが、大体12年か?長いと16年とか18年とかかな?」


「長いのう…貴族や王族でも6年なんじゃが」


「そんなもんなのか?」


「うむ。10歳から16歳の6年じゃな。まあ、家庭教師をつけたりするところは14歳からだったりするがの」


「へ~、だからマリナはこうやって色んなところに行けるんだな」


「ロウよ、お前ひょっとしてわしが10歳以下とか思っておらんか?」


「違うのか?」


「違わい!王族としての仕事が忙しいから学校は行けておらんのじゃ!!」


「そ、そうなのか。結構王族って大変なんだな。もっと、威張って適当に生きてるのかと思ってたぜ」


「ロウ!貴様失礼だぞ」


「わりぃわりぃ。だってよ、王族って国で一番偉いだろ?わざわざ面倒なことする必要ないって思わねぇか?」


「お前のところは何を学んでおるのじゃ…。王族はその地位ゆえに責任も大きいのじゃ。ちょっとしたことで大問題に発展するし、他国との関係もある。偉いのも国だけで小さい国だと他国の関係者相手には常に頭を下げねばならんのだぞ?」


「あっ、言われてみればそうか。ちなみにこの国はどうなんだ?」


「フォートバン王国は中堅国じゃな。別に大国にも媚びる必要はない位の国力はある」


「へぇ~、よかったじゃん」


「まあのぅ。小国なら近くの大国に人質とか送らねばならんし、結婚相手も相手が送り込んできた奴になることもあるからのぅ」


「げっ!それは嫌だな」


「嫌といっても、そもそも政略結婚になるんじゃがの!」


 かっかっかっと元気に笑うマリナ。そこ笑うところか?現代人の俺にはよくわからん感覚だな。


「マリナはそれでいいのか?好きなやつと結婚したいとかないのかよ?」


「好きなやつと言われてものぅ。政略結婚すると思っておるし、そうなると恋愛などする気になれんわ」


「うわ、俺王族は嫌だわ」


「はっきり言うでないわ!本当にお主は失礼なやつじゃ」


 そういうとマリナはしばらく黙り込んでしまった。割り切っているようでもやっぱり少しは思うところがあるらしい。

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