第3話

ここは四方を海に囲まれたアジュレという国で、海の外に出れば魔物が存在するという。RPGに出てくるモンスターをイメージすればいいそう。


ハルくんはアジュレの第3王子として生まれ、王位継承の争いに巻き込まれ始めた11歳の時に逃げるように言われて私達の世界へと転送された。

逃がしてくれたのは、この国史上最も偉大な魔法使いと言われる人らしくて、来たるべき日まで生き延びろと告げた。


ーー来たるべき日、それは魔物たちを統べるサタンが復活する時。

300年近く前に封印されたそうだけど、永遠に制御出来るものではないそうで、一月ほど前に復活したであろう兆候が見られ始めた。


ハルくんは運命を受け入れているのか淡々とした様子で話す。


「母は他の妃と比べて身分は低いです。でも、魔力だけは稀なほど強かったそうで、息子である俺は勇者になるために生まれてきたと言われました」


偉大な魔法使いには不思議な力があるらしく、お母さんのお腹にハルくんが宿った時から悟ったらしい。周りは信じていなかったそうだけど……。


「厄介なことに巻き込んでしまってすみません。魔王を倒す頃には元の世界に帰れると思います。異世界転移は簡単に出来るものではないのと、魔力のない燈子さんだけ帰すことは無理そうなんです」


申し訳なさそうに俯く姿に胸がぎゅっとなった。


「細かいことはまだ分からないけど……大丈夫だよ。ハルくんがいるから心細くはないし。それよりも、ハルくんのことが心配」


魔王を倒すだとか、王位継承争いだとか、見知らぬ土地に転移されて生きていたこととか、想像できないくらい大変だろう。

そんな様子は見せないで、いつも優しくしてくれたことしか知らない。


「私に出来ることってあるのかな……」


この世界ではみんな少なからず魔力があるようだけど、私にはそんなものあるはずもなく、何の知識も持っていない。一緒に戦うことも出来ず、足手まといといえる存在だ……。


「俺は」


気付いたらハルくんに抱き締められていた。


「橙子さんがいたから、あっちの世界で生きてこれました。側にいてくれる、それだけでどれだけ力を貰えるか……きっと燈子さんは分かっていない。俺の側にいてください。必ず守ります」


力強い言葉に不安は何もなかった。

なんだろう、ハルくんなら本当に守ってくれそうな安心感かな?


「うん、側にいるね」

「ありがとうございます」


ほっとしたように笑うハルくんを私も微笑む。


不安はなくても戸惑いはある。

見知らぬ世界に来たんだから当たり前のことで、私は覚えることがたくさんありそうだ。


「とりあえず、俺を助けてくれた魔法使いに会いに行きましょう。橙子さんの力になれるはずです」

「魔法使い……」


どんな人だろう。魔法と言われるとちょっとわくわくしちゃうな……。

遊びじゃないんだけど、興味を惹かれてしまう。


「このまま捕まっていてください。魔法で移動するので」

「へ?」


心の準備も出来ないまま、ハルくんが何か小さく唱えるとパッと光に包まれた。


「えええええ!?」


私は叫びながらハルくんに捕まることしか出来なかった。

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