レディオノイズ
鈴木怜
レディオノイズ
自室に一人でいる寂しさを紛らわすため、気の迷いでつけていたラジオから、学生時代、同じバンドにいた友人の声が流れてきた。
『――ええ。そんなこんなでなんとかやれているんですけれども』
間違いない。この飄々とした語り口。軽い声。つかみどころのない印象。
あいつだ。どうやら元気にやっていけているらしい。そのことに頬がゆるむ。しばらく連絡を取っていなかったが、いつの間にか相当遠いところまで行ったらしい。
ラジオはどうやらお悩み相談のようなことをするコーナーらしかった。
『「……ここからが本題なのですが、何かをやってみてはすぐやめてしまう。そんな諦め癖がついてしまった僕に喝を入れていただくことはできませんでしょうか。最後になりましたが、いつも応援しております」だそうです』
はなさないでいてほしいお悩みだった。
その喝は、そのまま今の自分に突き刺さってしまうから。
『私だってね、音楽はじめてね、すぐに目が出たわけじゃないんですよと、声を大にして言いたい。鳴かず飛ばずだった時間の方が、飯食えるようになってからよりもながいですからねえ。……結局ね、握り締めたその手綱をはなさないでいられるかどうかなんですよ。夢っていう手綱をね』
なんとも耳が痛い話だった。
その手綱を放した人を友は知っている。知らないはずがない。
そいつは、今、部屋の片隅で震えている。
情けない話だ。あまりにも、あまりにも。
きっと友人はこれからももっと羽ばたいていくのだろう。想像もつかないような世界で、場所で
対する自分は惨めに震えている。
これ以上、友の声を聞く元気はなかった。
ラジオのボリュームを落とす。
「これ以上はなさないでくれ」
置いてかれるのが怖い。輝かれるのが辛い。
とっくにそうなっていたことも、己が無力だと知らされるようで心が痛んだ。
でも、どうにかできたのもまた事実だ。
これは全部自分のせいだ。友の言うところの手綱を離した者の末路だ。
それを一番理解している人間が誰なのかは、言うまでもないだろう。
ラジオから漏れ出る、ノイズと区別のつかないような音が、そのまま自分と友の距離を表しているような気がした。
レディオノイズ 鈴木怜 @Day_of_Pleasure
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