第20話 彼女の笑顔はショックなんだ

あの時綾子さんは意識してくれていたんだろうか、僕はそろそろ迎えの時間なので三階に上がっていった。今日は誰が一緒に行くんだろうと思って僕が上がっていくと同時に迎えのリストを忘れたと言って綾子さんがらしい人がリストを取りに戻ったような気配がした。あれもしかして今日は綾子さんなのかなと僕は急に嬉しくなった。

綾子さんはしきりに髪の毛を気にしていた。本当にすごく気にしていた。今まで2~3回一緒に迎えに来ているけど、あんなに髪の毛を気にしている綾子さんは初めて見た。その日はすごく湿気が多くてそれで髪の毛を気にしていたのかなぁ、あの日は綾子さんと一緒に迎えに行って3回目だったけれどそれまでの2回とは全く何もかも違っていた。親御さんは綾子さんたち子供たちにけっこう厳しく物を言うんだそうだ。決してやさしい言い方ではないらしい。先生いわば指導者としてはそうした態度が正しいのかもしれないが、現場を知らない僕にはよくわからなかった。厳しくって何をそんなに厳しく言われたんだろう。髪の毛をかなり薄い茶色に染めたことだろうかそれとも爪のマニキュアのことだろうか。それとも爪を飾りすぎたことなんだろう、それとも皺が入ったままの服のことだろうか。そうでなければこの先の進路のことか、それにしてもあのお父さんが厳しく物を言うとは考えにくい。だとしたらお母さんの方なんだろうか。お母さんに出かけに注意でもされてご機嫌ななめなのかもしれない。中学校の校長先生までされていたとは言えお父さんはきっと娘には甘々だろうし綾子さんに厳しく言えるとは考えにくい。時々厳しいことを言ってくるのはまずお母さんだろう。綾子さんはお母さんに出かけに色々厳しいことを言われて仕事に来る前からイラついていたんだろう。とにかくどうしてこうまで違うんだろうと思うぐらい3回目のお迎えは違っていた。運転の仕方も爪のマニキュアもやたらに髪をいじるのも今までにはなかったことだ。これは明らかに湿気のせいだけではない。機嫌が悪かったのかそれとも他に何か原因があるのかいずれにしても2回目と違って2回目の時みたいに楽しく話せなかった。最後の方になって少し2回目のような調子がでてきた。あとはみんな2回目と違う感じばかりだった。綾子さんの名前がテレビで婚約を発表した姫様と同じだねということを話した時「やんごとなき名前だねきっとお父さんが大事につけられたんだろうね。」と言ったらお父さんがつけたのかなぁと綾子さんはうれしそうに話していた。

いつも会うたびショックを受けている。彼女はいつもどおり笑っているだけなんだろうけどいつもショックを受けている。なぜ笑ったのかどうしてあんなに笑うのか、いつもいつも僕に取っちゃ彼女の笑いは、彼女の笑顔はショックなんだ。

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