第12話 美しい顔立ち

何も考えていない時、綾子さんは無表情になって美しい顔立ちがそのまま出ているので車の中で見ていた僕にはとてもきれいな人に見えた。だが僕が車の中にいるのを見て綾子さんは驚いたような嬉しそうな顔になった。驚いたというよりやはり嬉しそうな表情だったと思う。美しい顔はかすかに笑っていた。だからこの間の表情の変化はどういうことだろう。

散髪に行ってきた僕を見た綾子さんは教室のドアの向こうですごく嬉しそうに笑っていた。僕はまた綺麗だなと思ってしまった。さとこちゃんにねだられて教室の中を散歩させられていたときも「一年生の綾子です。」とか言って笑っていった。そのあたりの冗談が好きなのはお父さんの血だなあと思った。その時の綾子さんはまっすぐ僕の方は見なかったけれど横目で見ているなというのはわかった。あの時の表情も嬉しそうな感じだった。だから今まで綾子さんの表情を見てきて結論づけるとするならば綾子さんも僕のことを気に入っていてくれるんじゃないかと思っていいんじゃないだろうか。

綾子さんの表情はコロコロ変わる。この間は花粉症で体調が悪かったからかしょうがないけど酷かったなあ。酷く不細工だった。その前は何かおーきなメガネをはめていたけれども花粉症のせいでコンタクトレンズを付けられなかったんだろうなぁ。それはそれで可愛かったなぁ。面白かった、まるでアラレちゃんみたいで。完全に無防備な笑顔だった。僕が車に乗っていることに気がつかずに向こうに向かって歩いていく綾子さんはちょっとすましたつんとしたような横顔だった。とっつきにくいような、綺麗なだけに近寄りがたいような横顔をしていた。

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