第7話 笑顔のちから

綾子さんは綺麗に笑うなと思った。実に柔らかな笑顔だ。見ているこちらまで暖かくなるようないい笑顔だなと思った。ほんのちょっと顔の筋肉に力が入るだけで、ほんの1~2cm頬の筋肉が動くだけで、人間の顔は劇的に変化して笑顔と言う驚くほどの力を持つ。基本的な顔の形はさして変わっていないのにどうしてだろう。唇がほんの少し薄まって左右に引き上げられただけで唇あれほどまでに輝いて眩しく光るのはどうしたことだろう。笑顔は人類が長い歴史の中で手に入れた最後の謎なのかもしれない。そして笑顔の力は僕をどこに導くのだろう僕はどこへ向かって歩いていけばいいんだろう。

綾子さんは藤色のトレーナーを着ていた。綾子さんが挨拶をして僕に微笑むとパッと藤色の花が咲いたようだった。紫というよりピンクに近く、明るく透き通った色だった。

「暑いですね今日は。」

「このまま夏になっちゃうのかな。」僕がそういうと綾子さんは

「まだ梅雨も来てないのにね。」と笑って答えた。

「あーそうかまだ梅雨も来てなかったんだ。」

「そうなんですよ。」

「これから梅雨が来るのかぁ。嫌だな。」僕はあまりにも嫌そうに言ったので綾子さんは笑っていた。疲れが吹き飛んだ。

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