第2話 ゲーム開始
―――翌朝。
髪をとかし、真新しい制服に着替えて、朝ごはんを食べて家を出る。
とうとうゲームが始まる日がやってきた。うわぁ、すごく緊張してきた……これからあのイケメンたちに出会うんでしょ? 心臓持つかな……そんな不安を抱えながら学園まで歩く。
初めて通る場所なのにまるで知っているかのように足が動く。不思議な感覚だ。
チュンチュンという雀の囀りを聴きながら平和だなぁと呟く。まぁ、これから平和とはかけ離れた世界に足を踏み入れるんですけども。
しばらくして学園が見えてきた。
実物はめちゃくちゃデカいんだなぁ……そんなことを考えながら学園へ足を踏み入れた。靴棚で上履きに履き替えて職員室へと行こうと思ったのだがそもそも職員室の場所なんて知らない。
うーん、どうしたものか……
うろちょろしていると、誰かに声をかけられた。振り返るとそこには金色の髪に優しげな紫色の瞳をした男子生徒が立っていた。
……あれ、この人って確か―――
「見ない顔だけど……転校生かな?」
アルヴァン・ルーセルだ……ッ!!
自分の推しであるヴィクトルさんの双子の弟で生徒会長のアルヴァン・ルーセルだ!! まさかこんな早くにエンカウントするなんて思わなかった。というかこんなに爽やかなThe王子様みたいなキャラがヤンデレに変貌するの? え、想像つかない。
まぁでもヤンデレに変貌した時の姿はゲームをプレイしている時に何度も見てるんだけども。
それより質問に答えなきゃ……下手したら変な子だと思われる。
「あ、はい。その……職員室の場所が分からなくて……」
「ふふ、そうだったんだね。それじゃあ着いてきて。案内するよ」
そう言ってアルヴァンさんは歩き出す。
段差があると『足元気をつけてね』と言って手を差し伸べてきた。うーん、この紳士……ヴィクトルさんが推しなのに少し揺らいでしまいそうになっている自分がいる。チョロすぎか?
でもまだ落ちてはいない。自分の推しはヴィクトルさんだ。でもBAD ENDは全キャラ回収したいから頑張らねば……
少しして職員室というプレートが掛かった扉の前に辿り着いた。
「ここが職員室だよ」
「ありがとうございました……!」
「ふふ、いいんだよ。困った時はいつでも言ってね」
「はい」
アルヴァンさんは頬笑みを浮かべた後踵を返してどこかへ行ってしまった。
さて、職員室まで案内してもらったし、職員室に入ろう。
「失礼します。転入してきたコトミ・サクラと言います」
自己紹介をしてペコッと頭を下げると、自分の担任になるであろう優しそうな女性教師が近づいてきた。
「初めましてサクラさん。教室まで案内するから着いてきてね」
「はい、分かりました」
先生のあとをついて廊下を歩く。
それにしても高校生活なんて何年ぶりだろう。というか通信制に通っていたからまともな学校生活は送れてないんだけど。
ま、前世は色々あったのさ。
そんなくだらないことを考えていると、1年A組と書かれたプレートの下がった扉の前に立たされる。合図したら入ってきてねと言われた。
うん、普通に緊張する。
ホームルームが始まり、点呼が終わってそろそろ呼ばれる時間がやってきた。上手く自己紹介できるだろうか……まぁ、何とかなるだろう。多分。
「入ってきてくださーい」
合図が来た。
教室の扉を開けて黒板の前に立つ。クラス全員の視線が突き刺さってとても痛い。意味は無いが心の中で深呼吸をしてゆっくりと口を開く。
「コトミ・サクラといいます。良ければその……仲良くしてくれると、嬉しいです。よろしくお願いします」
そう言って一礼する。
とりあえず空いている席に座り、ちょうど窓側の席だったため、ぼーっと外を眺める。これからこの学園で魔法について習ったりするんだよね。そしてヤンデレ達の攻略もしていくことになる。
目指しているのは何度でも言うがBAD ENDなんだけども。
授業は隣の席の子に教えて貰いながら何とかやっていけた。実技はと言うと、珍しい光魔法と闇魔法だから注目の的になってしまった。因みに闇魔法は使っていない。闇魔法は攻撃特化過ぎて危険なのでね。
そして昼休み。クラスのみんながグループを作ってご飯を食べている中、自分はひとりで屋上へと向かった。この学園は屋上が閉鎖されていないらしいので天気もいいし屋上で食べさせてもらおう。
それに、屋上でご飯なんて小説とか漫画とかゲームの中でしか見たことがなかったから憧れてたんだよねぇ。
屋上の扉を開けると気持ちのいい風が頬を撫でる。
今日は本当に天気がいい。適当な場所に座り、お弁当箱を広げて手を合わせる。
「んー、相変わらず美味しい」
彩りも綺麗だしバランスも考えられていて100点満点のお弁当。流石はクロードさんだ。
もぐもぐと夢中で食べていると、屋上の扉が開いた。
「げ、女かよ」
あからさまに嫌そうな声。
扉の方を見ると黒髪に金色の目をしたイケメンが立っていた。自分を見てすっっっっごい嫌そうな顔をしている。
女嫌いの先輩、ルーカス・リーヴェルトさんだ。
「すみません、視界に入らないところに行きますね」
そう言っていそいそとお弁当箱を持ってルーカスさんの視界に入らないところに移動する。
いやぁ、まさかこんなにも早く攻略対象2人と出会えるなんて思わなかったな。というか誰から攻略するか考えてなかったや。
さてどうしようか……
もぐもぐとお弁当を食べながら誰から攻略しようか考える。
面白そうだしルーカスさんから攻略してみようかな。あの女嫌いがどんな感じで病んでいくのか間近で見てみたくなってきた。
確か距離を詰めるには……最初は避けるようにして、少しずつ少しずつ歩み寄っていけば自然と心を開いてくれるようになったはず。だから今は避けることを重視しよう。しばらく避けたあと、きっかけができるはずだからそのきっかけを逃さないようにしなければ。
上手くできるかなぁ……いや、やるんだ。やるんだよ。
頑張れば行ける! よし、頑張ろう。
最後の卵焼きを口に放り込み、ご馳走様でしたと両手を合わせる。チラリとルーカスさんの方を見ると購買で買ったであろうパンを食べていた。
出来るだけルーカスさんの視界に入らないように、目を合わせないように屋上を後にした。
いやぁ、にしても顔がいい。
女嫌いってとこがちょいと残念だけど、根気よく関わっていけばヤンデレ属性に変わるからそれまでの辛抱だね。
普通はヤンデレ回避するものだと思うけれど、自分はヤンデレフラグを折らずにヤンデレフラグは回収していくスタイルで行こうと思ってる。じゃないとヤンデレBAD ENDは迎えられない。
「フラグは回収するものっと」
そんなことを呟きながらトントンと階段を降りて教室に戻る。
暇になったなぁ……絵でも描こうかなぁ。
適当なノートを広げ、カチカチとシャーペンの芯を出し、即興で考えたオリジナルキャラクターを描いていると、一人の女子生徒が覗き込んできた。
「わ、上手……! ねね、何描いてるの?」
「んー、即興で考えたオリジナルキャラ、です」
「へー、凄いなぁ……あ、私リース・シーライト。よろしくねコトミちゃん!」
リースさん、か。聞いたことない名前……ゲーム内で言うモブ的立ち位置か。でも、あれだね、ゲームのキャラだけあってリースさんめちゃくちゃ可愛い。
「コトミちゃんさえよければ友達にならない?」
「ん? ……ん??? え、良いんです?」
「勿論! 友達になったからには敬語はなし! ね!」
「う、うん、分かった」
そう言うとリースちゃんは嬉しそうに笑う。
この子に裏がないことを願うばかりだよ……女の子って裏表激しいからね。とか言ってる自分も女なんだけどさ。
でも、純粋に友達ができたことは嬉しいな。
しかもリースちゃん自分の前の席だし。話したい時に話せる。やったね。
ヤンデレ乙女ゲームの世界に転生したので全キャラのBAD ENDを回収します 雪兎(ゆきうさぎ) @Snow_0913
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