ヤンデレ乙女ゲームの世界に転生したので全キャラのBAD ENDを回収します
雪兎(ゆきうさぎ)
第1話 ヤンデレ乙女ゲーム
この世界が自分がやりこんでいた乙女ゲームの世界だってことに気付いたのは昨日のことだった。
異世界からこの世界に迷い込んできた主人公が魔法学園に転入してくる所からゲームは始まる。そして明日がその日であり、ゲームの開始日だ。
主人公は光と闇の魔法を扱う、とても珍しい生徒になる。光魔法は穢れの浄化や傷の回復が出来る。闇魔法は攻撃特化。本編では一度だけ闇魔法が暴走しかけるのだが、それは攻略対象の中のとある人物が仕組んだ、主人公を孤立させるための罠。
プレイしている時、『あ、こいつが暴走させたな』って一発で分かってしまってちょっと笑ってしまったっけ。
まぁそんなことよりも。
問題は自分の転生先である"この子"だ。この子はモブでも悪役令嬢でもなんでもない。
ふわりとした焦げ茶色の髪に、丁寧に磨きあげられた硝子玉のように美しい大きな茶色の瞳。スラリとした鼻筋に小さな唇。白い肌に映える薄桃色の頬。
この容姿は乙女ゲームの主人公―――
学生証を見て確認してみたら"Kotomi Sakura"と書かれていたから間違いないと思う。
そう、自分は乙女ゲームの主人公に転生してしまったらしい。
普通の乙女ゲームだったら主人公じゃなくてモブに転生したかったけれど、この世界なら話は別。何故ならこの世界は愛と狂気が入り交じる乙女ゲーム、要するに攻略対象全員がヤンデレに変貌するヤンデレ乙女ゲーム『狂恋ノ箱庭』の世界だからだ。
実は自分、ヤンデレ物が大好物なんだよね。
ヤンデレって究極の愛の形だと思ってるからさ、一度はそんな人に愛されたいと思ったりもしたよ。でもそんな人が三次元にいたら面倒だなとも思ったりしていたし、恋愛に興味がなかったから恋も何もしてこなかったんだけどまさかこんな形で夢が叶うなんて思わなかった。
で、この世界には8人の攻略対象がいる。
1人目は甘い声とルックスで女子生徒を釘付けにする生徒会長、アルヴァン・ルーセル。
2人目は無表情で無口な副生徒会長、シェルク・アングラード。
3人目は生徒会長の双子の兄であるヴィクトル・ルーセル。
4人目は女誑しの先輩、リヒト・セリュリエ。
5人目は絵を描くのが好きな大人しい先輩、ジェルヴェ・スーレイロル。
6人目は女嫌いな先輩、ルーカス・リーヴェルト。
7人目は植物をこよなく愛する先輩、カルミネ・トゥリーナ。
8人目は主人公を妹のように可愛がっている先輩、ルイス・ハーグライト。
個人的にはヴィクトルさんが最推しなんだよねぇ。長い銀髪に優しげな紫の瞳、そして敬語キャラで表向き紳士的に振る舞うけど主人公を手に入れるためなら手段を問わないタイプの男の人。
こういう男の人に弱いんだよねぇ。
でも、女誑しのリヒトさんが主人公に惹かれ始めてどんどん歪んで狂っていく様を見ていくのも好きだし、女嫌いのルーカスさんが主人公に心を開いた後、徐々に嫉妬と独占欲で狂っていく様を見るのも好き。
要するにヤンデレとは如何にも無縁そうなキャラが狂っていく様を見るのが好きなのだ。
折角ヤンデレ乙女ゲームの主人公に転生したわけだから存分に楽しみたいし、ちょっと危うい橋を渡ってみたい。
選択肢によってはちょっとどころかかなり危うい橋になるんだけど。でもそれも醍醐味だよね。
ヤンデレと言えば束縛や監禁だけど、それじゃあなんだか生温い。
いや、イケメンに束縛されたり監禁されたりするのは寧ろご褒美なんだけどね。自分はそれじゃあ物足りないんだよね。
もっと刺激が欲しい。
ヤンデレの恐怖を間近で存分に味わってみたい。
そう思うのは変な事だろうか。
「んー……あっ」
……そうだ、あのENDがあるじゃないか。
あまりにも優し過ぎて普通にプレイしてたらまず辿り着かないEND。
自分も辿り着けずに終わってしまったんだよね。だから存在は知ってるけど実際には見ていないから詳しくは分からない。
それがこの世界のBAD ENDだ。
どの攻略サイトを見てもBAD ENDへの行き方だけは載っていなかったっけ。自分でもどうにかしてBAD END回収しようとしたけれどどうやっても行けて監禁ENDだった。
だからこの目でBAD ENDを見てみたい。
なんなら体験してみたい。
あれだけ辿り着きにくくしているんだから相当のものが待っているはず。
「ふふ、楽しみだなぁ」
ベッドに横になり、ニヤける顔を両手で隠す。
明日からの学園生活が更に楽しみになってきた。
ベッドの上でゴロゴロしていると、コンコンと扉がノックされる。
「コトミさん、夕飯の時間ですよ」
「あっ、はーい!」
そうこうしている内に夕飯が出来たらしい。
階段を降りてリビングに入ると美味しそうな匂いがしていた。テーブルの上にはとても美味しそうなオムライスとスープが置かれていた。
異世界から迷い込んできた設定の自分を拾ってくれたクロードさん。彼はとても優しくて料理も上手で何より顔がいい。これで攻略対象じゃないただのモブだなんて信じられない。
「明日から学園生活が始まりますね。どうです?」
「うん、凄く楽しみだよ」
ヤンデレに会えるからね、なんて口が裂けても言えない。
けど純粋に魔法学園に通えるのが楽しみだったりもする。前世は当然魔法なんて使えなかったからね。
「何かあったらすぐ連絡してくださいね」
「あはは、心配性だねぇ」
「心配もするでしょう。コトミさんは大切な家族なのですから」
そう言って微笑んでみせるクロードさん。
貴方が攻略対象なら真っ先に攻略していたよ……なんて呑気なことを考えながらオムライスを一口頬張る。
「んーーー、美味しい」
「ふふ、それは良かったです」
本当にクロードさんの料理は美味しい。
クロードさんのスペックなら恋人の1人や2人作れそうなものだが、なかなか作ろうとしないんだよね。自分としては恋人作って幸せになって欲しさあるんだけど。
「クロードさんって恋人作らないの?」
「えっ、これはまた急ですね。作りませんよ?」
「それまたなんで?」
「なんでと言われましても……」
そう言って苦笑いをうかべるクロードさん。
これは教えてはくれなさそうだなぁ……そんなことを考えながらスープを飲む。ちらりとクロードさんの方を見やるとこちらを見つめて微笑んでいた。
うーん、食べづらい。
「く、クロードさん……そんなに見つめられてると食べづらいかな……」
「おや、あぁ……すみません。美味しそうに食べてくれる貴女を見ていると嬉しくなってきてしまって、つい」
そういうものなのだろうか。
よく分からないけれど、あまり見られていると食べづらいんだよねぇ……おまけにクロードさんイケメンなんだから。イケメンに見つめられ続けたら死ぬ。
「ご馳走様でした」
そう言って食器をシンクへ運び、洗い物を始める。これくらいはやらないとねぇ。
「おや、コトミさんはゆっくり休んでくださって良いのですよ?」
「んー? これくらいやらせて? いつも色々やって貰ってるから」
「そうですか……? では、お言葉に甘えて」
クロードさんは微笑む。
はー、本当にクロードさんの笑顔は女性キラーだと思う。あの笑顔を見て落ちない女性はいないだろう。
自分は何とか持ちこたえてるけど。
さて、明日に備えてお風呂入って寝よう。
明日からゲームが始まる。
頑張ってBAD END回収しよう……!
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