031 バレた!?(2)
「……確かに、レインがあれほどの力を使えるとは考えづらい。精霊の介入があったとすれば、不自然ではない」
「そ、そうです! 僕は何もしていません!」
話の流れがいい方向に向かいつつある。若干声が裏返りながらも、レネットは身の潔白を訴え続けた。
そもそも聖女とは、女性がなるものだ。それは性別によって精霊との親和性が大きく異なるから――という理由のためだ。
その点、レネットは今まさに男の子だと思われている。まさに好都合。本当は精霊と仲がいいなんて、きっと誰にもバレることはないだろう。
「だが何故こいつなんだ? もっと他にも居ただろう、戦える奴が」
「アルトゥール教官!? 僕だって戦えますよ!」
「……お前、模擬戦の戦績は?」
「………………7戦0勝です」
自身の戦績を蚊が鳴くような声で言うレネットに、アシェラはぶふっと吹き出した。それに対してレネットは、ぷっくりと頬を膨らませて不貞腐れていた。
最近始まった模擬戦において、レネットはゼロ勝の記録を積み重ねていた。体格差、パワー差、スタミナ差、すべてにおいて格下のレネットは、同年代の男の子にボッコボコにされていたのだ。
そんなレネットに、なぜ精霊は身体強化魔法をかけたのか。アルトゥールのギモンは至極当然なものだった。
「教官、あの時逃げなかったのはレイン君だけよ?
臆することなく魔物に立ち向かったからこそ、精霊様も力を貸してくれたに違いないわ」
「……ああ、そうだな。確かにそうだ。レインは……お前はそういう人間だったな」
「もしかして僕、褒められてますか?」
急転直下、アシェラのフォローによって、アルトゥールはしなしなとした口調になった。
実際、誰よりも冷静に状況を見据え、その場から逃げ出すことなく魔物に立ち向かったのは、彼一人だけだった。どの見習い騎士たちよりも度胸だけはあるというのは、紛れもない事実だろう。
そういう意味では、レインを選んだ精霊の判断にも筋が通っている――ように見える。
「ああ、まあ、そうだな。俺の目は間違ってなかった」
「それは……ありがとうございます?」
「急に呼び出してすまない。昨日のことでまだ疲れているだろう。今日はゆっくりと休んでくれ」
「は、はいっ!!」
アルトゥールは未だ微妙な表情のままであったが、ひとまずは納得していたようで、レネットにそれだけを言うと部屋から足早に立ち去った。無事に難を逃れたようで、レネットはほっとため息をついた。
ぱたりと閉まるドア、彼女もその後に続こうとしたが――今度はアシェラに呼び止められることとなった。
「ねえ、レイン君」
ピクリと体を震わせてその場で立ち止まるレネット。ぎこちない動きのままに振り返ると、そこには笑顔を浮かべるアシェラの姿があった。
(目の奥が笑ってない……!?)
レネットはその笑顔に危機感を覚えた。そもそもアシェラ聖女はこんなふうに笑顔を見せたりしない。
この表情の意味を表すなら……そう、怒り。
「は、はい、どうしましたか!」
「聞かせてくれるかしら、――本当のことを」
鋭く切り込むような言葉は、レネットの体を再びぴくりと震わせた。
「なっ、なんのことだか私はさっぱり――あっ」
そう言い訳をしたレネットだったが、途中まで言ったところで自身の失態に気付く。一人称――普段は「僕」で統一しているのにも関わらず、「私」と言ってしまったのである。
いつもはきちんと意識して、癖づけているから間違えることはない。しかし今回に限っては、緊張から解き放たれた直後であったため、完全に油断していた。
「へぇ……そう」
「アシェラ聖女、
アシェラは今度、意味深な笑みを浮かべながらレネットの顔をじっと見つめた。
今更になってレネットは一人称の訂正を試みるが、残念ながらもう遅い。いやむしろ、訂正することによって却って間違いが強調されて逆効果になっている。
「なるほど……大体は分かったわ。そこに座りなさい、
「はい……分かりました」
抵抗むなしく、アシェラはレネットをベッドの上に腰掛けるように指示した。
すっかりしおらしくなったレネットは、その言葉にただ従うことしかできなかった。
(バレた……絶対バレた……!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます