030 バレた!?(1)
訓練所に無事帰還し、一夜が明けた朝。
前日のこともあって、今日はすべての訓練が中止となった。突然の休日に暇を持て余していたレネットだったが、今は朝食を食べに食堂の方へとロミルと共に歩いているところだった。
だがその時、突然部屋から出てきたアルトゥールにばったりと出くわした。
「レイン、ちょっと来い」
アルトゥールはレネットの姿を見るやいなや、手招きしてその部屋へと誘おうとしていた。
その部屋というのは、医務室だった。レネットがたまにお世話になるところだ。
「あー……俺は先に行ってるから」
そのただならない雰囲気に、ロミルは足早に立ち去ることを選んだ。アルトゥールのことが好きで尊敬しているとはいえ、彼は教官だ。巻き添えで怒られるのは勘弁願いたい。
なんて薄情なんだ、とレネットは心の中で思った。
そんな彼からの指示を拒否するわけにも行かず。
レネットはその呼びかけに応じて、医務室の中へと立ち入った。
「し、失礼します」
部屋に入ると、そこにはアルトゥール以外にアシェラの姿もあった。
なぜだか二人はレネットのことを凝視していて、あまりにも重たい空気であることは直感的に分かった。
とりあえず冷静を装ってはみたものの、そのぴりりとした雰囲気に気圧され、今すぐにでも逃げ出したい気分だった。
「あの、アルトゥール教官……ど、どうしましたか?」
アルトゥールは、その問いかけにしばらく答えなかった。
レネットは居ても立っても居られなくなって、アルトゥールの顔をじっと見つめた。
「えっと、あの、教官?」
「昨日は良くやった、レイン。おかげで死傷者はゼロだ」
「それは……良かったです?」
なんだか褒められたようでレネットは安心していたが、直後、
――バンッッ!!!!!
アルトゥールが突然机を激しく叩いた。
思わず「ひぃっ!」と声を上げるレネット。言葉とは裏腹に、アルトゥールが激昂しているのは明らかだった。とんだ
「訓練中に現れた魔物は、サーペンティアと呼ばれている」
「……………………」
「サーペンティアは、魔物の中でも上位の強さを誇る。通常ならば、最低でも十人くらいは居ないと討伐はできない。毒も厄介だから、それに加えて聖女も必要だな。
まあこの程度、お前には説明するようなことではないだろうが」
「……………………」
「なあレイン、昨日俺達は何人でサーペンティアを倒した?」
アルトゥールは、レネットのことをぎろりと睨んだ。
「ふ、たり……」
「もっとハッキリと言え」
「二人、ですっ!!」
やけくそ気味に答える姿は、まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。
「これがどれほど異常なことか分かるか?」
「えっと、あの、それはアルトゥール教官がとても強かったからで」
「そうかもな。だが俺一人では、討伐なんぞ不可能だっただろう。なぁレイン?」
レネットは思わず後ずさりをした。
当然だ。”レイン”が見せた戦いは、身体強化魔法をふんだんに使った、言わば人間離れした動きだ。到底、見習い騎士ができるような動きではない。
また毒という厄介な性質もあったが、いつのまにかそれは無効化されていた。なぜかレインはそのことをあらかじめ知っていたし、実際アルトゥールは毒液を浴びたが、なんら問題はなかった。
見習い騎士として、あまりにも不相応すぎる戦い。
普段の基礎訓練程度でヘタっているのが、まるで嘘のような活躍っぷりだ。
「それに、何故か怪我人はゼロだ。あの時、聖女はアシェラ聖女しかおらず、その上彼女も負傷していたというのに」
「それは……アシェラ聖女が咄嗟に治療を……」
レネットがそう弁明したところで、アルトゥールはそれを遮るかのように問いかける。
「レイン、お前は何者だ?」
「そ、それは、あの…………」
しどろもどろになるレネット。
自分が聖女であることなんて言えるはずもなく、なにか良い言い訳がないか、ひたすら頭をぐるぐると回転させて考えていた。
でも浮かんでくるのは食べ損ねた朝食のことばかりで、なんの役にも立たない。ああ、呼び止められたのが食事前だったらな、と謎の後悔が溢れ出す。
うんうんと唸るレネットの姿を見かねたのだろうか。
今度は、アシェラが口を開いた。
「教官。尋問中悪いんだけど、恐らくレイン君は何もしていないと思うわ」
「……ほう? 詳しく頼もうか」
アシェラは、レネットのことを擁護した。
「私は精霊を見たの。あれは……とても力の強い精霊ね。大精霊、と呼ばれても不思議じゃないわ」
「精霊か……それで?」
「あの時は必死だったからハッキリとは覚えていないんだけど、私を治療してくれたのはあの精霊だと思うの」
アシェラは顎に手を当て、なにかを思い返すような仕草をしていた。
その一挙手一投足を、アルトゥールは興味深そうに眺めている。
「それに、精霊の使う魔法には肉体を強化するものもある。レイン君が魔物を倒すことが出来たのは、もしかするとそのお陰ではないかしら。ねえ、レイン君?」
「あー、多分そんな感じだったと思います!」
アシェラの推理はとても良い線を行っていた。だがその主体はあくまで精霊であって、レネットはただその場にいただけの存在である、というのが重要なポイントであった。
丁度いい助け舟だ。レネットはそれに丸々乗っかり、うんうんと深く頷きながら工程した。
「レイン、それは本当なのか?」
「はい! あ、いや、分からないですけど、アシェラ聖女の言う通りだと思います!」
すべてを肯定すると逆に怪しいような気もしたので、レネットはところどころ「分からない」とぼかしながらも、基本的にはアシェラの推測に乗っかり続けた。
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