「変」と「違い」と「普通」

@tatasa

「変」と「違い」と「普通」

「あの人、変じゃない?」

たまたま入った喫茶店で久しぶりに会い、何故か相席してきた君が僕に言う。

「何が?」

「歩き方。」

「それがどうしたの?」

「いや、変だなって。変じゃない?」

君は「みんな」と「違う」人やものに敏感だ。

小学校の頃もそうだった。一人で本を読むクラスメイトから本を取り上げて窓から投げた。

「こんなん読んでんじゃねーよバーカ。」

そして、君と同じような奴らがその子を指差して笑う。そんな奴だが、何故か僕には優しい。

「僕だって病気で顔の左側が腫れてるよ。それは変じゃないの?」

僕は木村氏病、主に耳の周辺が拳大ぐらいまで膨れ上がる無痛性のリンパ節症という病気だ。

現代医学ではまだ完治が難しい原因不明の病気だと医者から聞いた。つまり、今回の人生では多分、死ぬまで付き合うことになる。だいぶマシにはなったけれど。

「お前は病気だろ?あいつは違うのに変だから変なの。」

あの人が病気じゃないなんて君は決めつけるけど、

もしも、

僕のこれが病気じゃなかったら、君は僕のことも「変」にカテゴライズするのだろうか。

「普通」に執着し、いつまでも夢を見る人間を見下し、人と少しでも違う人を見つけては白い目を向ける。

その「普通」が欲しくてたまらない僕の気持ちは一つも考えず、当たり前が当たり前に明日も続くと思い込んでいる君。

君に分かってもらえるだろうか?朝、鏡を見て左右非対称の顔を見る気持ちが。

君に知ってもらえるだろうか?「腫れてるだけだから。」という僕の心にへばりついた嫉妬を。

分かってはいるんだ。そんなことでは何も変わらないことも。受け入れるしかないんだってことも。

だけど、だけど怖いんだ。こんな顔で幸せになれるのかなって。こんな顔の僕を大切に思ってくれる人が現れるのかって。

君に分かるか?「普通」のカップルを羨ましく思ってもなれない「変な人」の気持ちが。


歯噛みし、言葉にならない思いが頭の中に流れる。

「トイレに行ってくるよ。」

君にそう伝え、トイレには行かず、二人分の会計を済ませ店を出た。

君の分も払った訳は、嘘をついて帰るからだ。


「普通」が「変」を傷つけるのは大勢が許すのに、「変」が「普通」を傷つけるのを大勢は許さない。

「自分は大丈夫、ならないから。」って気持ちが見え見えで反吐がでる。

「君」みたいなのが溢れる世界に、「違い」に興味がない「あなた」が羨ましくなる。

結局僕は、「普通」の人を嫌悪してるだけなんだ。

あの人やクラスメイトを笑った「君」と同じってこと。

人との「違い」を言い訳に、心に帷の詩を降ろす。

歩くこの人混みのほとんどが「あなた」と同じなのに。

勝手に蔑まされてると決めつけてるだけなのに。

理解をしているはずなのに。


人混みを抜け出して見つけた小さな公園。

その公園に一つだけのベンチに腰を下ろす。

見上げた空は青く光っている。

いつか、この気持ちに折り合いがついた時、

朝、鏡で見るこの顔を受け入れられた時、

「君」や「あなた」を妬まなくなった時、

僕は僕を許せるだろうか。


公園の砂場に男の子と母親が入ってきた。

男の子が僕の顔に指を刺す。

「悪いことをしたらあんたもああなるよ。」

母親が冗談っぽく男の子に呟く。聞こえてるよ、バカ。

「あなた」の中から見事に「君」を引き当てた運を蹴り飛ばしたくなる。


そんな事も笑って返せる僕になれるかな。

なりたいな。

今は当然むかついているけれど。

それでも、僕は僕を好きになりたい。

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