CHAPTER 14

「ほんまに…一人で大丈夫でっかあ?」


車を降りたアモウは、夕闇の降り掛かるビルを見上げたままツジムラへ答えた。


「大丈夫です。僕一人で行きますよ」


「何かあればすぐに連絡をください。ツジムラさんも、オオムラもここに待機しております。それに、今本部へ機動隊の応援も要請しています。もしものことを考えれば…」


「…逆に危険かもしれません。それは」


アタッシュケースを開き、アモウが諸々の装備を着込みながらナエクサへ向き直った。


「ゴンダとしても、ここを最後の舞台と考えているでしょう。なら、どんな隠し玉を持っているかもわからない。最悪、ビルごと爆破されたら、それこそ終わりです」


「しかし、後ろ盾もなしにあなた一人で行かせるわけには…気が引けますよ」


にこやかな顔のまま、ナエクサは制止するように身振り手振りする。


だが、仮面を被ったアモウは、至極穏やかな声で返答した。


「お気持ちだけで僕は嬉しいのですよ。それに、もう随分と巻き込んでしまった。迷惑を掛け続けるわけにはいかないのです」


「そうですか…」


「心配しないでください。死ぬつもりはありませんよ。家族に会いたいのは、僕も同じですから」


仮面を、今度はオオムラの方へ向ける。


CELLスーツ・エンプーサ。


無機質な表情だが、言葉の真意を理解したオオムラには、それが優しくも悲しい笑顔のように見えた。


仮面の下で、アモウが息を整える。


「…では行きます。ここまで送ってくださって、ありがとうございました」


「あ、アモウさん。これを」


「ん?」


不意に、オオムラが懐から取り出した何かをアモウへ手渡す。


それは


「…危ないな。何の真似だ、これは」


「もしもの時に使ってくれよ。弾は装填してあるし、安全装置も外してある。まあ、あいつらにはあまり効かないかもしれないけどさ」


「オオムラあ!この、ドアホゥ!拳銃渡してどないすんねん!!」


「いや、何かの手助けになればと…」


「どんな判断やぁ!金ドブに捨てる気かぁ!!何千万もかかってんねんぞ、この拳銃…」


「…ま、とりあえずお預かりしておきますよ。もしものときには役に立つかもしれませんから」


「あ、アモウさあん、なるべく撃たんといてくださいよお?始末書とか、大変ですねえん」


「そうなればいいですね」


コートのポケットに仕舞い込み、左腕に装備されたブレードを見つめる。


刃先が、鈍く、そして不安気に輝く。


エンプーサとしては、これが最後の仕事かもしれないな―


彼は重苦しい扉を開き、薄暗い廃ビルへと足を踏み入れた。







「ちょっといいですか」


車椅子に乗ったイズミの横でノートパソコンを開いていたエツコは、サクマを呼び寄せた。


「どうされました?アモウさんが心配なのは分かりますが…」


「そうじゃなくて、ですよ。これを見てください」


「秋津理化学研究所の…経理資料ファイル…?」


「わたしは経理部門だったし、ちょっと気になって調べていたんですが…」


「クラウドに保存していた訳ですね」


「それも…あの、そうじゃなくて、です。ここを見てください…」


モニターに映るのは、EXCELにて管理された支出台帳だった。


エツコがドラッグしている箇所が、ちょうど秋津理化学研究所の支出先という項目になっている。


「支出先……SOL…?」


イズミが、怪訝な声を出した。


「ソル…と読むのでしょうか?聞いたこともない取引先ですね。どこのセクションがそんな所に支出を…」


「生物学研究部門です」


「なっ…」


サクマは、声を詰まらせてしまう。


「しかも、毎月ではなく不定期に支出が出ていました」


「…何のための支出かは分かりませんが…しかし、こうやって台帳には記録があったのでしょう?経理部を通した上での支出であれば…」


「サクマさん。ここからなんです…妙なのが」


「妙?」


「…考えてみてくださいな。やましい支出なら、わざわざ台帳に記すことはしないでしょ?なのに、この支出記録はこうやってきちんと記されている…」


「もっとも、高度に暗号化されたうえでの記帳だったけれど」


車椅子に掛けたまま、イズミが含みのある声で付け足す。


「…確かに妙ですね。不正に動かした金なら、あなたの言う通り記帳の意味はない…」


「サクマさん。やはり今回の事件…一筋縄ではいかないと思うわ。この台帳…もしかしてゴンダさんからの何かのメッセージなんじゃ…」


「だとしたら…アモウさんが…危ない…!?」


「サクマさん!わたしたちも…」


「待ってください」


「え…何…!?」


「エツコさん。この台帳…複雑に暗号化されていたとのことですが、どうしてそこに気付いたのです?」


「気になって色々調べていたんですよ…今話さないといけませんか?わたしだって何かの力になりたいんだって思って…」


「そういうことを言っているのではありません。むしろ、よく気付いてくれた。私は感謝しているのですよ」


「だったら…」


「ですが、我々が危険を冒してまで、彼の下へ行くのは得策ではありません。我々に今出来ることは、そのSOLなる組織を調べることです」


サクマは、少しだけ強気に笑った。


「エツコさん。あなたの言う通りかもしれません。今回の事件、私の思っていた程単純なものではなさそうだ」


「では…」


「しかし、大っぴらに行動していては奴らの刺客に気付かれるかもしれません…ネットを利用しましょう」


「分かりました」


慌ただしい空気。


しかし、先の見えたと思っていた事柄に底知れぬ続きがあるかもしれぬ。


その事実が、サクマの肩に重くのし掛かるのであった。






アモウが立ち入ったビルは、薄暗い廃墟の様相だった。


外観こそ綺麗な建物であったが、内部は資材が散乱し、剥き出しの配線が天井からぶら下がっている。


元々、何の設備だったのだろうか。


だが非常口を示す看板が点灯していることから、電気は通っているらしい。おまけに、通路の奥に見えるエレベーターもランプが点灯している。


明らかに、人の手が入っているようだ。


だがこの異様な静けさだけは、どうにも落ち着かない。


敵が潜んでいるにしては、あまりに静かすぎるからだ。


呼吸を整え、静かにエレベーターの方を目指す。


仮面に内蔵された、スマートフォンとの連携機能が動いていないことにも気付いた。


どうやら、外部との連絡手段は遮断されているようだ。

 

何かあっても、サクマ達とは連絡が取れなくなった。


そして、程なくして彼は心臓を鷲掴みにされたような気持ちになる。


突然天井を突き破り、不意な来客が彼を迎えたからに他ならない。


その数は…


「…!?五人…!」


エンプーサを囲むようにして頭上から現れた五人は、ほぼ同じタイミングで床へと着地を果たした。


異様だったのは、彼女らが一糸纏わぬ全裸姿だったことと、顔面が醜くひび割れていたこと。そして


「…馬鹿な!?」


彼女らの顔を見て驚いたのは、その醜くさではない。


昨日の実験において、死亡した者達であったことに、だった。


被験者番号01 カキモト・カンナ

被験者番号02 カワマ・カナコ

被験者番号03 ナカムラ・ナミ

被験者番号04 ハタイケ・ハツミ

被験者番号05 テンノウジ・テルコ


イズミが持ち出した、あの資料。


そこに記載されていた被験者達だったのだ。


「どうして…」


「あっはっはぁ。驚いてるわねえ」


「!?トウコっ!」


暗がりから現れたトウコが、ニヤニヤしながらエンプーサを一瞥する。


「死んだはずの人間が何故?そんなことを考えているんでしょ」


「どういうことなんだ…この人達は昨日の実験で…」


「そ。セルアウトに失敗して死んだ奴らよ」


「なら、何故…」


「ゴンダさんはねえアモウ…人間の死体さえスプライトに変えてしまう技法を編み出していたのよ。錬金術師みたいにね」


「何だと…」


その事実にも驚きだが、アモウがもっと驚愕した点。


それは



「…どうやって遺体を回収したんだ!?俺達はずっと秋津理化学研究所にいた…警察のガサ入れが入った時にも、亡くなった人達の遺体は…」


「そう。秋津理化学研究所にあったわよねえ」


「遠くにいたお前達に遺体を回収できるはずがない!!内通者がいたのか!?」


「遠くにいた?馬鹿言わないでよ」


ケラケラと笑いこけるトウコが、五人の犠牲者達の背後に立つ。


そして、恐ろしいことを話し始めた。


「…あたし達はね。ずっと居たのよ。秋津理化学研究所にね」


「なっ…」


「あんた知らなかったでしょ?秋津理化学研究所には有事に備えた地下シェルターがあることを。あたし達は、そこにいたのよ。幾重にもセキュリティを掛けてね。あんたらがあたふたしている間にも、ずっと下に居たってことよ」


言葉が出なかった。


自分達の行動が筒抜けだったのはこの為だったのかと、エンプーサの仮面の内側でアモウは愕然としてしまった。


「あとは簡単。わかるでしょ…あんたらが馬鹿な警察共と一悶着している間に、当該の死体を回収し、地下シェルターのラボで再びスプライトとして調整した…ゴンダさんの錬金術によって、こいつらは再び覚醒したのよ!」


うつろな目で、エンプーサを見つめる五人。


彼女らは、次第に身体を変異させはじめ、やがて蟻を思わせる怪物へと成り下がっていった。


「アントスプライト…スプライトとしては初の量産型。死体がベースだから性能としてはそこそこだけど…あんたの体力を摩耗させるにはちょうどいいわ!!ぎゃははは!!」


高笑いを決め込むトウコを尻目に、アントスプライト達がゆらりと近寄ってくる。


「何処まで非道な真似を…」


「はあ?」


「何処まで非道な真似をすれば気が済むのだ!!お前らはぁぁぁぁぁ!!!」


ブレードを構えるや否や、一閃。

眼前にいたアントスプライトの首が、根本からちぎれ飛んでいた。


「非道ッ…あんたのその行いは、そうじゃないって言うの?」


転がってきた首を足蹴にし、トウコが一転して無表情になる。


「一体、あんたは何人のスプライトを屠ってきたのかしら。葬ることが弔いや情けだとか思っているんでしょうけど…そんなん、エゴよ?あんたのね」


残されたアントスプライトが、一斉にエンプーサへと飛びかかる。


だが、彼女らはその手前で体をバラバラに切り刻まれてしまった。


細切れの肉片が、薄暗いフロアにベチャベチャと音を立てて散らばっていく。


黒い血に染まったエンプーサのブレードが、非常灯の明かりに反射した。


「このまま生かしておくことが、情けだとお前は思うのか!?」


「殺すことよりは、少なくともね」


「…人間としての生を奪われ、醜い怪物にされてしまった…当人からすれば、これ以上の恥辱はないだろう」  


エンプーサが、睨みつけるような姿勢でトウコへと迫る。


「…予想外だわね、しかし。一瞬で5体を倒しちゃうなんてさ」 


「お前は俺の癇に障るんだよ…いつもいつも」


「癇に障る程あたしに関心持ってくれてるってわけ?」


「黙れ…お前もここで終わりだ…」


「いいの?トモエさんのところに案内しなくても?」


「っ…」


「そうそう…大事よねえ、あのコの事…助けに来たんでしょ?あたしを殺したりしたら、彼女のとこには辿り着けないよ。未来永劫に、ね」


呆れるように両手を上げたトウコを前に、エンプーサはブレードを下ろすことしかできなかった。


「…無事なのだろうな」


「ええ、無事よ。女を虐める趣味はないもの…あたしもゴンダさんも」


「案内しろ。どうせゴンダもそこにいるんだろうが」


《案内してやりなよ、トウコ》


不意に、天井のスピーカーから声が聞こえる。


そのやや高い声は、紛れもなく


「ゴンダ…!!」


《アモウさん。よくここまで来れたね。しかも…軍隊アリを一瞬でやっつけるたあ、驚いたよ。流石のおれも》


「黙れ!何処にいるんだ!?姿を見せろ!!」


《慌てるなよ…トウコに案内させるからさ》


「気が立ってるわねアモウ…こっちよ、こっち」


トウコが、いつの間にか灯りのついたエレベーターの前に立っている。彼女はやや不服げな顔で、アモウを待っていた。


「はやく来なよ…ったく、あんたはここで殺す予定だったのに…トモエさんなんて攫うんじゃなかったわ、ホント…」


アモウがエレベーターに乗り込む。


扉が閉まると、エレベーターは意外にも下降を始めた。


階数を示すランプを見ても、この一階から上のみ。


地下などない。


やはり、ここは奴らの根城ではないということになる。


《…おれの目的や思想を理解してくれたかい?アモウさん》


狭苦しい箱の中でも、ゴンダの声は響いていた。


「理解など出来るワケがないだろう…俺をこんな目に遭わせておいて」


《こんな目に…か。おれの思想を共感するには、まだ時間が掛かりそうだね》


「共感なぞ一生してたまるか…!」


《…そ。まあいいや…それより…》


「何だ…」


《もう、君も気づいているだろう?スプライトとなった者の共通点というものが》  


「それは俺も気になっていた…何故女性だけを被検体としたんだ…?」


エンプーサが、横目でトウコを見やる。彼女は、あいも変わらず尊大な態度で壁に寄りかかったままだ。


《…まず女性を選んだのは簡単だ。おれが極度の女性嫌いだからさ。知ってるだろう?おれがゲイだということは》


「何だと!?お前ふざけるな!!そんな理由で…」


《人体実験の被検体など、おれからしてみれば何の価値もないような人間なんだよ。だから、それで必要にして充分だった…だが、ある理由で男性も選定する必要が出てきたんだよ…》


「それが…何故俺である必要があった!?何故俺から、あたりまえの日常を奪ったんだ!!」


《話してやるとも。君は…一言で言えば異常だったんだよ。大蟷螂のある雌の個体…その遺伝子情報が、君の身体にはぴったりと適合した》


「何だと…」


《おれも驚いたよ。ここまで適合率の高い組み合わせがあったのか、とね。だがデータを採取するには、この上ない存在だ。だから君に協力してもらうこととした》


「強要の間違いではないのか…!」


《物は言いようだね。君は…スプライトの中でも完全に遺伝子情報が適合した完成体だ。だからこそセルアウトには時間が掛かるし、今もそうやって君は人間の姿を保てている》


「違う!この姿は、イズミさんが造ったセルスーツ…」


《馬鹿か。セルスーツなど何の意味も無いんだよ。君は覚醒を遅らされているんじゃあない。元々極端に遅い個体ってだけさ》


スピーカーの向こう側で、ゴンダがケラケラと笑いこける。


《そもそも即席のアンチセルゲノムなんていう特効薬が、セルアウトを抑えるわけがなかろう。イズミはイズミなりに考えて作り出したんだろうが…そんなもんで綻ぶ程おれの計画はヤワじゃねえ》


「全部自分の想定内だとでも言いたいのか…」


《そこまでは流石に言わねえ。スプライトを尽く倒してきた…君にそこまでの活躍は見込んでなかったからね。だが、裏を返せばそれは君が完成型の証明にもなったわけだ。並のスプライトじゃあ、完全なセルアウトを起こす前にここまでの活躍は出来ない》


「…改めて聞いておいてやる。ゴンダ…お前の狙いは何なんだ?何故ここまで大掛かりな真似をして…」


《…そうだな。話してもいいが、それは君が着いてからでもいいんじゃないかな》


「何?」


不意にエレベーターが停止する。


次いで扉が開いた。


《そこを進めば…会えるよ。もうすぐだ。トモエさんにもな》


「アモウ。今すぐにでもあたしはあんたを殺してやりたいんだけどさ…」


先に外に出たトウコが、こちらを振り返る。


「…死ぬ前に、トモエちゃんの顔だけは見ときなよ。もう会えなくなるんだし…」


「…分からんな。お前の崇拝するゴンダ様が俺を何度も完成型と言っていた手前、何故そこまで俺を殺せる自信があるんだ」


「…さあね。じきにわかるわよ。ここが、何処なのかもね」


「何だと…」


パッと、薄暗い廊下に小さく灯りが灯った。


アモウは、エンプーサの仮面を外してから目を疑う。


「秋津理化学研究所…!?」


「驚くこともないでしょう…あたしたちはここに潜伏していたのだから…何度言えば分かんのよ」


「まさか…」


《秋津理化学研究所は様々なパイプラインがあってね…そこも、それのひとつさ。だからこそ、おれたちも簡単に潜伏出来たわけだが》


「この先に居ると言ったな…」


アモウが、再びエンプーサの仮面を被るや否や、急速に走り出す。


その奇行には、トウコも反応が遅れてしまった。


「ちっ!急に…」


長い廊下を走る。


奥に見える扉を目掛けて、エンプーサが走る。


もうすぐだ。


もうすぐケリをつけられる。


思わず、扉を蹴破ってエンプーサは中に入り込んだ。


「ゴンダぁぁ!!!」


「…よう。乱暴な登場の仕方は感心しねえな」


「…!ここは…」


「気付いたようだね」


既視感のある部屋の奥。


その壇上で、ゴンダがソファーに腰深く座っているのが見えた。


そして、その隣には


「…トモエさん!」


「アモウさん!!」


特に身柄を拘束されるわけでもなく、トモエが立っていた。


「よかった…無事で…」


「黙りなさいよ。生きて返すと思うの」


エンプーサの前に、トウコが割って入る。


「道案内は終わりよ…それよりも驚いた?」


「…まさか、ここに繋がっていたとはな」


「そ。秋津理化学研究所。君達の行動はまるで筒抜けだったよ」


奇しくも、そこは昨日セル・プロジェクトが行われたあの部屋だった。


あいも変わらず半壊しているが、死体の山はもうそこにはない。ゴンダが処理したというのはあながち間違いではなさそうだった。


「だが、おれが差し向けた刺客を尽く君は打ち倒し、ここへやって来た。流石だと言わざるを得ないな。完成形のスペックは素晴らしいもんだ」


「俺の人生を目茶苦茶にしてくれたあんたへの…報復の為だ」


「報復、ね」


ゴンダはソファーから立ち上がると、気怠げに太い首を回した。


その隙に、トモエもエンプーサの傍らへと小走りに歩み寄っていく。


「何もされていないようだな…よかった」


「ええ…本当に、軟禁されていただけです」


安堵したのか、トモエが少し涙ぐんで顔を背けるのが見えた。


「…ゴンダ。悪いが、俺は例えあんたでも容赦はしない。落とし前はつけさせてもらうぞ」


「落とし前え?残念だよ…君のことは友人だと思っていたのにさ」


「黙れぇ!!友人として敬い、そして上司として尊敬していた人間にこんな形で裏切られた俺の気持ちを…あんたはこの2日間で考えたことがあったのか!!」


エンプーサが、前に出る。


「俺はあんたを尊敬していた…!そして、この秋津理化学研究所で出会えた友人だとも思っていた…だからこそ、俺は俺なりにセル・プロジェクトを応援していた…!その結果が…」


「この有り様だと?言うようになったね、アモウさん」


「何だと…」


「君の気持ちは嬉しいよ。でも、だからこそおれは君の力を借りたかった…許してくれると思っていたんだ。全ては医療の発展…人間の進化の為にな」


「進化だと…?まだそんな寝ぼけたことを言っているのか…」


「じゃあ、君は退化だとでも言いたいのか?違うよ。退化しているのは人間の脳みそだ。医療の発展を諦めた、秋津の役立たず共みたいにな」


「だから、スプライトになれと?」


「スプライトになることが、イコールにして進化だとは思わないよ。あくまでも過程にすぎん。問題は、その姿を受け入れ、どう生きるか…そこまで考えてこそ、初めての進化だ。アキノのようになあ?」


「わたしもね」


トウコの姿が、ワスプ・スプライトへと変わる。


今度こそ、こちらを倒さんと殺気立った雰囲気で顎をカチカチと鳴らし始めた。


見るに耐えない、下品で醜い蜂女だった。


「アモウ。あんたには何を言っても分からないわよ、ゴンダさんの偉大さなどね。だから、ここで終いになさいよ。トモエさんと一緒に」


「トウコ!!何時までそんなことを言ってる!?何故あいつのやっていることが酔狂だと分からないんだ!?くだらぬ崇拝の真似事なぞやめろ!!」


「うるさいわね、相変わらず。…わたしは、ただあんたが死ねばそれでいいのよ」


ワスプ・スプライトが迫る。


「ゴンダさん。もういいですよね?いい加減にこいつは消しておきたいんですよ…」


その口元の牙が、ガチガチと音を立てた。














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