第8話 前世2

「あの子がね、帰ってくるのよ。子供ができたって。孫よ! 私もおばあちゃんになるのよ」

「そうよ、ここに住むのよ。旦那さんが同居してくれるって。あの子、いい人捕まえたわよ」

「あら、“お姉ちゃん”にいってなかった? 東京に行って2年くらいだったかしらね。結婚したい人がいるって。チエコ叔母さんの13回忌の時にお父さんと法事にいったでしょう? あの時にご挨拶もしたのよ。結婚式は二人だけでハワイでやるっていってね。ほら、“お姉ちゃん”にボーナスを入れてもらったときよ。お金だけとって式に参加させないなんて仕方ない子よね」


「連絡? させてたわよ、当り前じゃない。年頃の娘が東京で一人暮らしするっていうのに放っておけないじゃない。毎月ちゃんと連絡したら家から仕送りしてあげるっていったからね、あの子も欠かさずに連絡よこしたわよ。そういうところはしっかりしてるのよね」


「ねえ、“お姉ちゃん”は貯金いくらくらいある? あの子が帰ってきて、旦那さんも同居してくれて、孫も生まれるとなるとこの家もちょっと手狭じゃない? 庭を潰して増築したらどうかと思って。“お姉ちゃん”が下に降りて、2階にあの子達が住んだらいいと思うのよ。“お姉ちゃん”だって若夫婦と同じ階の部屋なんていろいろ気を遣うでしょう?」

「え? 家を出る? ダメよ! これからあの子のお産となればお金も人手もいくらあっても足りないんだから。もうわがまま言ってる場合じゃないのよ? しっかりしてよ、“お姉ちゃん”」

「家を出るとかより結婚のことを考えたら? もう30歳になるでしょう? 娘はね、結婚して親に孫の顔を見せてくれるのが一番の親孝行なのよ。“お姉ちゃん”もそろそろあの子のことを見習ってちゃんと親孝行してよ」



言葉を失った“私”を気に掛けることなく、“お母さん”は機嫌良さそうに部屋を出て行った。はらわたが煮えくり返るとはこういうことだろうか。体がカッと熱くなる。一人になりたくて、“私”は自室に駆け込んだ。


私だって東京の大学に行きたかった。どうせ奨学金という借金を背負うなら、好きな学校に行って一人暮らしをしてみたかった。毎月仕送りをしていたの? 妹は結婚してたの? 私のボーナスを妹に渡して海外で結婚式をやらせたの? なのに、“私”には知らせなかったの? 私には奨学金背負わせて、給料を半分も入れさせて、ボーナスだってださせて、家事までさせて、土日は買い物だ病院だって車を出させて。お金も時間も本当はもっと自分のために使いたかった。でも“お母さん”は大変だから、“お母さん”の支えになろうって、親孝行しようって思ってやっていたのに。“お姉ちゃん”だけが頼りだって、“お姉ちゃん”のほうが良い子で親孝行だっていってたじゃない! 妹が親孝行? 妹を見習えって何? 私が妹みたいに暮らしたら、誰がお金を出して家事をやってくれるの? 孫が一番の親孝行? 今までの私のしてきたことは全部なかったことになるの? 都合のいい時も都合の悪い時も、“お姉ちゃん”っていえば解決なの?


妹のわがままがなければ“お母さん”は優しいなんて、大間違いだ。“私”はバカだ。親孝行とか、頼りになるとかいわれていい気にな

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