第41話 燃え尽きる星
うちはステージに立つ八人を見つめた。
アイドルバトルはトーナメント戦になっている。エリちゃんの初戦は、TDK49 のメンバーだ。かなり大きなグループで、昔から活動している。
だけど、パフォーマンス力で言えば、エリちゃんが負ける相手じゃない。
課題曲は、昭和アイドルのソロ曲。難しい音程が多いので、どちらかといえば、歌唱力が物を言う。
大して、自由曲は……ほんと、それぞれのアイドルの色が出ていた。
エリちゃんは無難に、ソロ曲で勝負。
「『プリティガール』って、小田切が一番恥ずかしがった曲だったと思うんだけど?」
美緒ちゃんがステージで可愛さを振りまくエリちゃんを見ながら聞いてくる。
プリティガール。この曲は、ひたすら可愛い。
ひたすらエリちゃんが可愛いアイドルとして動く曲で、うちは心の中でサイリウムを振りまくっていた。ああ、もう、ライブだったら飛び跳ねてるくらいなのに。
うちは心の中のオタク心を抑えつつ、美緒ちゃんに答える。
「そうですよ。エリちゃん、練習中も恥ずかしそうでしたから」
「それでも、『プリティガール』を選んだ理由は?」
アイドルバトルは自由曲でしか、自分の売りを出せない。なら、決勝に近い方で得意な曲を持ってきた方が有利だ。
パフォーマンス後の会話でも、話のタネになるし、色々話せる方がいいに決まっている。
いい意味で、一回戦はエリちゃんの眼中になかった。
「負担が少ないソロ曲だから、です」
「推したのは瀬名だろう」
「そうですけど」
よく分かるなぁと美緒ちゃんを見つめる。
『プリティガール』は、可愛いけど、激しいダンスや歌うのが難しい部分はない。
振付も踊ると言うより、ひたすら可愛いポージング。だからこそ、エリちゃんは苦手なんだけど。
エリちゃんが優勝するためには、3回、6曲をフルで踊って歌う必要があった。
なるべく体力を使わない方がいいと、うちは考えただけだ。
「よく考えられているよ。ほら、小田切は万全だ……あれで体調不良なんて、誰も信じないだろう」
うちは、美緒ちゃんの言葉に頷いた。
エリちゃんは『プリティガール』を全力でパフォーマンスしている。
可愛い笑顔や振りを振りまくたびに、男性審査員はにやけている。
女性審査員でさえ、エリちゃんの顔の良さに目を細める始末。
「よーく見ておけ、瀬名。あれができるかが、アイドルとして売れるかのポイントだ」
「あれは天性のものですよねっ。マネできませんって」
「いずれ、絶対役に立つ。瀬名はアイドルを見極める目はあるからな」
「嬉しいような、悲しいような」
こんな軽口が叩けるくらい、一回戦は楽勝だった。
見極める方法を伝授されても困るんだけど。
うちは美緒ちゃんとの会話を切りあげ、ステージを降りて来るエリちゃんを迎えた。
「お疲れ、エリちゃん。大丈夫?」
「うん。まだ、全然。あと、二回」
そっと肩を支える。
体温は平熱。だけど、いつもより汗をかいている気がする。
眉間に力が入るが、うちは笑顔に切り替えるとエリちゃんを椅子に誘導した。
「とにかく、休んで。水持ってくる」
なるべく、温かく。
うちはエリちゃんの肩に上着をかける。それから、水やお菓子を取ってくるため席を立ったのだけれど。
「ううん、ここにいて」
体が引っ張られる。エリちゃんの指がうちの裾を掴んだ。
首を傾げつつ振り返れば、エリちゃんの上目遣いとかち合う。
可愛い。さすが、プリティガール。
「少し、休むから。すぐに、起こして」
「……はい」
その言葉のまま、隣の椅子に腰かける。
まるで力の抜けた人形のように、隣に座れば、すぐにエリちゃんの頭が肩に寄りかかってきた。
周囲の視線が突き刺さるも、それどころじゃない。
だって、肩に顔を埋めるようにするから、エリちゃんの吐息がめっちゃかかる。
「尻に敷かれてるな」
「しー、静かにしてください」
美緒ちゃんの呆れたような視線にうちは慌てて口の前で人差し指を立てた。
エリちゃんの睡眠は何より大切なのだ。
あわせて周囲を確認するように伺うと、星野さんにも見られていた。
小さな笑み。どう取っていいか分からないうちは、子小さく頭だけを下げる。
「行ってくるね」
「うん……無理だけはしないでね」
きっちり、10分だけエリちゃんは寝た。
起きるとすぐに体を動かして、水分補給をしている。
その姿は、朝、点滴をしてきた人には見えなかった。
スタンバイの声がかかり、エリちゃんは準決勝に足を進める。
「キレッキレだな。ライブより気合入ってるんじゃないか」
準決勝の曲は、先ほどと反対に、課題曲が踊る曲だった。
平成の歌姫の曲で、踊る割に歌も気を抜けない。うちだったら、絶対途中でどっちか諦めてる。
それをエリちゃんは、眉一つ動かさずやってのけた。
本物をトレースするような動きに、間奏ではウインクまで飛ばす。ずるい、うちもエリちゃんのウインクを受けたい。
応援しなきゃいけないのに、うちは半分、観客のような気持ちで手に汗を握っていた。
美緒ちゃんは流石に冷静で、顎に手を当ててエリちゃんの様子を見つめている。
「いや、気合を入れないといけないのかな」
「どういうこと、ですか?」
その言葉に不穏な匂いがした。
横目でうちを見た美緒ちゃんは、まるで見当違いのようなことを聞いてくる。
「瀬名、星が一番輝く瞬間って、いつか知ってる?」
「へぇ?」
そんなこと、いきなり聞かれても分からない。
すっとぼけた声が出たうちに、美緒ちゃんは苦笑を深める。
「ロウソクと同じだ」
「ロウソクも星も見たことがないです……」
「現代っ子め」
そう言われても事実。
ロウソクが燃える様子を見つめられる現代人はいないんじゃないだろうか。
うちの答えに、美緒ちゃんはくいとエリちゃんに顎を向けた。
「燃え尽きる瞬間」
「え?」
「二つとも、燃え尽きる瞬間が一番輝くって言われてるんだよ」
星の最後は、爆発して終わる。その時が一番輝く。
ロウソクも燃え尽きて消える瞬間が、一番炎が大きくなる。
美緒ちゃんの説明によれば、そういうことらしい。
うちは眉を顰めずにはいられなかった。
「小田切のあれも、それに近いな」
美緒ちゃんがステージを見る。
ステージで自由曲を踊るエリちゃんは、誰よりアイドルだった。
歌って、踊って、審査員へのアピールもばっちり。
そりゃ、センターも任せられるし、トップアイドルとも呼ばれる。名称にぴったりのオーラみたいなものが、エリちゃんから立ち上っていた。
『結果は98点の小田切エリの勝利です!』
「ありがとうございます」
準決勝も、高得点だった。
相手が90点だったことを考えると、圧倒的だろう。
眩しい笑顔で頭を下げたエリちゃんが顔を上げる。
言い終わるのと、その身体が傾くの、どちらが早かっただろう。
エリちゃんが膝をついた音がここまで聞こえてきた。
「っ」
エリちゃん、と飛び出しそうになった声を手で抑える。
収録は終わってない。膝をついたエリちゃんに、カメラはすぐに別の方向に向けられた。
うちは、声も出さずに駆け寄る。その視界の端でカメラランプが消えたのが見えた。
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