第3話 お風呂上がりの野良猫
目覚めた陽菜をリビングに待機させ、夕食を作る。
高宗家の食事は基本的に俺が用意する。両親は海外にいるし、千冬姉が料理すると台所が大惨事になるし。
ささっと夕食を作り終え、陽菜と一緒に食べる。
苦手なのか、陽菜はサラダに入っていたきゅうりだけ皿の端に追いやっていた。
猫ってきゅうりに驚くけど、あれは天敵だと思っている説があるんだよな。きゅうりの成分的には猫に食べさせても問題ないらしい。
食事を終え、ぱぱっと皿洗いを済ませ、これからの生活について陽菜と話し合う。
「第一に、高宗家の決まりを守ること。あまりやんちゃするようだと、追い出すことも視野に入れるぞ」
「りょーかい」
「あとは……生活用品も揃えないとな。今夜の着替えは千冬姉のお下がりがあるとして、他の生活に必要なものは買ってこないと」
リビングのソファに腰掛けながら、二人で色々と話し合う。
そうしているうちに夜になった。
明日も学校がある。
今日は早めに風呂に入って寝るか。
「風呂、お先にどうぞ。着替えはこれを使ってくれ」
「女もの……千隼は女装するの?」
「しない! これは姉のお下がりだ! というか、さっき伝えたよな?」
「冗談。お風呂入ってくる」
陽菜は真顔で俺をからかい、着替えを受け取ってリビングを出た。風呂の場所は伝えてあるので、迷うことはないだろう。
ソファに座ってぼんやりしていると、風呂場のほうで水の音が聴こえた。
……いま同級生の女子が俺の家で入浴してるんだよな。
そう考えると、なんだかドキドキする。
「やめるんだ俺。深く考えるな!」
このまま妙な思案に耽っていたら、大変なことになるかもしれない。主に俺の股間が。
心を無にして陽菜が戻るのを待つ。
それから十分ほどが経過し、風呂場のドアがガラガラと開かれる音がした。
もう上がったのか。女の子にしては入浴時間が短い気がした。千冬姉は一時間ほどスマホを弄りながら風呂場を独占するのに。
ぺたぺたと素足が床を踏む音が近づいている。
「どうだった、何か不便なことはなかったか――」
リビングに現れた陽菜のほうを向いた瞬間――俺は絶句した。
「ん……良いお風呂だった」
そう言ってバスタオルで髪を拭いた陽菜は、全裸だった。
一糸まとわぬ姿で、着替えを小脇に抱えて立っていた。
白く透き通った素肌が俺の視線を釘付けにさせる。
スレンダーな身体は、しっかりと女性的なくびれと丸みを帯びていて……手のひらで包み込めるぐらいのほどよいサイズの胸は柔らかそうで……綺麗な形のへそから下は……いや待て待て、そこを注視するのはまずい!
「な、なんで服を着てないんだ!」
「お風呂上がりだし」
素っ裸の野良猫系女子は、さも当たり前のように言った。
なるほど、小鳥居陽菜さんにとっては風呂上がりに全裸で歩き回るのは普通のことだと。
「俺がいるんだから、せめて下着ぐらいは身につけてくれ!」
「でも、まだ身体に水気が」
「早く拭くんだ!」
バスタオルで身体を拭いた陽菜は、無事に服を着てくれた。
ふう、助かったぜ。危うく俺の股間がいきり立つところだった。
「千隼の顔が赤い……風邪引いた?」
「誰のせいだと思ってるんだ!?」
「私、風邪引いてないし、うつすことはない」
「そういう意味じゃない!」
本当にこの子は……マイペースで天然で……無防備にもほどがある。
異性として恥ずかしいとは思わないのか、顔が赤くなっている俺とは真逆に陽菜の顔色は全く変わりようがなかった。
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